さよなら恋心 | ナノ



※臨也片思い話
※例のごとく乙男。
※シズイザではない…かも







これは夢だ。

と、夢のなかでも何故かはっきりと意識出来る時がたまにある。そういう夢では大抵、上手く自分の感情をコントロール出来ずに半ば強制的に夢のシナリオに従わなければならないことがほとんどだ。

それは幼少期の悲しい記憶であったり、あるいは未来に体験するだろうと予見している面倒な事態であったりと、パターン自体は様々である。ただ共通しているのは、いつも決まって登場する人物がいることだ。

俺、折原臨也には今現在特定の想い人がいるわけでもない。まあ、今までもいた試しはないけれど。だからその人物は、決して恋い焦がれるあまり夢にまで出てきてしまったなどというロマンチックな設定の人間というわけではない。
むしろ、その真逆も真逆の現実において唯一憎むべき人間、折原臨也にとってただひとりの"例外的存在"である、平和島静雄なのであった。



さよなら恋心



折原臨也と平和島静雄は仲が悪い。

それは、地球は丸いだとか太陽は西に沈むだとかいう凡そ一般の人間がもつ世界常識と同じように、ただそこに存在する1つの真実なのだ。

そして仲が悪い、と一言で言っても色々ある。例えば喧嘩する程仲が良い的な仲の悪さ。例えば本気で相手を殺したいと願うような仲の悪さ。例えば本当は相手を想っているのに素直になれず結果として相手を嫌ってしまうような、そんな仲の悪さ。人間の関係性というのは本当に驚くほど多様なものだ。

では俺とシズちゃんの仲の悪さとは、一体どんな言葉で言い表せるだろうか。夢の中の俺は、しばしその議題に集中することを促される。現実ではそれこそ高校の頃から何度も取り組み続けた議題だが、夢の中の自分の思考は一体どんな結論を導き出すだろうか。


シズちゃんが嫌い。

それは何故か。自分の思い通りにならないから?いや、それは違う。むしろ俺は自分の思う通りにならない方が人間は面白い、と思っているはずだ。では彼の超人的な膂力自体を嫌っているのだろうか。確かに人間ならざる程の力をもった人間、それは確かに所詮人間である俺の嫉妬心をどこか苛立たせているのかもしれない。だが、よく考えてみればその膂力自体は愛すべき人間のもつ無限の可能性を示唆するものではないだろうか。とすると俺は彼のあの力を愛していなくてはならない?そんな馬鹿な。

と、ここまでは現実でも散々繰り返してきた自問自答の列挙に過ぎない。夢の中の俺が密かに期待するのは、現実ではあり得ない俺とシズちゃんの陳腐なまでに人間らしい人間同士の会話だ。シズちゃんと話せば、何か分かることがあるかもしれない。

(…早く会いたいな)

と、これはあくまで夢の中の俺の言葉。現実の感情には一切関係ない。あやふやな夢の中でこれだけは確かな事実だ。



気がつくと俺は高校時代の教室にいた。何故かと考えても意味はない。これは夢なのだから。意味のないことに意味を与えることが、それこそが夢の本質なのだ。

無駄に大きい窓から外をみれば、太陽はすでに大きく傾いている。大体午後5時というところだろうか。そういえば教室の時計はシズちゃんが始業式の日に壊したんだっけ。昔を懐かしむように、俺は少しだけ微笑んだ。殺し合いの毎日だったとはいえ確かにあれは青春時代だった。俺にもそれを楽しかったと感じる心はある。


「何笑ってんだよ、気持ち悪ぃ」

突然背後から声をかけられる。声の主は言わずもがな。

「…シズちゃん。…待ってたよ」
「あ?…何を」
「ううん、こっちの話。」


シズちゃんは制服を着ている。少し土塊で汚れているのは、きっと今までどこかの誰かと暴れまくっていたからであろう。夢の中の存在なので、この姿は俺の記憶が構成したものに過ぎないわけだが何故かこの教室で見ると、本当に懐かしくて俺はますます強く微笑んでしまう。


「…だから、何でそんな笑ってんだよ」
「気になる?」
「…べつに」
「自分から聞いたくせに?ふふ、やっぱり横暴だなあシズちゃんは。そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「うっせえ黙れ」
「それとも俺が知らなかっただけで、実は君にも彼女とか居たのかなあ。…ちょっとつまんないけど、それはそれで見てみたかったかも。…ね、シズちゃん。」

「…何が、言いたい。」


シズちゃんは不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。いちいちこういう仕草がかっこいいものだから、俺は高校時代の彼をどうしてか今程までに嫌うことが出来ない。好き、とまでは言わないがきっとこの頃の俺はどこかでシズちゃんに、憧れに似た感情を持っていたのだ。


「シズちゃん」
「…そう呼ぶのやめろって何度も言ってんだろ」

「…シズちゃんはさぁ、」
「無視か」
「無視だよ。」
ふふ、と俺は声に出して微笑む。

「…シズちゃんは、俺のこと…どうしてそんなに嫌いなの?」

「むかつくからだよ」

(…だよね、知ってる)

「じゃあさ、質問を変えるよ。シズちゃんは何で、俺のこと好きじゃないの?」

「はぁ?手前とうとう脳みそ狂ったのか?新羅呼ぶか」
「新羅か……それも良いけど、今はちゃんと質問に答えてよ」


(俺の夢で、俺の記憶の中の君が何て答えてくれるのか…俺はシズちゃんに何て答えて欲しいんだろう)


「何でって…手前は俺に好きって言って欲しいのかよ」
「まあ…ある意味では、ね。」
「……は、手前はどこまでも勝手だな。」
「俺を誰だと思ってるの?」
「…本当にむかつく野郎だ」

シズちゃんは顔をしかめてそっぽを向いてしまう。その横顔に、金色の髪に夕日が当たっているのを見るのは、何故か俺に無性に切なさを感じさせた。


「俺は手前を好きじゃない。その理由なんて、手前が手前だからってただそれだけのことだ。」

「……それ酷くない?」
「安心しろ手前程じゃねえから」

そして俺は唐突に理解した。

俺がシズちゃんを憎む理由。


(なるほどね…つまり、こっちがどれだけ好きでも、絶対にシズちゃんは俺を好きにならないと俺は理解していた…それだけのことか。)

絶対に手に入らないもの。そう分かってしまえば、後はもう諦めるか…それとも。

それとも、手に入らないならいっそその存在ごと消してしまいたいと、無意識に願った。

その結果の感情が、憎しみか。


(我ながらなかなかの詩人だと思うよ…全く、呆れたものだ…)



つまり俺は、平和島静雄に心底惚れていたってわけか。人間全てを愛していたはずなのに、俺が恋したのは人間じゃなくてその上同性、しかも叶わぬ恋と無意識の内に感情を自己処理していた、だなんて。本当に、呆れた話だ。

そして今も、俺は彼が好きなのだろう。だからこそ、こんな夢を見るのだ。恐らく起きた時にはきっと夢の内容は全て忘れてしまっている。何もかも気づかないふりをして現実世界で彼とただ毎日のように殺し合う。刃向かうナイフに、一片の殺意と一片の恋心を忍ばせて。


「シズちゃん」

もう、そろそろ朝になるのだろう。俺は自分が微笑んでいるのか泣いているのか、分からない。ただ一言、夢でいいから言いたかった。


(大好き。)





君が好きだから死んで欲しい




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BGMは東.京.事.変/落.日

臨也はほんとは分かってるんだけど、自分のことに関しては呆れるくらい不器用だと萌えます。
来神風味なのは趣味です(^ω^)


20100828

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