3 | ナノ



※前回の続き。
※やっとR18…






 剥き出しになった上半身に、シズちゃんはさっきから気持ち悪いくらい優しい愛撫をほどこしている。暖房をつけている筈なのに、その節張った指は驚くほど冷えきっていて、触られるたびに体温を奪われていってしまうのがなんだか切ない。手が冷たいひとは心が温かいのだと、幼い頃母に教えられたけれどシズちゃんに限ってそれはないなと思った。心が温かいひとが、俺とこうして触れ合える筈なんてないのだから。


「シ、ズちゃん…も、そこ…いいから……」


延々と飽きもせず胸の突起を弄くり回すシズちゃんに耐えかねて声をあげると、シズちゃんは何も言わずに無表情な顔でちらりと俺と目を合わせると何を考えたのかわからないが今度はそこを舌でべろりと舐め上げた。


「ひ、うぁっ…」


たまらず嬌声をあげてしまうと、シズちゃんは気をよくしたのかさっきまで指でやっていたのと同じように、舌を丸めて乳首を弄くり始める。暖かくぬるりと濡れた舌の先端が触れるたび、身体の奥がどうしようもなく焦れて焦れて仕方ない。それを伝える術をもて余して、自然と腕をシズちゃんの肩へと回してしまう。ぎり、と力を込めて掌を握り締めると、それに反応するように器用に舌が動く。


「っゃ、…し、ず…ちゃあ…も、いいって、ば…」

「ちょっと舐めただけで、こんなにして、お前ってほんとに、」

「っうるさい!…ってか、優しくするんじゃ、…ないのかよ」

「俺なりの優しさだ、臨也君?」


などと、得意そうにニヤつくその顔を今ほど蹴飛ばしたいと思ったことはない。しかしその顔の主に今この場所で欲情してしまっているのは間違いなく俺なのだ。認めたくない事実だが、下半身から判断してもそれはどうにも認めざるを得ない現実だった。男の身体は本当に即物的で、ああまったく、本当に嫌になる。俺が反論できないことに嬉しそうに微笑むと、シズちゃんの手は胸から俺のズボンのベルトに向かった。焦らすようにゆっくりと留め具を外し、するりするりとズボンから抜き去っていく。するなら早くしろバカ!と怒鳴りつけたい気持ちをどうにか抑え込む。これ以上シズちゃんに負けた事実を俺の心に刻み付けるのはごめんだ。


「ああ、ちゃんと勃ってんな、」


性器が外気に触れたと感じた瞬間、シズちゃんの手がそれを覆う。どこからかローションを取り出していたようでシズちゃんの手からひんやりと冷たく、淫らにぬめった液体が性器に塗り込められる。最初こそその冷たさに萎えかけてしまうが、ゆるりゆるりと優しくしごかれるうちに快楽がはっきりと形を表し出す。



「あ、…はっ、ぁ、や…っ…んん、しうちゃ、…んぁっ、や、…きもち、いぁっ…」

「はは、良かったなぁ、臨也ぁ」

一人でするときには声なんか絶対に出したりしないのに、シズちゃんに触られると俺はおかしくなったように自分の本心がわからなくなる。声なんか出してやりたくないのに、部屋に響く情けない喘ぎ声は紛れもない自分の声だし、もっとして、と快楽のおかわりを要求する淫らな囁きも聞き慣れた自分の声なのだ。


「あ、シズちゃ、シズちゃっ…もっと、…ぁ、激しく…て、あっ」

「っ…」


ああ今、シズちゃん素で照れたな、と思ったけれどその顔を覗き込む余裕は残念ながらなかった。要求通り激しくなる掌の動きに、とうとう耐えきれなくなって、回していた腕にぎゅっと力を入れて射精感に備える。


「んっ…あっ、あっ、も、イく……イッちゃ…っあっ…あ、んんっ…!」


どくどくと、シズちゃんの手の中で性器が欲を吐き出すのを目を閉じて我慢する。恥態を天敵の前にさらすのはいつになっても慣れやしない。いったいどうしてこんなことを始めてしまったのか、そのときの俺を今からでもいい叱りにいきたい。そんなことを思いながら、射精の余韻にひたる。と、ここで俺はなにかの違和感に気づく。いつもシズちゃんとセックスをするときには、シズちゃんのを入れる前に俺の身体をならす為、先に俺が一度イかせられることが多い。しかしそれはあくまで入れるための作業行程でしかない。だから俺はイったあと、すぐに後ろに指を入れられる。本当はそれが辛くて堪らなかったけれど、辛いから少し待って、だなんてシズちゃんに言うのは馬鹿げたことだから俺は黙ってそれに耐えていた。しかし、いま、シズちゃんは指を入れてこようとしない。それどころか、俺の性器から手をどかしてすらいない。感じた違和感はこの状況自体にだった。


「っは…、シズちゃん…なに、してる、の?」


荒い息を整えながら恐る恐る尋ねる。


「…なにが?」

「…なにって……その、続き、…しないの」

「は、するけど」

「…え、じゃあ、早くしなよ?」

いまいち煮え切らない態度に苛ついたように俺が急かすと、シズちゃんは合点がいったというような顔をして笑った。


「ああ、…手前、今イッたばっかでつれーんだろ?だからわざわざ待ってやってんだ。それぐらい察しろ、バーカ。」

「……は、」


え、ちょっと待って。
なに、それ。


目を白黒させて戸惑う俺を馬鹿にするようにシズちゃんはまた笑う。


「優しくするって言っただろ」



あ、俺いま絶対、耳まで真っ赤になってる。

こんなこと自覚したの、生まれてはじめてだ。つーか、コイツ、今自分がどんな顔で何を言ったかわかってるんだろうか。もし無自覚でやってのけたんだとしたら俺は一生シズちゃんに勝てる気がしない。色んな意味で。


「っ…馬鹿だろう、きみ」

「ああ?…俺がなにしたって、文句言わねーんじゃねえのかよ。あれは嘘か。」

「嘘じゃない。…嘘じゃないさ。」

「んじゃ手前の今の言葉は、文句じゃなけりゃ何だ?おねだりか?」

「…もっと違う。…いまのは、シズちゃん、きみに対する警告だよ。」

「あ?ケイコクだぁ?」


そう、俺から君への警告。たぶん、最初で最後のね。


「…優しくなんて、すんな」


「は?」

「……優しくなんてしないでよ、お願いだからさぁ…。」


声が震える。みっともないと思うけど、だってこんなの、どうしようもない。泣くときに涙が出ることとおんなじだ。心を吐露するとき、声が震えるのは、どうしようもないことなのだ。


「…俺に優しくされんの、嫌なのかよ」

「はは、そんなの…当たり前だろ?俺は誰だ…?きみは誰なんだ…?…折原臨也と、平和島静雄だろ。どう考えたって"優しくする"相手が間違ってるよ、シズちゃん。…きみがすることに俺は文句は言わない、確かにそう約束したね。でもそれは"心を繋がないために"っていう前提条件があったから成立した約束だよ。…シズちゃんが俺に優しくするのは、そんなの、条件がなりたってない。……だって、」


だって、きみに優しくされたら、俺は"シズちゃん"を好きになるのをやめられないと、思うから。



「俺は、シズちゃんを、好きになりたくない…」


声にならない声で訴える。シズちゃんは何も言わない。ちがう、言えないんだ。俺だって、シズちゃんが本気で俺に優しくしているわけじゃないことくらい、わかっている。酒に酔ったうえでの、ぱっと思い付いた質の悪いただの遊びなんだ。それなのにこんなこと言われて、ああめんどくせぇ、って思ってるに違いない。そりゃ俺だってこんな女々しいこと、言いたくはなかったさ。だけど、物事には限界ってものがある。コップから水が溢れるように、それは自然に口から零れてしまう。


シズちゃんを好きになりたくないと言ってしまったのは、もう、シズちゃんをどうしようもなく好きになってしまったという他ならない証だった。それが自分でわかってしまうから、シズちゃんに冗談で優しくされたのに、真剣にそれを拒んでしまうのだ。


「………」


さっきとは違う理由で、シズちゃんの顔を覗き込めない。きっと今、いろんな後悔をしてるんだろうな、と自虐的な想像が脳内を占める。そして、明日から池袋行けなくなっちゃったなぁ、粟楠との仕事どうしよう、そんな場違いな連想が始まる。新羅とか四木さんあたりには、なにかしら説明つけておかないとめんどくさいことになるかな…。


「………」


ああ、この沈黙、他の人間のものだったなら俺はどれだけ嬉々として観察していたことだろう。なんて人間くさい沈黙だ。どこまでも愚かで、どこまでも生温い。自分さえ関わっていなかったら、自分さえ、……シズちゃんさえ関わっていなかったら。



シズちゃん、


…シズちゃん。


…きみが、すきだよ。


そうはっきりと自覚すると、目頭に何か熱いものが込み上げてきて気がつくとそれが頬を濡らしていた。泣いている、と気づいたのはシズちゃんが冷たい指でそれを拭ったからだった。


「……………泣くなよ」




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終わらない…だと…

20110123





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