この世界から逃げ出せたなら(セブルス)


夕食を食べ終えたセブルスは、まだ食べ終わって居ない多くの(寧ろ、殆どの)生徒や教師達を残し、先に自室へと戻った。
そして自室の扉を閉めそのまま洗面台に駆け寄ると、先程食べたばかりの物を全て吐き出した。
と言っても、彼は殆ど食べておらず、大広間にある彼の席の皿には、まだ料理がほぼ手付かずの状態で残っている。
消化され始めていた筈の食物は、蛇口から出る大量の水によって流れ、排水口に消えていった。

「ハ…ッ、ハ…ッ…ぅ、」


何度か腹部を波立たせ嘔吐(えず)くと、再び洗面台に顔を突っ込むようにして嘔吐した。
しかし吐き出せるものが胃の中に無い為、どんなに苦しくても黄色い胃液が出るだけだった。
彼の筋張った手は、洗面台の縁に指が白くなる程強くしがみついており、震えていた。


漸く吐き気が治まり、セブルスは流れ出る水で口を漱ぐと、顔を上げた。

少し汚れた鏡に映ったのは、以前よりも窶(やつ)れてしまった自身の顔。
元々血色が余り良くなかった顔は、今や血の気が無くなってしまったかのように真っ青で、目の下には隈が出来ていた。
薄暗い場所な為、より一層死人の様に見える。


1、2ヵ月程前から、セブルスの胃は段々と食べ物を受け付けなくなっていった。
食事の量は徐々に減り、とうとう先程の様に、少量だけでもすぐに戻してしまうようになってしまった。
今では自分で作った栄養剤と胃薬、そして睡眠導入剤がないと生活出来ない。

セブルスは、自分が映る鏡に触れ、小さく息を吐いた。


しっかりしなければ。
もうすぐ、あの時が来てしまう。
私が、やらなければならない。
ドラコは必ず失敗してしまう…

だから…、



胃が再びキリキリと悲鳴を上げ、セブルスは再び顔を洗面台に突っ込んだ。

「っぐ、ゲホ…ッ」

吐き出されたのは、血液が混じった少量の胃液。
おそらく、吐く事が当たり前になってから、胃液の酸によって食道が傷つけられていたのだろう。
その血液混じりの胃液が蛇口から出る水流にゆっくりと流されて行くのを、セブルスは虚ろな目でぼんやりと見つめた。

計り知れないプレッシャーとストレスに押し潰されそうなセブルスの不安を、心を、今はもう誰も聞いてはくれない。

セブルスはもう一度口を漱ぎ、自身が作った3種類の魔法薬を無理矢理飲み干した。
そしてそのまま寝室のベッドに倒れるように横たわると、気だるそうに毛布の中に潜り込んだ。





この世界から逃げ出せたなら
(リリーの許へ行けたなら、どれ程幸せだろうか)


 










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