誘惑してくれ | ナノ



※ただのばかっぷる
※kmyキャラ恒例のネタです







 なかなか懐かない猫がいた。餌で釣ろうとすればちょこまかと動き回り巧妙に餌だけを奪い取ってゆき、強引に喉を撫でようとすればその鋭い爪で顔を引っ掻かれる。しかしそれでも、諦めず執念とも呼べるようなしつこさで追いかけまわしていたら、ある日ころっとこちら側に転がり込んできた。
猫は一度懐くと、追いかけまわしていた頃が嘘のように自分に懐いた。むしろこっちが引くくらいだ。餌を与えれば指まで舐めてくるし、喉を撫でればもっともっとと嬉しそうに鳴く。

その変化に驚きながらもやはり、やっとつかんだ幸福を噛みしめずには、いられない。



誘惑してくれ







風呂上がりに、二人で居間でテレビを見る。「猫」がなつくまでは想像も出来なかった風景だが、今ではこれはごく当たり前の日常になった。

床に胡座をかく俺の隣で、臨也はぴったりと体を俺に預けさっきから番組に文句ばかりをつけている。俺としては番組の内容は先程から頭に入ってきていない。密着した部分の熱へ意識を集中させないように集中しているのと、微かに漂うせっけんの香り(笑)に酔わないように最大の力を振り絞っている最中だからである。


「ね、シズちゃん。この番組つまんなくない?さっきから同じことしかやってないし!他の見ようよ」

と臨也は言う。けれども、

「…俺は面白えと思うからチャンネルは変えねえ」

つい臨也を困らせようとするのは俺の悪い癖だ。が、止められない。


「なにそれ!シズちゃんひど!あ、シズちゃんって亭主関白?へーそういうタイプだったんだシズちゃんって?ふーん?なんかさ、時代遅れだよねそういうのって!さっすがシズちゃん!池袋最強は時代になんか流されない、みたいな?あっは、うける!」


何がそんなに楽しいのか、臨也はぺちゃくちゃと捲し立て一人で盛り上がる。特に酒が入っているわけでもないが、基本こいつはどこか狂ったようなテンションが標準装備だ。まあ、そんなところも俺が気に入っている点の一つではあるのだが。と、さっきからなんだかのろけ日記のようになってきた。


「…ほんっとにうぜぇな、手前はよ。つか俺の家のテレビなんだから俺が何見ようと勝手じゃねぇか」

「えー酷い酷い!せっかく俺がシズちゃんの家に泊まりに来てあげてるってのに、俺のおねだり聞いてくれないんだ?」

「な、」

臨也はきっと俺が弱いのを分かっていてこの表情をするのだろう。それに多少の悔しさを感じないでもないが、やはり弱いものには弱い。それが人間だ。


「そうだよねー俺なんかよりテレビの方が魅力的だもんね?あ、もしかしてこれに出てるアナウンサーがタイプなの?ふーん清楚系が好きなんだシズちゃんって。ごめんね清楚じゃなくて?」

「…ちげぇっつの」

話がおかしな方向へ転がった。まあ、いつものことではあるけれども。

「あ、そう?じゃ、変えてよ、チャンネル」

「…」

素直に変えてやればいいのに、我ながらひねくれた性格をしていると思う。もうこうなってしまえばあとは野となれ山となれ、成り行きに身を任せるに限る。臨也に付き合って予想通りの展開になった試しなど無いのだから。


「やっぱこのアナウンサーが好きなんだ」

違うって。

俺は。


「俺は手前が好きだ」


「っ、」


臨也はさっきまでの勢いを度忘れしたかのように目を白黒させてうつむき、急に押し黙る。

俺が臨也の眉を下げてお願いをする表情に弱いのと同じように、臨也は俺の直球の言葉に弱い。これも長年しつこく追いかけ回した成果であると思うと、我が努力ながら涙無しには語れない。せっかくだし、もう一度言ってみるか。

「俺は手前が好きだ。愛してる」

「わわわ、わかった…から。うん」

もう一度耳元で囁くと、体をびくりと震わせて真っ赤になりながら細い声で答える。最近発見したことだが、こいつは耳への刺激にひどく弱いらしい。これを利用しない手はない。

寄りかかっていた身体をゆっくりと押し倒し、覆い被さるように顔を近づける。臨也は目にうっすらと涙を溜め、耳まで真っ赤にして羞恥に耐えていた。きっちり結ばれた唇がふるふると震えているのが、やけにこの状況を扇情的にしていた。


「し、ずちゃ…?」

困惑した声で臨也が俺を呼ぶ。とっくに理性など吹っ切れていた俺は、もうそれくらいの揺さぶりでは自分を抑えきれなかった。

「臨也」

「…なに、シズちゃん」

「好きだ、手前が何を考えてようが誰と比べてようが、そんなの俺には何の関係もない。俺は、手前だけが、好きだ」

「…うん…ありがと、シズちゃん」

緊張させたままだった唇を、ふ、とゆるめて微笑む。この微笑みのためならば、俺は何だって出来るだろうと本気で思う。それくらい俺は臨也に心底惚れ込んでいるのだ。

「あ、のね、シズちゃん」

堪らなく愛しくなって、火照った頬に触れようとすると、臨也はおそるおそる口を開いた。

「あんまり、言ってないから言うけどさ」

「…何だよ?」

「お、俺も、シズちゃんが俺のこと好きなくらい…ううん、それ以上にだよ。シズちゃんのこと、だいすき…だ…から、ね」


途中で恥ずかしさに耐えられなくなったのか、最後はほとんど聞き取れないくらいの声で、臨也はそう言った。前言撤回。直球の言葉に弱いのは、俺も同じだ。っていうか、正直、これはやばい。


「おま…っ…かわいすぎるにも程があるだろうが…!」

「っう、…うっさい…可愛いとか、言うな」

「いや、何度でも言う!臨也、可愛い。かわいすぎ。手前がなんと言おうと手前より俺の方が、好きだ」

「っあ、だから、耳元で、言うなっ…て」


俺は今度こそ、組み敷いた何よりもいとおしい存在に思いきり触れる。今では日常となってしまった、けれどやはり普段とはどこか違うような、そんな風景がそこにはあった。




なついた猫のあやし方を、俺はまだ、知らない。



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言わせたいだけでした!
猫が何故なついたのかは、また別のお話ということで。

静雄がなんか変態…まあいいか。

20100803

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