ミキゲン!

「つめてぇ」
 ガクガクとふるえながら、カチコチのスーパーカップに木のスプーンをつきたてるながら歩く姿はすごくシュールだ。といえば、なんとなくかっこよくきこえるが、実際は酷く馬鹿らしい。
「理解に苦しむよ」
 ようやくすくいとったらしい茶色のやつを口に入れ、んーと目も口も横に長くする。
「このくそ寒い中、アイスを食べる。これこそ冬の醍醐味だろうが」
 わかってないなーお前は、はいあーん、と白く息をこおらせながら、茶色くこおったチョコレートを突きだしてきた。とりあえず無視して、手の平のなかで熱を垂れ流していたココアの缶の蓋を開ける。一口ふくむと、ほど好い甘さとあたたかさが体中にひろがった。
「お前ってやつはー」
 長い体でしな垂れかかってきやがったので、テンプルに一撃をくらわしてやった。

「お前ってやつはー」

 手加減なしかー、とこめかみをさすりながら叫ぶおバカを横目にココアを飲み干す。
 冬の夕方はあっという間に夜にのみ込まれる。そんな中、煌々と光を放つ自販機の横にあるごみ箱に向かって歩みをはやめた。軽い音を吐きだして、ココアのスチール缶をのみ込んだごみ箱をなんとはなしにみつめていると、肩を叩かれた。

 ずれさがったギターケースを背負いなおして振り向くと、あいかわらずガタガタとふるえる三木玄がいた。
 わななく左手にのっかっているスーパーカップをみて、そういえばアイスって賞味期限ないよなあ、なんてどうでもないことを思い出した。

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