寒さも厳しくなってきたからか、一気にスノーが元気になった。極度の暑がりさんであるスノーは主に年末までをしんだように過ごし、毎年だいたい年始から1、2ヶ月後には再びしんだようにぐったりしている。ああもうそんな季節か、と頻りに空を見上げる白の背中に茶々を入れた。

「ゆきお、そんなにはしゃぐと溶けちゃうぞ」
「ゆきおじゃありませんし溶けたりなんかしません!」

 ぐるん、と勢いよくこちらを振り向いたスノーはぷっくりと頬を膨らませている。俺が存外気に入っている愛称がスノーにはお気に召さないらしく、からかえばいつもこんな顔をした。
 それに溶けたりしないなんて言いながら、自分が動いて起こした熱にすら「あつい…」と気だるげにするのだ。嘘つけ溶けるだろうと反論したくもなる。
 未だくつくつのどを鳴らす俺を不服そうに一瞥し、ついとスノーの視線が外れた。窓枠に手をつくスノーのそれを辿って空を見やれば、どんより灰色の雲が厚く張っている。

「降りますかね」

 そわそわと落ち着かない様子のスノーに苦笑した。

「まだ早いんじゃないかな。多分あれ雨雲だ」

 がっかりとした様子のスノーは、今年も空からの贈り物を待っている。
 俺はその隣で降らなければいいと思っていた。

 降ってしまえば冬は深まる。
 そうして来るのは暖かな春だ。
 春の訪れとともに、スノーは一年に一度だけ体調を崩す。俺はそれが心配でならない。
 まるで白い雫のように冷たくなるスノーも恐ろしいが、何より怖いのは不調の峠を越えたスノーがその間のことをまるで覚えていないことだった。
 嘘だろ、と思う。だってあんなに苦しそうで、息も絶え絶えで、しんじゃいそうなくらい真っ青な顔色をしていたのに。不思議そうな目をこちらに向けるスノーは、苦しげだったときのことを何一つ覚えていない。なにも、なにも知らないのだ。

「早く降らないかなあ、雪」

 ひとりごとだろうか。空を見上げたスノーがぽつりと零した熱っぽい呟きに、そうだなあと返す。
 降らなければいい、そんなもの。
 おまえが生まれ変わる様など、もう見たくないよ。



(春の訪れとともに新しいゆきおになるゆきお)
(131209)

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