コインランドリーの助言


 ごうんごうんと水と踊るジーパンをみて思う。いや、やっぱなにも思わない。俺は無になる。
 沢山の洗濯機が一面にならぶここは相変わらず明る過ぎて頭に痛い。清潔感を気取った白い壁や床が、気を張りすぎている蛍光灯を助長するかのように光る。
 そろそろ、愛しいコンパクトな我が家にも洗濯機の一台でも欲しいと思う。だが、残念なことに場所も金銭的余裕もない。


 ぎゅんぎゅんと水分を取られていくポロシャツをみて思う。無になるのは難しい。
 そういえば、「お前はいろいろと考え過ぎる」と、両親に言われた。「お前はいつも顔面に苦悩を貼付けて歩いている」と、親友がいたずらっぽく言って笑った。「君は悩むよりも先に行動を起こしてみるべきだ」と、恩師に言われた。
 付き合っている彼女に「あなたは常になにかを考えているけど、私はそれがわからない」と言われた。少し距離を置きましょうと。


 ぶわんぶわんと飛ぶパンツと靴下をみて思う。やっぱりこの二つはネットに入れるべきだった。
 時計の針は二時を指している。深夜のコインランドリーのベンチは冷たい。自動ドアの開く軽い音がしたが気にも留めず、思考を巡らす。何故ここはこんなにも眩しいのか。否、彼女はどうしたら帰ってきてくれるのだろうか。

「青年よ、何故そのような悩ましげな顔をしているのだ」

 背中から歌うように声をかけられる。振り向けば今入ってきたのだろう煤けたおじさんが立っていた。
 深夜のコインランドリーで見ず知らずのおじさんに声をかけられる。少しこわかった。

「悩んでいるからですよ」

 おじさんはきょとんと首を傾げてみた。可愛くはない。

「悩む必要なんてない。悩みなんて全て」

 おじさんは着ていた煤けた服をぽいぽいと脱ぎ、空いていた洗濯機に入れた。

「洗濯機に入れて、洗って、絞って、乾かせばいいのだよ」

 ランニングとトランクス一枚になったおじさんが誇らしげに言った。

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