ギルティが家出した、らしい。
推量の域を出ないのは、本人がそれを示すものを何一つ残していないからだ。

よくある「探さないで下さい」の置き手紙があったわけじゃない。
ギルティの荷物が全てなくなったとか、わかりやすいサインもなく。
ただ、夜中にどこかに出かけることはあっても朝に帰ってこないことなどなくて、ましてや3日も家に戻らないなんて初めてだった。

仕事が終わるや否や、その足でギルティを探しに街に出る。
正直、いそうな場所に見当もつかない。
ただそこに足を向けたのは、昔一度だけぽつりとギルティが呟いていたのを覚えていただけだ。

――こういう音、割と好きですよ。俺には全然似合わないですけど。

いつだったか、オルゴール館の前で足を止めたギルティが好きだと言う割に苦しそうに似合わないと笑う様を思い出す。
繊細な音が自分には綺麗すぎると自嘲したくせに本当は誰よりも繊細だったあいつは、今まさに俺にはわからない何かで傷付いているのだと思った。

「…ギルティ」

館の裏、膝を抱えて座り込むギルティは、虚ろな目で空を見ていた。
しかし俺を視界に捉えるが早いがサァッと青ざめて逃げ出そうとする。

「なんで逃げんだ」

その腕を掴み壁に押さえ付ければギルティに逃げ場は完全になくなった。

「なんで帰ってこない」

壁と俺に挟まれた状態では観念する他ないと悟ったのか、ギルティが下を向いたまま口を開く。

「…あんたが、早くアンインストールしないからですよ」
「は?」
「そうしたら、俺は、」

ぎゅっと眉根を寄せたギルティも傷付いた表情だったが、俺だって充分傷付いていた。

「…誰が、誰をアンインストールするって…?」

低い声に、怯えたようにギルティが目線をさ迷わす。

「俺が、お前にそんなことできるわけがないだろう…!」

これでも。
これでも、ギルティのマスターとして、うまくやってきたつもりだった。
あまのじゃくなこいつなりに俺のことを認めてくれていると思っていた。
しかし、そんなのは俺の勝手な思い込みだったのか。

「お前には、俺が簡単にお前を捨てるようなマスターに見えてたってことか」
「、ちが…!」
「違わないだろ!そう言うことじゃないか!!」

ギルティを怒鳴ったことなど、本気で怒りをぶつけたことなどもちろんなくて。
こいつだって、こんなに弱々しい姿俺は初めて見た。
ギルティは嫌々をするように首を振って、ちがう、と絞り出すように否定する。

「だって、あなたは結婚するでしょう」
「は、」
「そんなところに、俺がいられるはずないじゃないですか」

夫と寝たボーカロイドを受け入れる妻が一体どこにいるんですか。
言い終えとうとう目尻からぽろりと零れた雫に冷静になっていく。

3日前のベッドでの涙。その日にあったとある留守番電話。
その後の急な失踪。

ああ、全部繋がった。
そうして頭を抱えたくなる。

「ギルティ、誤解だ」
「…なにがですか」
「何もかもだ」

さあ、答え合わせを始めよう。

(120907)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -