「お前、留守電を聞いたんだろう」
ギルティがビクリを肩を震わせた。強く握りしめていた手首を解放し、代わりに宥めるようにゆるく抱きしめる。
「まず、あれは俺宛ての電話じゃない」
「、そんなわけ…」
「そもそもあの日、俺の母さんは電話をかけてきていない」
「…どういうことですか。だって、」
話が見えないと眉をひそめたギルティに、決定打を打った。
「間違い電話だったんだ」
「…は?」
ぱちり。ギルティが瞬いた。
「は、あ?!間違い電話?!このご時世に?」
「内容が内容だけにスルーもできなくてな。どうかとも思ったが、間違い電話の旨を相手方にも連絡した」
それが、あの日ベッドにギルティを待たせてしまった理由だ。
大体お前、俺の母さんの声知らないだろうと言えば、その通りなのでギルティも押し黙る。
「…でも、これからあなたは結婚することもあるでしょう。もういい歳なんですし」
「悪かったな若くなくて」
反射のように噛み付いたが、ゆるゆると頭を振られて口をつぐむ。おっと、今は軽口を叩くときじゃなかった。
「悪くないです。…悪くなんてなかった。でも、これからは違う」
いつか結婚するときに、必ず俺が邪魔になります。
震えた声は、震えているのにまるで言い聞かせるようにはっきりとしていて。
誰に、なんてそんなのすぐにわかった。
ギルティは、ギルティ自身に必死に言い聞かせている。
「…お前は馬鹿か」
はあ、とため息をついて両手でギルティの頬を包み込む。上げさせた顔はひどい血色で、エネルギーが足りていないのが一目瞭然だ。
「俺がお前になんか嘘ついたことあったか。隠し事したことがあったか。俺が言いたいこと全部言っちまう性格だって、とっくに知ってんだろ」
「マス、」
「邪魔になったら邪魔だってちゃんと言ってやるから、それまで俺の横にちゃんといろ」
ギルティが何に怯えているかはわかった。
いつかマスターに――俺に捨てられるんじゃないかと、その見えない“いつか”にビクビクするくらいなら、初めから俺がちゃんと示してやる。
だから、俺が邪魔になったと言うまでは“いつか”はないんだと、そう思っとけ。
ぱちぱちと瞬きをしたギルティが、ぶわりと瞳を潤ませる。
「言、えませんよ…。マスター、馬鹿みたいに優しいんですから」
「大丈夫だ安心しろ。ハッキリバッチリ言ってやる。だから、言われない間はいつもみたいに図に乗っとけ。な?」
ギルティがようやく笑って俺の胸にそっと寄り掛かった。
その背中に手を回してやっと安堵の息をつく。
「大体、今はお前で手一杯で結婚なんかできるわけないだろ」
「手のかかるボーカロイドほど可愛いでしょう」
「かかりすぎだ」
いつもの軽口の叩き合いができるくらいに調子の戻ったギルティに、そうだ、と忘れないうちに釘を刺しておくことにした。
「いいか、夜に他の奴のとこに行くのはまあ許してやる。けど、もう帰ってこないのは無しだからな」
「……」
「おいギルティ?」
さっきまで笑っていたというのに、再び不機嫌そうな表情に戻ってしまったギルティに首を傾げれば。
「あんたは本当に肝心なとこが駄目ですよね…」
「は?なんでだよ」
「……もう夜に出かけるのはやめろくらい言ってくれれば…俺だって…」
もごもごと言われた言葉にびっくりしてまじまじとギルティを見る。
「…言っていいの?まじで?」
「言いたいことは全部言うんじゃなかったんですか?」
「じゃあ、もう他の奴に会いに行くのはやめろ。俺だって嫉妬くらいする」
ぎゅっと抱きしめると、今度はギルティの方がため息をついた。
そうして、背中に腕が回されて。
「言うのが遅いんですよ、ばか」
え?ああ、そう。をギルティでして泣き顔に激しく動揺しました
(120909)