「…嫌ですよ」
手にした物に言いたいことを察したのか、先手を打たれた。
「まだ何も言ってないよ」
「じゃあ、聞きます」
「これ着て」
「……」
結局同じじゃないか、と言いたげな視線で時雨が俺を見る。
前々から、時雨が洋服を着ているところを見たいと言っているのだけど。
未だにその願いが叶ったことはない。
「減るもんじゃないし、いいじゃんか」
唇を尖らせて言えば、逡巡ののちに時雨が小さく口を開いて。
「…和装の俺は、嫌ですか」
じと、とした目で睨みながら、そのくせ頬は赤らめて問うものだから。
「いや、もう最高」
今日もうまく避けられたのだとわかっていたが、それでもいいかと笑った。
(120816)