恋に落ちたシェイクスピア | ナノ


※来神時代捏造。CP要素薄め。



恋に落ちたシェイクスピア




 『抜けるような青空』という、そんな使い古された表現がこれほどまでにしっくりとくるような天気も、年にそう何度も拝めるものじゃない。前日の台風が日本中の雲という雲を吹き飛ばしてしまったかのように雲ひとつ見えない、いやもはや人類に雲という自然現象の存在自体が危ぶまれてしまいそうな、そんな、青空だった。

 

 さて、『そんな青空』の映える9月下旬ともなれば、たいていの中学・高校の生徒達は、その学校独自のカラーを多少なりともアピールして、外部の人々(たいていは近所の住民である)にその存在を改めて認識させ直す年に一度の学校行事、文化祭の準備に追われることになる。


 ここ池袋の来神高校もその例に漏れず、普段は勉学やら部活動やらその他諸々の日課に苛まれる生徒たちが、各クラスの出し物の準備に放課後の時間を割いていた。

 

 この「文化祭」とはなかなか厄介な代物だ。たとえクラスからどんなに浮いた存在の生徒であっても教師は行事への不参加を認めたりしないし、またどれだけクラスメイトの仲が良くても作業の進行過程で必ずどこかのグループとグループ・もしくは個人と個人との対立が生まれクラスの不和の原因となる。

行事の目的としては、「クラス一丸となりひとつのものを作り上げる喜びを知る」なんて尤もらしいものがあるが、果たしてその「喜び」とやらを知ることが出来るのはクラスから選ばれしごく少数の人間だけなのである。

 そしてその選ばれし人間、なんていうものは既にその喜びを得るためにしなければならないことなど、初めから分かっている連中だけなのだから、結局文化祭という行事は、多少の友情の亀裂と修正そしてほんの少しの恋愛成就と、あとの大半は他人への恨み辛みプラスアルファを生み出す為の儀式なのである。



 というのが、折原臨也の文化祭持論だ。



「いや、ほんとに、ほんとに嫌なんだよ俺は」

と、臨也は深い深い溜息をつく。

その手にはナイフ、ではなく段ボール工作用の大きなカッターが握られている。そしてカッターの刃が付きたてられている物体は平和島静雄…ではなく、教室の床に所狭しと並べられている真っ平らに解体された巨大な段ボール箱だ。


「ていうか…嫌、っていう以前に…なんで俺が大道具班なんて馬鹿げたグループに振り分けられているのか、全く理解が出来ないんだけど?……ちょっと、ねぇ、新羅?君さっきからにやついてるけど、それは俺に対して喧嘩売ってんの?」

臨也は余程いらついているのか、いつになく露骨に感情を表に出して文句を言う。しかし文句を言う口と同じスピードで、カッターを握る手は段ボールの表面に下書きとして描かれた鉛筆の線を、1ミリもずれることなく優雅になぞってゆく。


「いやぁ、さすが臨也だね。刃物の扱いには慣れてる。適材適所、なんてまさに今の君のためにあるような言葉だね!」

「…本気で喧嘩売ってんの?」

「はは、まさか。っていうか、悪いのは全般的に昨日文化祭の役割分担を決めると前もって知っておきながら学校を休んだ君じゃないかな?」

「…それは、」

「それに、静雄と同じ班にならないようにしてあげたんだから、君に感謝こそされど憎まれ口を聞かれる覚えはないね。いくら清濁併呑、清廉恪勤な僕だって怒る時は怒るんだからね?」


「……まぁ、ね。そこは素直にありがたいよ。うん。」

と、渋々頷く臨也にやれやれと芝居がかったように新羅は肩をすくめる。

「わかればよろしい。」



「…………あの、さ、新羅。」

「何だい?まだ文句が?」

「いや…そうじゃなくて…」

「ん?」

「その………」

臨也は柄にもなく言葉を詰まらせて、自分がこれから何を言おうか迷っているように見えた。しかしよし、と何か自分の中で一大決心をしたのであろう、恐る恐る新羅に尋ねる。



「…し…シズちゃんは、何の班…なの?」

臨也はそこで初めて作業の手を止め、新羅の顔をゆっくりと見つめる。新羅は一瞬驚愕と焦燥の入り混じったような表情を見せたが、すぐに先ほどまでのにやついた笑顔にもどりこう言い放った。




「…キャスト班だよ。」



一瞬の沈黙。


「え?」

「だから、キャスト班。演技するひとたちの班。」

「…は?」

「うん、絶対そんな反応するだろうから臨也にはあんまり教えたくなかったんだけど…ってまぁ同じクラスなんだからその内ばれるとは思ったけどね?」

「いや、そんなことはどうでも…っていうか、え!!?…え!?し、シズちゃんが、演技する…って、本気で言ってるの新羅?もし冗談だったら俺は今すぐ君の知られたくない個人情報を一生かかっても回収しきれないであろう範囲にばらまくよ!?」

「冗談って、まさか。本気の本気さ。…まぁ静雄から望んで班に入ったわけじゃないけどね?どうしても決まらない役があって、推薦投票になったんだけど…ほら、静雄って水面下ではクラスの女子に結構人気あるじゃない?うん…当然のシナリオというか因果応報というか…ねぇ」


楽しそうに首をかしげる新羅に、臨也はどうしようもない怒りと同時に、どうしようもない不安な気分を覚えた。

今、新羅は「静雄が女子に人気がある」って言わなかったか。いや、静雄が実は女子に人気があるかどうかなんて、そんなことはどうでもいい。問題は。



話し合いで、なかなか決まらない役。女子の人気による推薦投票。


その二つの条件から導き出される役は、たったひとつだ。



「……ねぇ、新羅……」

「何だい、臨也。」

「うちのクラスの出し物って、何だっけ?」

臨也は酷く怯えたように新羅に尋ねる。

「ええ?嫌だなぁ、君、昨日の欠席ほんとうに風邪だったのかい?それならまだ熱が下がってないようだから医者の見習いとしては今すぐ帰宅することをお勧めするよ。」

「…新羅、」

「…うん、まぁどうやら昨日はずる休みだったみたいだね。ということは、そうだね、僕はただ全身全霊で君に事実にして真実を教授することにしよう。」

臨也の絶望したような顔をちらりと横目で眺めると、新羅は最高の笑顔で言った。


「僕たちのクラスの出し物は高校の文化祭の舞台モノの定番にして代名詞、」



「『ロミオとジュリエット』さ。」





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えー……続きます!(笑)
捏造すぎてすみません。
段ボール切る臨也はカワイイ。

あ、一応補足ですがしずちゃんがロミオ役ってことです。
決まらない役×女子投票=王子役

なんだこの少女漫画展開。


20100611



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