肩に背中に感じる他人の生きている熱が酷く気持ち悪い。なれないパンプスは足を容赦なく痛めつける。気休めにと貼った絆創膏の下からじくじくと熱がこみ上げてくる。扉のすき間からマヌケな音をたてて吹きこんでくる風と『扉に注意』のステッカーが貼られた冷たい窓だけが救いだった。ガラスの脂っこい曇りに触れてしまわないように、手の平の熱をそれに移しながらできるかぎりに腕を突っ張る。窓からわずかに薄暗いトンネルの天井がみえたのと同時にため息がでた。これから毎日、この人にもまれキャンパスの広大さだけが売りの大学にかよわなければいけないのか。
 特になにかやりたいことや夢があったわけではない。入れるトコロに入った。ただ、それだけ。背中にキャピキャピとはしゃいだ声が当たる。イヤホンから注ぎこまれるデジタル音に聴覚神経全て捧げるつもりでその声を遮断した。繰り返される歌詞は青春を謳歌しよと叫ぶ。いくら反芻しても、そのことばは飲みこめそうになかった。
 腹部にぐっとおされるような感じがして、電車が減速していることに気づいた。がくんとゆれた拍子にキャピキャピ声の持ち主に不意に背中を押された。突っ張っていた腕がずれて脂っこい曇りを手の平が拭いさるように滑った。舌打ちと同時に扉が開き、人波に押しだされ流される。入学式へと向かうスーツ姿の没個性集団に溺れて溶けた。

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