「…………良かったっスね、歌帆先輩」

扉の向こう側で、2人が纏まった気配がした。

万が一、もっかい部長が歌帆先輩を傷つけたりしたら、今度は容赦なく掻っ攫うつもりでおったんやけどな。

ふぅ、と小さく息を吐いて、壁に凭れさせとった背中を離し、保健室を後にする。



***



「財前!」
教室に戻ろうと歩を進めとれば、前から謙也さんが走ってきた。

「なぁ、白石と歌帆見んかった?あいつら1限目からずっとどっか行きおって……」
「部長らなら保健室におりますわ。ちゅうか今行かんほうがええっスよ。行ったら間違いなく馬に蹴られますんで」
「そか。何があったか知らんけど、元の鞘に収まってよかったわ」

一安心、と言わんばかりの笑顔を浮かべて謙也さんも踵を返し、俺の隣に並ぶ。


「おおきにな、財前」
「は?」
出し抜けに何の礼やねんと思って謙也さんを振り返る。

「何やしてくれたんやろ?あの2人の為に」

2人に代わって礼言うとくわ。

そう言うた謙也さんは、どこか慈愛に満ちた顔をしとって、ホンマは部長と歌帆先輩の間におこったことも、俺が歌帆先輩に想いを寄せとったことも全て知ってるんやないかと思えた。

こういうトコはホンマ敵わへんな。

謙也さんにども、と返して後ろを振り返る。


「……部長」

今度はちゃんと大切にしたってや、歌帆先輩んこと。

でないと次こそホンマに俺が奪いますで?

見えない相手に宣戦布告のようなエールを送った。



ー16ー


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