また明日! 2
「あたしは可愛くなんかなか」 「どうして?」 「だって…」
だって、こんなコトを男子から言われたことが無かったから。
「ねぇサファイア、キミは可愛いよ?もっと自分に自信を持ちなよ」
「でも、男子に言われたこと無いけん…」
俯いたあたしの頭を、ポンッとルビーが叩いた。
「ボクは、今の暗い顔よりも、キミが笑った顔の方が可愛いと思う。だから、」
ね?笑ってよ?
ルビーはあたしの頭を撫でながら言った。
「ルビー…、ありが「お前達ー、早く帰りなさーい!」
振り返ると、学年主任がいた。
「はい、先生。さようなら」
先生が、おぅ、と言って去った。
「ルビー、ありがとう。嬉しかった」
微笑みながらあたしは言った。
「Cute!やっぱりそっちの方が良いよ!!さぁ、帰ろう。もう遅いから送って行くよ」 「え、でも…」 「いいから」
ルビーは自転車置き場から自転車を取って来て、後ろに乗るように促した。
「ありがと…」 「しっかりつかまっててね。あと、ナビよろしく」 「わ…分かった」
あたしは荷台に横に座り、ルビーの腰に手を回した。
ルビーはそれを確認して、こぎ出す。あたしの心臓は、今にも飛び出しそうな程バクバクと鳴っていた。
この鼓動、ルビーに気付かれたらどうしよう…!
さっきまでごまかしていた、この気持ち。
嘘じゃない。
好きになってしまっていたのだ、彼のコトを。
「あ、そこの角を右で、二つ目の信号を左に曲がって」 「分かった」
夜風で、火照った身体を冷やそうとする。
けれど、正直な身体は余計に熱を帯びて。
「…サファイア、キミ熱いよ?大丈夫??」 「ぇ!?あ、うん…」
まさか、この熱が彼に伝わっていたなんて…!!
表面上だけでも、冷静にしておかないと…
きっと、気付かれてしまう。
気持ちを切り替えて、あたしはルビーに指示を出した。
「向こうにある公園を左」 「うん」
あたし達を乗せた自転車は、スムーズに角を曲がる。
「あの、大きい木がある家ったぃ」 「え、意外と家が近いね」
そう言いながら、ルビーはあたしの家の前で自転車を停めた。 あたしは荷台から降りた。
「?ルビーん家は何処にあると?」 「ボクの家は、さっきの公園を反対側に曲がった所にあるんだ」 「へぇ〜、近かねぇ!」 「でしょ?」
ガチャ…
「おぉ…。誰かと思えば、サファイア、帰ってたのか」 「あ、父ちゃん!!今帰って来たと!!」
あたし達が笑いながら会話をしていると、父ちゃんが家の中から出て来た。
「こんばんは」 「おや、君は…?」 「父ちゃん、ルビーったぃ!!暗いけんって言って、送ってくれたと!!」 「ハハッ、そりゃあ済まなかったねぇ」 「いえ、女性が暗い夜道を歩くのは危ないですから」
微笑みながらルビーが言った。
「あっはっはっ!!うちのサファイアを女性と見てくれているとは、ルビー君はなかなかのジェントルマンだねぇ!!」 「どういうことったい、父ちゃんっ!!」
ムッとして、父ちゃんに怒鳴った。
あたしだって女の子だ。 まぁ…、確かに他の男子からは女子扱いをされたことなんて、殆ど無いけれど…。
「じゃあ、ボクはこれで失礼します。また明日ね、サファイア」
そう言うと、ルビーは自転車に乗った。
「あ、うん!!送ってくれてありがとなぁ!!また明日!!」
ひらひらと手を振って、あたしと父ちゃんはルビーを見送った。
「サファイア、もしかしてルビー君のこと好きなのかい?」
家に入りながら、父ちゃんがあたしの心中を当てた。
「ふぇ!?あ…その…っ」 「ハハッ!!さては図星だな?大丈夫だ、父ちゃんは応援してるからな」
ポンポンッと父ちゃんが頭を叩く。
「ありがと…」
えへへ…と笑いながら、あたしは応えた。
「また明日、なぁ…」
お風呂に入りながら、あたしは思った。
これが、世に聞く一目惚れというものか、と。
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それからあたし達は、毎日放課後になると、一緒に図書室で勉強をして、一緒に帰るようになった。 まるで、幼い頃から知っていたかのように、あたし達はすぐに仲良くなった。
けれどその間にも、あたしの中の想いは、どんどん膨らんでいくばかりだった。
そんな日々が、数週間過ぎた頃。 あたしはとうとう決意した。
「なぁ、ルビー」 「何?」
いつもと同じ様に、自転車をこぐ彼の背中に手を回したまま、あたしは言った。
「ちょっと、気分転換に公園に寄りたか…」 「いいよ」
そして、いつもなら通り過ぎる公園の中へと自転車は入って行った。あたしは自転車の荷台から降りると、街灯に照らされたブランコに座り、ゆっくりこぎ始めた。
「ふふ、公園なんて久々に来たと」 「ボクもだよ」
ルビーも、あたしの隣のブランコに座りながら言った。
キィ…キィ…
街灯がぽつりぽつりとあるだけの暗い公園に、あたしのこぐブランコの音だけが静かに響いた。
「あんな、ルビー」 「何?」
あたしは、ザザッとブランコを止め、ルビーの方を見た。
「あたし、あんたのことが好きったぃ…」 「え…」 「すまんち、受験勉強が大事なこの時期に、こげなコト言ってしまって…。でも、来年からはお互い別々の大学に行って、もう会えんくなってしまう…。そう思ったら、胸が苦しくなって…」
ギュッと、制服のスカートを握り締めながら、あたしは言った。
「…不思議やね。出会ってまだ数週間しか経っとらんのに、胸の中はルビーでいっぱいになっとると…」
ヒュウ、と風が公園の中を吹き抜けた。
あたしは立ち上がって、夜空を見上げながら言った。
「言いたかったのは、それだけったい。こん気持ちさえ伝えられれば、それだけでよ…」
それだけでよか、そう言おうとした瞬間、ギュウッと後ろから強く抱きしめられた。
「ル…ルビ「ごめん、サファイア…」
ごめん…
あぁ、やっぱり駄目だった。 あたし、フラれたんだ。
そう思った。
「こういうの、ボクが言わなくちゃいけなかったのに…」
「え…?」
訳が解らず、あたしはルビーの顔を、振り返って見上げた。
ルビーは抱きしめていた腕を解き、代わりにあたしの頬に手を添えた。 そして、あたしの目を見ながら口を開いた。
「…ボクも、キミが好きだ」
時が止まったような気がした。
「う…そ…!?」 「嘘なんかじゃない。一目惚れ、なのかな…。最初に出会った時から、キミを好きになってた…」
「…」 あたしはこの状況がまだ信じられなくて、彼の紅い瞳を無言で見つめた。
「実は、キミと出会う前から気になっていたんだ。毎回生物で1位を取り続けてる女子が居るって噂を聞いて、一体どんな人なんだろう、いつか会ってみたいなって。その時は、勝手にライバル心を抱いてたんだけどね」
ふふっと笑いながら、ルビーは続ける。
「そしたら、キミの方から来てくれたからビックリしてさ。それに、想像していたよりもずっと可愛くて…まぁ、訛っているのは気になったけど…。でも、可愛いって思ったのは本当のことだし、キミの瞳…。凄く透き通っていて、なんて綺麗なんだろうって思った。その瞬間、ボクからライバル心が消えたんだ」
心地良い風が、頬を撫でた。
「キミを勉強に誘ったのは、少しでも一緒に居たかったから。メアドを交換したのは、もっとキミを知りたいって思ったから」
「ホント…?」 「うん…」
彼の紅い瞳は、揺らぐこと無くあたしの瞳を見つめている。
「サファイア…、キミが好きだ。こんなボクでよければ、付き合ってくれませんか?」
「はい…!!」
いつの間にか、あたしの目から涙が零れていた。
ルビーは優しくそれを親指で拭うと、そっと唇を重ねた。
一瞬だったかもしれないけれど、あたしの顔を赤く染めるには十分だった。
「帰ろっか、サファイア」
顔が赤いままのあたしの手を取り、ルビーが言った。
「…うん」
そうしてまた、いつものようにあたしは荷台に乗ると、前に乗っている彼の背中に腕を回す。
あたし達を乗せた自転車は公園から出ると、いつものように角を曲がって、あたしの家の前に停まる。
荷台から降りて、ルビーの方へ向き直る。
「ルビー、これからもよろしくったぃ!!」 「ボクの方こそ、よろしくね」 もう一度キスをした。
そして、今ではもう二人の日課となったコトバを、手を振りながら大きな声で言う。
『また明日!』
****あとがき****************
666のキリ番を踏んで下さった莉奈様のリクエストで、ルサ甘(学パロ)でした*^^* 思ったよりも、長くなってしまいました…すみません^^; 莉奈様、いかがでしたでしょうか…? ちゃんと甘くなりましたでしょうか??^^; 莉奈様のみ、お持ち帰り可能です。 気に入らなければ、返品して下さっても構いません^^ 書き直し致します!!
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