愛するために生きている

「いまの顔のまま男に生まれたかったな」

 佐々が餃子の具をきれいに皮に包みながらいう。長い睫毛は下をむいて、一度ぱちりと瞬いた。俺は具をつめすぎてしまうらしく、皮にきれいなひだが作れない。

「なにを突然」

 これまた突然みどり色のエコバッグにニラやら豚挽き肉やらをぱんぱんにつめて俺の部屋に押し入ってきて「餃子パーティーしよう」といたずらっぽくいった顔もいまは真剣そのものだ。餃子作りとさっきのことばのどちらに真剣なのかははかりかねるけれども。

「ほんとイケメンだよね! 佐々が男だったらめっちゃ付き合いたいのにぃ」
「え? なにそのテンション」
「高校のときだいすきだった子にいわれた」

 いまもだいすきなんだけど、餃子を包む手はとめることなく佐々は端整な顔を緩める。
 大学で知り合って全力でなかよくなった佐々は同性愛者だった。ついでにいうと俺も同性愛者なんだけど。
 確かに佐々はイケメンだ。イケメンというか、とても整った顔をしている。
 長い睫毛に縁取られたはっきりした二重の涼しげな目。すっと通った鼻筋に、きれいに弧を描く唇。いつもシンプルな服を来ていて、それが逆に素材そのものよさを引き出しているようにみえる。細身のパンツは、ほかの女の子たちのように肌を露出させなくてもその均整のとれた体を世の男たちの目に晒している。まあ、そんなこと佐々はイチミリも望んじゃいないのだろうけど。

「ほら、その一物引きちぎってくれればいいから。そしたら、わたしの無駄な胸あげるし」

 お互いそっちのほうが案外しあわせかもしれない、佐々は指先を濡らして粉っぽい餃子の皮の縁をくるりとなでる。
 佐々の胸はきれいだ。性的に、といいよりも造形的に。なくなるのはもったいない、と思った。

「ばかなこといってないで餃子焼いてしまおうか」

 耐えられないというように吹きだした佐々が立ちあがった。
 俺も佐々も同性愛者だ。でも、異性になりたいわけじゃない。
 同性愛者だから辛いとか、報われないとか、想いを告げれないとかいうつもりはない。ひとはみんな恋をすれば辛いし、苦しいし、死にたくなるほど悩むものなんだと佐々がいっていたから。

「いま流行りのはねつき餃子にしようか」
「はねってどうやってつけんの」

 そこには、マジョリティだとかマイノリティだとかの違いはないんだ、と。

「小麦粉だよ。小麦粉」

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