ライブ

 プロジェクターから照射される映像がちりちりと寝不足の目を焼いた。諸手をあげて崖から飛び降りるひとびと、ただの数字でしかなかったひとの命と生ごみでしかなかった体、モノクロの映像にぼんやりとうかぶ白い炎、それからスクリーンをみるとはなしにぺちゃくちゃと口を動かしつづけるダイガクセイ。月曜日の朝一にこんな映像をみるから一週間ずっと頭がごにょごにょするんだとこの授業が終わればつぎの教室でだれかに愚痴をいうことになるのだけれど、いまのわたしの瞳ではじりじりと白い炎がゆれている。何百人と人間を収容できるこの教室の前から三列目の硬い椅子に座って、教授がほかの学生を注意する声をもうるさいな、冷房が効きすぎてさむいな、と剥きだしの腕を頻りと擦りながら九十分をただ目と脳を焦がしてすごす。
 目の前でいくつもの命が消えていく、安っぽい漫画で描かれるようなきのこ雲は一瞬ですべてのものをこの世から消し去る。百聞は一見にしかずとはよくいったもので、視覚資料の印象は起き抜けの頭には鮮烈すぎる。八百万の文字を追うより、この数分の無声動画をみるほうが、それが確かにそこにあったんだとひとびとに訴えかけるだろう。でも、結局フィルム通した映像は他人事であり、教授の口から一秒ごとに吐き出される単位をとろうと机に突っ伏し、友人との会話に花を咲かせ、ノートにひたすら英単語を綴る人間にはなにも届かない。夏休みには韓国でショッピングをし、中華料理に舌鼓を打ち、沖縄やサイパン島のビーチで若若しい体を晒す彼らはいましかいきていない。
 白黒の映像のなかでひとが死ぬ。走っていたひとが突然倒れて動かなくなる。ぺちゃくちゃとおしゃべりはつづく。高い鼾がきこえる。この映像に色がついて、画面の右上に『LIVE』という文字が表示されてもこの教室はきっとなにも変わらない。なにも変わらない。

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