ガタッ、と大きな音に驚いてスミレを振り向けば、スミレの方こそ驚いたという表情を浮かべていた。
足元に無造作に置かれている段ボールから考えるに、音の正体は掴めたけれど。
スミレの目には段ボールなんて映っておらず、落としたことにすら気づいていないようだ。

「スミレ…?」

俺を見つめて口をはくはくさせるスミレに心当たりがなくて首を傾げれば。

「ま、まままマスター、うで、」

腕?と自分の右腕を確認して、ようやく合点がいく。
引っ越しの準備に必死で全然気にかけていなかったけど、そういえば先程どこかにぶつけたかもしれない。
変色したそこを見つめて、ああ、と声を漏らせばスミレが一気に青ざめた。

「まままマスター…!」

ひとまず冷やすべきですか、それとも薬が先でしょうか。
オロオロと完全に我を失ってるスミレに苦笑してとりあえず呼び寄せる。

スミレは、痛みにひどく鈍い。
そのせいで、人の痛みにはつい過剰に反応してしまうのだ。自分にはわからないことだから。

こんなの息でも吹きかけておけば治るよと、意識して明るい口調で言えば、スミレはわかりましたと神妙に頷いた。
そうして、失礼します、と断ったあと、本当に息を吹きかけ出したものだから。

「ふー…ふー……あの、これはどのくらいで治るのでしょうか」

至極不思議そうに首を傾けて、それからもう一息。
一生懸命に頬を膨らます様に、可愛すぎると降参した。

(120831)

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