Clap
ふと気になったので、ジャーファルはアラジンとモルジアナを呼び止めた。
「そういえば、アラジン、モルジアナ。二人とも、靴はいりませんか?」
まずそう告げたジャーファルの視線は、向かいに立つ子ども二人の足元に注がれていた。ジャーファルに言われ、アラジンとモルジアナも自分の足元を見下ろす。
生え揃った芝生を踏む三対の足のうち二対は裸足だ。サルールから細い足首を出しているのがアラジンのもので、しなやかに伸びた足の首元に装飾品を付けているのがモルジアナのもの。ジャーファルは懶漢靴に似た靴を履いている。
三人揃って頭を垂れて足元を見下ろしていたが、話を続けようとジャーファルがまず顔を上げた。
「気になってはいましたがバルバッドではそんな暇もなかったので……。もし必要なら用意しますよ」
どうですか、とジャーファルに尋ねられ、アラジンは顔を上げるとことりと首を傾げた。モルジアナも同じく顔を上げ、首こそ傾げなかったものの胸中はアラジンと一緒のようで思案顔だ。
しかしそれも束の間の事で、モルジアナはまっすぐにジャーファルを見ると「私はいりません」と答えた。それに続けてアラジンも「僕もいらないよ」と頷く。
「確かにたまに小石や枝を踏むと痛いけれどね。もう慣れちゃったよ」
「私は……むしろ靴を履いていた記憶がないくらいなので。このままがいいです」
各々問いに答える。そうですか、とジャーファルも頷いた。
「それにね、おにいさん」
「何ですか?」
「地面に直接触れるのがとっても楽しいんだ」
アラジンはそう言って、足元の芝生を足裏で撫ぜるように足を動かす。
聖宮で過ごしていた時には床の冷たい感覚しか覚えのなかった部位が、今では土の乾いた感触や水の冷たい感触を知っている。草の上を歩けば擽ったいし、日当を歩けば温かい。それらはきっと多くの人にとっては当たり前なのだろうけれど、自分の足で世界に立っているという実感が込み上げ、それが何よりも嬉しいのだと、アラジンは語った。
それを聞き、モルジアナも微かに笑う。
「私もアラジンと一緒です。チーシャンで奴隷だった頃は何も感じられなかったけれど、今は足に触れる全ての感覚が楽しくて、嬉しいです」
それは、彼女の足が自由になったから。アラジンも外の世界を思うままに歩く事が出来る。
自分の足で歩み、好きな場所へ行ける事の喜びをアラジンとモルジアナはジャーファルに語った。それを遮る事なくジャーファルは最後まで聞き留め、それから、何も履かない両足でぴんと立つ子ども二人を眩しそうに見た。
きっと二人はこれからも、何も纏わない足で世界を踏みしめ、歩いていく。
小さいけれど強かなその姿を想像して、ジャーファルは小さく笑った。
アンダンテ・ヴィヴィッシモ
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