寒空メルト | ナノ



※来神捏造
※付き合ってるふたり
※少女漫画思考ばんざい








季節は12月、冬の始まり。あれほど暑かった夏がまるですべて嘘だったかのように思えるほどの冷え込みの中、池袋の街を行く人々はいつもと変わらぬ忙しさと隣り合わせで生きている。たいていの人間は日常を保つために、暑さも寒さも関係なくひたすらにそれと向き合わなければならないのだ。しかし北風と太陽のような童話が伝えられていることから解るように、天気というものは人間にとってやる気を左右させる大きな要因のひとつであることに変わりはない。快適な天気は社会人にやる気を出させるのはもちろんのこと、学生たちにも「今日は真面目に勉強しよう」と思わせるような奇跡を起こしたりもする。…かもしれない。反対に今日のような恐ろしく冷え込んだり、その上今にも一雨降り出しそうな、そんな不愉快な天気は誰しもに不機嫌をもたらし芽生えたかもしれないであろうやる気さえ奪い去って行く。しかし、そんな池袋の天気などまさにどこ吹く風、とでもいうような態度で池袋の記録的な寒空に対して喧嘩を売りまくっている高校生が、ここ来神高校屋上にふたり。






寒空メルト





「あーーちょうさみー」

折原臨也はなんとも間の抜けた一人言をぼやく。と言っても気合いの入った一人言なんてそうはないだろうが。完全に地べたに座り込みフェンスにゆったりと背を預ける彼の隣には、天敵兼恋人の平和島静雄が相変わらずの仏頂面で煙草をふかしている。今は時刻で言えば午後2時を少し過ぎた頃、長針は2と3の間を曖昧に指している。一年を通して学生が変わらずに眠くなる時間帯であり、であるとすれば臨也の怠惰的なぼやきも少しは正当化の余地が認められるに違いない。


「おい、こんなとこでさぼってていいのかよ。明日の古典当てられるから教えてって、門田に泣きついてたのは手前じゃねぇか。」

「えー……?そうだっけ?そう言われればそんな気が……しないでもないけど。まあいいじゃん、きっと後ろの席の誰かが答えてくれてるさ。ってか、シズちゃんそんなどうでもいいこと、よく覚えてるよねぇ」

「……まあな」
「あ、そ」

静雄は照れたようにふい、と顔を外に向け吸い込んだ煙を気持ち良さそうに吐き出す。白とも灰色とも形容しがたいそれは、しばらく辺りをゆらゆらと漂って大気にまぎれて溶けた。


「あ、シズちゃんさぁー週末の英語のテストどうだった?」
「……んなもん聞いてどうすんだよ」
「いやいや、後学のために一応ね?」
「活用される予定あんのか、ソレ。つか、手前はどうだったんだよ?人に聞く前にまず自分から教えるべきだろ、そういうのはよ」
「ん、俺?満点だけど?」
「…チッ、かわいくねー」
「別にかわいくなくて結構。さ、俺は教えたんだから今度はシズちゃんが言う番だよね?」

臨也は心底楽しそうにこれでもかとイタリア人張りに身ぶり手振り満載で静雄に迫る。


「………点」

「え?聞こえなーい」

「…さんじゅう、にてん…」

「えっ…さ…!?32…!?ちょ、シズちゃん…予想外にも程があるよ?まさか…君にも30点を越えることが出来ただなんて…一体誰に予想できただろう?……ああ、俺は君を見くびりすぎていたようだ。よしここは素直に謝ろう。ごめんねシズちゃんこの通りだ!!」

「っ手前ええ!!それ明らかに馬鹿にしてんだろうが!!?」

「ああ、それはわかるんだ?」


くくっ、と身を軽く捻って笑う臨也を静雄は怒り半分笑い半分の奇妙な顔で見下ろす。しばらく自分の言ったことがツボに入ったのか臨也は小さく肩を震わせていたが、その視線に気付いたようにふと笑うのを止め、いつものにまり顔で自分を見つめる顔を見上げた。

「ああ、君と居ると本当に飽きないよ。シズちゃんはいつだって俺の予想通りになんか動いてくれないんだからさ、嫌になっちゃうよね、まったく。」

「チッ、悪かったな…予想つかないくらいのアホでよ」

「あはは、まあ確かにそう言い換えることもできる…のかな?…でも俺はそんな君が大好きだ。叶わないことだけど…いつまでもいつまでも、こうして二人で笑っていられたらと思ってしまうほどに、ね」


そう言って、ふわり笑う臨也の口元にはどこか寂しげな色が漂う。それは薄いガラスのような、冷たくて触れた指先から凍りついてしまうのではと思わせる透明で孤独な色だ。

「…」
「何か不満でも?」

普段からしばしば臨也に見え隠れするその色は、静雄を不安の縁へと誘う。暖かいその掌で触れてしまえば、薄い薄いそのガラスは音もなくひやりと溶けてしまうのではないか、そんな不安が静雄をどうしようもなく臆病にさせるのだった。


「…いつまでも居たいなら、すきなだけ居ればいいだろーが。」


曖昧な静雄の返答に、臨也は少しだけ眉をひそめるが、それでも口元の愉快そうな歪みはそのままだ。


「…シズちゃんは優しいなぁ」


自分が思ったこと、静雄が思うことはいつまでも漸近線のように交わらない。臨也はそのことをいつしか悟り、それゆえに静雄への嫌悪を好意だとか興味だとかいうおよそ彼が他の人間に向けるものへと置換させてしまったのだった。その愛情は、どこまでも空回る。静雄がたとえ自分を好きだと言ってくれるのだとしても、それは臨也の抱く好きだという感情とは相容れないものなのだ。

本当は、それらをすべて静雄もわかっているのかもしれない。すべてを理解した上でなお、自分を好きだと言ってくれているのかもしれない。もしそうだとしたら。


(…だとしたら、なんだって言うんだよ)


そんな可能性は、もはや臨也にとっては些末なことなのだった。結局は自分が何を以て好きだという思考を得て、何を以て嫌いだという反射に辿り着くのか、それこそが解明されなければ絶対に二人の感情は重なり得ない。しかしそれは突き詰めてみれば人間としての死を意味していた。自分の感情を公式化して何もかもを諦めてしまうくらいならば、曖昧なだけの関係をどうにか維持することに懸けてみたいと思ったのだった。たとえその後には何も残りはしないのだとしても。


その場の空気をはぐらかすように臨也は軽快に笑う。ひどく透き通った12月の寒空に笑い声だけが優しく優しく溶けていった。







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20101230

来神好きすぎる
卒業式らへんのイメージ!


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