スイートコミュニケーション | ナノ



※続きます。次回R18につき注意。
※まあ…タイトル通り甘いです(当社比)










いつからそうなったのかはわからない。けれど、それはまるで必然であるかのように堂々とあった。
触れ合う冷たい掌を、暖めたいと思うこと。
照れたように笑う眉を、愛しいと思うこと。
優しい言葉をくれる唇に、愛されたいと思うこと。

それらすべてが、僕らの拙いコミュニケーションになってゆく。






スイートコミュニケーション






『今から手前の家に行く』


 と、シズちゃんからメールがあったのはちょうど真夜中を過ぎたあたりのことだった。シズちゃんが自宅を訪ねてくることはたまにあることだったが、こんな風に連絡を入れることなど一度もなかったことだ。
大抵いつもは、自分の計画にあの野生の勘で気付き余計な手出しをしに来たり、そうでなければ何かへ八つ当たりをするように、いつのころからか始めた、体を重ねるだけの幼稚な遊びを貪りに彼はここを訪ねるのだった。
だからこそ来訪を告げる意味などあるはずもない。

 俺はそのどちらの来訪理由も好んではいないが、かと言ってあからさまに嫌うということもない。
なぜなら、平和島静雄のような存在は確かに計画の遂行には迷惑な存在でしかないのだが、「折原臨也」という個人的な見地から言えば、彼のその人間離れした力は出逢ったときから俺をどうしようもなく虜にして離さないからである。
 
 彼と体を重ねる度、俺はその判断を呪う。『シズちゃん』は嫌い。でも、『平和島静雄』は好き。――しかしこのどこまでも矛盾した感情のお陰で、ある一線を越えながらも俺とシズちゃんは変わらないバランスを保てているのだ。
と、少なくともそれがシズちゃんに対する自己分析だった。

 だからといって何故こんなメールを送ってきたか気にならないわけでもない。
シズちゃんのやることだから、大抵は理解の出来ない理由なのだろうけれど。むしろ理由があって行動に移しているのかすら怪しい。絶対に脳みそのかわりに筋肉がつまっているタイプの人間にちがいない。…もはやそれは人間と呼べるのかが怪しいけれど。
 
 そう、シズちゃんの行動には、いつだって理由が伴わない。本人に言わせてみれば立派な理由があるらしいが、それはシズちゃんにしか解り得ないイカれた常識の範囲の理由であって、一般人の俺にはそれは只の屁理屈にしか映らない。
自慢じゃないが、俺は大抵の人間の考えていることは解るつもりだった。でも、シズちゃんの考えていることだけはどうしても解らない。

 俺は、シズちゃんのそういう理不尽に人間くさいところが、一番嫌いなのだ。


***



 不愉快なメールが届いてから30分程経っただろうか。唐突にリビングのドアが開いた。パソコンに向かって書類整理をしていた俺は、驚いて左手に持っていたコーヒーカップを跳ねさせてしまい反動で中身が少し溢れた。
現れた人物は、まあ皆様のご想像の通り池袋の自動喧嘩人形、平和島静雄だ。
彼が何故リビングまで俺に気づかれず侵入してこられたのかといえば、トリックは単純明快。合鍵を持っているからだ。何故俺が「折原臨也の自宅の合鍵」などという超ど級お宝アイテムをシズちゃんなんかに渡してしまったのかといえば、動機もまた単純明快。来る度にドアやら壁やらを破壊されて困るのは俺だから。

 じゃあ何故、シズちゃんが俺の家なんか訪ねるのか?さあ、それは本人に聞かなきゃわからないな。あぁこれ、のろけなんかじゃないから勘違いしないでくれると有難い。


「やぁ……シズちゃん、こんばんは。今日はどうしたの、メールなんか寄越して君らしくないなぁ。何かあったのかな?何かあったというのならそれが君にとって喜ばしくない出来事であることを俺は全力で願うよ。あ、コーヒーでも飲む?」

「…それはもてなす気があるのかねーのか、はっきりしろよ…。」

「そんなもの、あるわけないだろ。」

「…だよなぁ」



 俺はここで少し違和感を覚える。シズちゃんにしては、なんというか……そう、ぶっきらぼうさがいつもより足りない気がする。俺があんなおちょくるようなことを言ったら、普段は速攻でぶちキレて殴りかかってくるはずだ。それが、今日はどうした?「…だよなぁ」って、何だその気の抜けたコーラみたいな返事。俺に向けた新手の精神的攻撃なの、だとしたらシズちゃんにしてはエクセレントと叫ばざるを得ない出来だと言える。実際俺は雀の涙程といえ、動揺を露呈してしまったのだから。


「…シズちゃんどうしたの?マジでなんか様子おかしいけど、どっか怪我でもしてんの?」

「それ、…心配か?」

「……いや、ちがうけど。」

「…そうか。あぁ、別に怪我とかじゃねぇよ。ちょっと仕事帰りトムさんとヴァローナと、あと会社のやつら何人かで飲んできたんだけどよ、なんかペース見誤っていつもより飲みすぎた…そんだけ。」

「なにそれ。もしかして酔っぱらってるの、シズちゃん…?」


「いや酔ってはいねぇよ、のみすぎただけって、言ってんだろ、のみ蟲が…」

「酔ってる人はみんなそう言うんだよシズちゃん。…はは、それにしても君って酔っ払うとこんなになるんだね?なんか、しおらしいシズちゃんって気持ち悪いなあ…」

「るっせえよ、酔ってねーつってんだろーが……ったく…。ああ、そうだ、忘れてた。………あー、これ。手前に…やる。」

「は?」


 シズちゃんが差し出した右手には、これでもかと大量のコンビニスイーツが詰まった袋が下がっている。シズちゃんのすることはいつだってわからないけど、こんなに意味不明の行為は久々だ。折原臨也とあろう者が、開いた口が塞がらない。


「え、ええっと…これは、なにかな、シズちゃん?できるだけ分かりやすく説明してくれると助かるんだけど。…別に簡潔にじゃなくていいからさ。」

「だから、手前にやるっつってんだよ。アレだ、アレ。……土産。」

「ああ、お土産ね、おみやげ…。……………えっ!?」

「……トムさんが…、彼女の家行くんなら土産くらい持っていくべきだって…言うから。でも俺そういうのよくわかんねーしよ、よく考えたら手前の食い物の好みとかも全然知らねーし、だから、迷ってたら、こんなになった。」

「だからって普通こんなに買わないだろ!?」


 おかしい。
 このシズちゃんは、絶対におかしい。

 酔っ払うと人ってこんなに変わるものだっただろうか。いや、そんなことはわかっていたことだが、まさかあの平和島静雄が酒に酔って性格が変わるなんて、池袋の誰が信じられるだろう。よしんば誰か酔狂なやつが信じられたとして、せいぜいもっと乱暴になるんじゃないかとしか想像できないだろう。
まさか、平和島静雄は酔っ払うと優しくなる、なんて都市伝説もいいところだ。俺としては世界三大ドン引き話にノミネートしたい。あとの二つ?知るかそんなもん。とにかくこれは俺にとって年に一度起こるかどうかレベルの異常事態だった。


「あー…まあ、なんとなくだけど事情は分かったから。えっと、とりあえず…水でも飲む?」

「いい。」

「…あ、そう。じゃあ、」

「食わねーのかよ。」

「はい?」

「土産、食わねーのかよ。せっかく買ってきたのに。」

「……えーっと…」

「せっかく、手前が、喜ぶと思って、」

「あああああ!わかった!わかった!!食べるよ、食べる。食べるから、とりあえずシズちゃんはソファにでも座っててくれない!?」


 ああこれは、本格的に異常事態だ。

 今ここで、これ以上デレてもらったらこっちが困る。いや、恥ずかしいとかじゃなくてだよ。体裁的な意味で、困るんだよ。って俺は誰に向かって言い訳してるんだ。とにかく何がなんでもシズちゃんの酔いを冷ますしか、俺にデレ地獄からの逃げ道は残されていないようだった。
なんとかシズちゃんをソファへ追いやることに成功した俺はキッチンへと逃げ込み、癒しのコーヒーを新しく沸かすだけの簡単な作業に没頭する。


 それにしても困った。毒薬も麻酔も、麻薬だって効かない馬鹿げた身体が酒を飲みすぎたくらいであんなに性格を変えてしまうなんて、それこそ馬鹿馬鹿しくてやっていられない。
その上今俺は、その化け物の酔いをどうにか鎮めようと躍起になっている。どう考えても無理だ。できるわけがない。かの高貴な輝夜姫でさえこんな無理難題は考え付かなかっただろう。
しかし出来ないからといって諦めるわけにはいかない。古人曰く、諦めたらそこで試合終了だよ、と。諦めてしまえば、大人しく池袋最強のとんでもないデレに付き合わなければいけないという最悪の試合結果がまっている。そんなのは、断じてごめんだ。絶対に嫌だ。優しいシズちゃんなんて絶対に見たくない。見たくないどころか、この流れだとこの後俺は確実になんだかんだで食われるパターンだ。いや、食われるのだって本当は嫌だけど、そこはこの際仕方ないとしよう。たぶんそこには俺にも原因があるんだということくらい、自覚している。

 俺が嫌なのは、デレた状態のシズちゃんに優しく触れられることだ。
だって、そんなの、おかしいじゃないか。『シズちゃん』が嫌いだからこそ、俺は『平和島静雄』を好きでいられるんだ。なのに、その大嫌いな『シズちゃん』が俺に優しく触れてくるなんて、それじゃ俺はどうすればいい?
『シズちゃん』すら、好きになってしまったら、俺は誰を嫌いになれる?
俺はそれが、どうしようもなく怖い。

 君を嫌いだからこそ、君を好きでいられたのに、どちらも好きになってしまったらもう俺はどこにも動けないじゃないか。体を重ねてまで、それを守ろうとした俺の意思はどうなる。だから、俺は自分のためにこの優しいシズちゃんを、どうにかしていつものシズちゃんに戻す必要があるのだ。



 ……今のところ具体的な策はないけど。


***


「はい、シズちゃん。とりあえずコーヒーくらい飲むでしょ。」

テーブルに傷をつけないよう丁寧にカップを二人分並べる。苦肉の策だがシズちゃんの方には溶けきるだけの睡眠薬と、その他折原オリジナルブレンドのなんやかんやの薬数種を混ぜてある。効かないだろうけど、万が一の奇跡を信じて一応。


「……」

「あー……お土産いっぱいあるからさ、一緒に食べようか。ほら、シズちゃん、プリン好きなんだろ?」

「…おう。」


コーヒーを一口こくりと飲み、大人しくプリンを食べ始めるシズちゃんを見て、ほっと胸を撫で下ろす。とりあえず何か策を練る時間は稼げそうだ。素敵で無敵な情報屋さん、折原臨也の反撃開始だ。

「あ…そういえば手前よぉ、さっき否定しなかったな。」

「…ん?何が?」

「俺がさっき『彼女の家』つったとき、何にも否定しなかったよな。」

「っ…はあああ!?」

「慌てるってことは自分でも認めるってわけだ。そうかそうか、手前は俺の彼女だったのかぁ、折原臨也くんよぉ?」

「ふっざけんな!!俺がいつ!シズちゃんなんかの!かのっ…彼女に…!」

「…じゃあ、手前は俺の何なんだ。」

「……そんなの、知らないよ…」


 やっと反撃の時間が来たと思ったのに、酔っぱらったシズちゃんは俺の予想以上に強敵らしい。レベル100の魔王に丸腰で立ち向かってる気分だ。悔しいし、正直勝てる気がしないのが、恥ずかしい。でも、やらなきゃやられる。そのまま、文字通りの意味で。




「はあ…シズちゃんなんか、嫌いだよ。」

「安心しろ、俺も手前が、」







僕らのコミュニケーションは始まったばかり。





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臨也目線タノシス…(^///^)
次は頑張ってエロを書きます。
臨也より頑張るよ。


20110121





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