彼女のフリをしてたらいつのまにか外堀を埋められていた件6






「おー、今牛」
「カンちゃん…何?」
「今回のテストも赤点なかったぞ。ミョウジに感謝しとけ」
「ん。そういえば前デートとか言ってたけど彼女できた?」
「うっせ。聞くな。この年になると出会いもないしホントツライわ。オマエも松崎逃さないようにした方がいいぞ」
「わかってる」
「…」



これは…



「そういえばナマエちゃんは進路どうすんの?」
「××大目指してるよ。近場であんまりお金かからないところ。ベンケイくんは若狭くんとジムやるんだよね?」
「まだ予定だけどな。つか××大か。だからワカあの辺で家探してんのか。同棲すんの?」
「いや、それはな…」
「ま、そのうちね」
「…」



ちょっと…



「あれ、ワカクンの彼女さん?」
「あ、若狭くんのお友達の…。こんばんは」
「一人?ワカは?」
「今日はバイトに行ってます」
「へー。何してんの?」
「ちょっと落とし物しちゃって…」
「手伝うよ」
「申し訳ないので大丈夫ですよ」
「一人で暗い中いたら危ないし。それにワカクンに言われてるから」
「え?」
「困ってたら助けてやってって。あのワカクンがそんなこと言うなんて天変地異が起きたかと思ったけど、ホントお似合いだしワカクンもようやく落ち着いてよかった」
「…」

どうなのかな…?


なんとなく、少し前からおかしいなとは思っていた。

その全てを
「若狭くんは完璧主義だから」
で片付けてきてしまった私がいけなかったのかもしれないけど、それでは片付けられない事態になっている気がする。


私って…うそカノ、だよね?







若狭くんに多大な迷惑をかけてしまったボウリングの日から早三ヶ月。3年生になっていよいよ受験モードが始まりだした特進科だけど、私はそんなに上を狙ってるわけでもない。なのでまだのほほんとしているけど、逆にうそカノ業は忙しい。怖いもの知らずの新入生は若狭くんに声をかけようとするし、どこから聞きつけたのか知らないけど黒龍が解散して引退することにしたのを知って、暴走族じゃないなら若狭くんに遊ばれてみたいなんて言い出す人もいる。

たくさん迷惑をかけたお詫びにとめちゃくちゃ頑張った。それはもう。恥をしのんで若狭くんとの仲良いアピールを…それがいけなかったのかもしれない。

最近周りから仲のいいカップル認定されすぎて、あれ、ひょっとしたら私若狭くんの彼女だったのかも、なんて脳がバグり始めた。自分で蒔いた種なので自業自得と言えばその通りなんだけど。

でも若狭くんもいけないと思う。ボウリングの日以降、明らかに私への対応がうそカノに対する態度じゃないんだもん。


◇◇◇


「ナマエ」
「ん?何?」
今日も今日とて屋上でお弁当を食べていると、先に食べ終わった若狭くんに話しかけられた。
「土曜日暇?」
「午前中は塾の模試があるけど、午後からなら。何かあった?」
「最近色々迷惑かけたしなんか欲しいもの買ってやるワ」
「え、いいよ。お礼してもらうようなことしてないし」

これが私の仕事だし。むしろ罪滅ぼしのつもりで頑張っただけ…そう言いたいところだけど、今日はベンケイくんもいるのでそれ以上は言わない。

「バイト代入ったし、彼女にプレゼント買うぐらいの甲斐性あるけど?」
「えーと…」

会話が噛み合ってない気がするのは気のせいかな。しかもバイトは一人暮らしの資金稼ぎのために始めたって聞いてたし、たかが一うそカノにそんな大切なお金使わせるわけにはいかない。

「一人暮らしのためのお金でしょ?私なんかに使わないで貯めた方が…」
そう言うとなぜか若狭くんはムスッとする。

な、なんで?正論を言ってるはずなのになんで怒るの?

するとベンケイくんがアッハッハと笑い出す。
「女を振り回しまくってたワカがこんなんになるとはナァ。ホント女泣かせの白豹が見る影もねェな」
「ウルサイ」
「ナマエちゃん、男って自分の女にいいトコ見せたい生き物なんだよ」
「は、はあ…」
「ま、そーいうこと。土曜迎えに行くからなんか欲しいの考えといて」

それってうそカノでもそうなの?わからない。若狭くんのうそカノの扱い。結局何か買ってもらうことになってしまったので、こうなったらなるべく高くないものを考えておこう。







土曜日。
模試の手応えは悪くなかった。ほっと胸を撫で下ろして急いで塾を出ると、慣れた様子で塾の壁にもたれかかって私を待つ若狭くんがいた。(ちなみに若狭くんが迎えにきてくれるのを塾の人に度々目撃された結果、不良の彼氏を迎えに呼びつける女という不名誉な称号を頂いている。ホント、なんでいつもこうなるの…)


「若狭くん、お待たせしました」
「おつかれ」

バイクの駐輪場まで歩いていると、
「なんか欲しいモン考えた?」
と聞かれる。
「えーと…シャーペン?」
「…は?」
「使ってたの壊れちゃって…。書きやすいちょっといいのが欲しいなーなんて…」
「…」

若狭くんの冷たい視線が刺さる。

あ、やばい。怒ってる。やっぱりこんな時にシャーペンとか言い出すのは良くなかったかな…
若狭くんのこと甲斐性ないって思ってるんじゃないんだよ。彼女でもないのに何をおねだりしたらいいかわからないし!なにより本当にシャーペン欲しい。

と心の中で言い訳するけどそんなこと言えず…結局眉間に皺を寄せた若狭くんに
「…。乗れ」
とバイクに乗らされる。
「はい…」

バイクに乗ると、若狭くんは無言で走り出した。ロフトかハンズか…どこに向かっているのかわからないけど、しばらく走って着いてみればそこは若者に人気のアクセサリーショップ。

「ここって…」
「行くぞ」
「え?」

もしかしてシャーペンじゃなくてアクセサリー買ってくれるってこと?それは流石に申し訳ない。ここ結構お高めのお店だし…

「でも…私シャーペン…」
「ごちゃごちゃうるさい」
「すみません…」

こ、怖い…

お店に入ると何組かのカップルが仲良さそうにお揃いのリングだったり、彼女へのプレゼントを選んでいる。

陳列されたアクセサリーを見ながら進んでいくと、少し前から欲しいと思っていたネックレスを見つけた。本物を見るとホント可愛いし欲しくなる。でもお値段は可愛くない。やっぱり諦めよと目を別のものに移そうとすると、
「それでしょ、オマエが欲しがってたの」
と若狭くんが呼び止めてくる。
「え?」
「雑誌見ながらずっと唸ってたし。見てればわかる」
「う゛…」

よく見てる…。若狭くんのこういうところが女子の心を掴んで離さないんだろうな。

「似合いそうだしいいんじゃない?」
「でも…」

流石にこれを買ってもらうわけには…
またごにょごにょ言っていると、店員さんが来て、
「ご試着できますよ」
と営業スマイルを浮かべながら唆してくる。

「着けてみれば?」
「うーん…」

ダメダメ…つけたら絶対欲しくなるし…

けれど二人からのプッシュで結局着けてしまって、
「よくお似合いですね!」
なんて定型分だってわかってるはずなのに店員さんの言葉にニコニコしてしまう。似合ってるかはさておきめちゃくちゃ可愛い…!欲しいー!

うちの学校アクセサリー禁止じゃないし、シンプルだから着けて行ってもいいかも。どうしよう、お小遣いはたいて買っちゃおうかな…。

なんて外した後も浮かれた顔をする私の気持ちを察してか、若狭くんが流れるようにお会計をする。

「あ!わ、若狭くん…」
「その辺見てて待ってて」
「え…」

結局買ってもらってしまった…も、申し訳ない…。

お店を出てバイクのところまで戻ったけど、やっぱり彼女でもないのに買ってもらってしまったことにモヤモヤする。

「あの、やっぱり悪いし自分で払うよ。私自分の仕事しただけだからお礼にこんなものもらうの申し訳ないし」
「なに言ってンの?オマエが欲しいのはシャーペンでしょ?今から買いに行くから」
「うん?」
「これはオレが買いたくて買っただけ」

そう言うと包装されたネックレスを取り出して私の首につけてくれた。

「ん。いいじゃん」
そう笑って私の頭を撫でた。

待って…何このイケメン…ホント怖い。

ここまで言ってもらったし、ありがたくもらおう…

「あの、本当にありがとう。大切にするね!」
「ん」

その後頑張って辞退しようとしたけど、結局ちょっといいシャーペンまで買ってもらってしまった。
「これに懲りたら、シャーペン欲しいとか色気ないこと言うのやめろ」
というお小言付きで。

本当に申し訳ない…



その後まだ時間もあるしと連れて行かれたのは今牛家。

「ドーゾ」
「お、お邪魔します」

まさかの事態に恐る恐る玄関に足を踏み入れると、中からドタドタと足音が聞こえてきて、現れたのはピシッとしたパンツにライダースジャケットを格好良く着こなした若い女性。若狭くんによく似てて美人。お姉さんかな?

「なんでいンの?仕事は?」
「忘れモン。休憩中に取りに来ただけだからすぐ行く」
そう言うと女性は私の方を見てにっこり笑う。
「いらっしゃい。若狭の母です」
「え!?お母さん!?」
「?」
「あ、すみません…すごく若くて綺麗なのでお姉さんかと…。ミョウジナマエと言います。若狭くんとはど」
「彼女」
「…」
同級生と言おうとしたところ若狭くんに彼女と被せられる。なんでお母さんに嘘をつく必要があるのか…わからない。若狭くんの完璧主義。

「ナマエちゃんね。いつも息子がお世話になってます」
「こちらこそいつもお世話になっています」
「若狭が彼女連れてくるなんて初めてだわ。アンタにもちゃんとした彼女できたんだ。しかもめっちゃいい子」
「若く見られて喜ぶな。なんでもいいけど時間は?」
「あ。もう行くわ。それじゃあナマエちゃん、ごゆっくり。また話そうね」
「はい!」

そう言うと慌てた様子で若狭くんのバイクの隣に停めてあったこれまたド派手なバイクに乗って颯爽と走り去っていった。

え…


めっっっちゃカッコいい!

「若狭くんのお母さんめちゃくちゃ素敵な人だね!綺麗でカッコいい!」
「若作りしてるだけだから」
「そんなことないよ!バイク乗ってる姿も素敵だし、憧れるーっ」

バイクに華麗に乗る後ろ姿を思い出しただけでニヤつく。そんな私を若狭くんが冷たい目で見てきた。

「…」
「あ、ごめん。鬱陶しいよね」
「オレがバイク乗ってるとこ見ても何も言わねェくせに」
「え…そんなことないよ」
「ある」
「ホントだよ。だって若狭くんのこと、その…カッコいいなって思ってるし」
「そ」

あ、信じてない。
なんでか不機嫌になる若狭くんを宥めた後、2階にある若狭くんの部屋に入ると予想通りシンプル。

「あ、これ見せてもらってもいい?」
本棚に並ぶバイクの雑誌を見つけて指さす。
「いいけど。そんなん見て楽しい?」
「うん。最近よく乗せてもらうからちょっと興味が」
「ふーん。じゃ、それ持ってこっち来て」
「うん」

適当に一冊取ってベッドにもたれかかって座る若狭くんの隣に座ろうとすると、
「こっち」
と無理やり若狭くんの足の間に座らされる。

「と、隣でよくない?」
「オレも見るから。こっちのが見やすいし」
「近すぎるんだけど…」
「オレのことカッコいいって思ってるんじゃなかったっけ?それならいいじゃん」
「…」

まだ怒ってたのか、さっきの…
また不機嫌になってもあれなので、仕方なく心臓の音が聞こえませんようにと願いながらそのまま見ることになった。

「あ、これ若狭くんのバイクと同じ?少し違く見えるけど」
「あれ改造してるから。真ちゃんにも色々いじってもらってるし」
「へー!あ、真一郎くん卒業したらバイク屋さんやるんだよね?すごいね」
「…前から思ってたけど真ちゃんと仲良すぎ」
「そんなことないけど。お昼若狭くんが来る前にそんな話を一回したことがあっただけで」
「…ま、いいワ」

あ、珍しく怒られなかった。よかったと思って雑誌に目を戻した瞬間、髪をサイドに避けられた。
「わ、若狭くん?」
何してるの…そう言おうとしたら若狭くんの指がネックレスをなぞる。

「ッ…!?」

その感触にぞわっとして私の声にならない声が漏れる。若狭くんの足の間から逃げ出そうとするけど、お腹のあたりを掴まれて逃げれない。そして私の首についたネックレスを触りながら
「もう首輪つけたんだから他の男に尻尾振んなよ」
と意地悪そうに笑ってくる。

「首輪って…尻尾なんて振ってないし!」
「それならいいけど」
「それにこういうのは彼女にしてってば」
「オレの彼女、オマエだし」
「うそカノだから!」
「別に同じじゃん」
「全然違うよ!」

それからも暴れる私を
「ナマエ、首弱いだろ。大人しくしないとまた触るから」
と言う一言で黙らせた。その後若狭くんのザリをどうカスタムしたかとか教えてくれたけど、何にも頭に入ってこなかった…ちゃんと聞きたかったのになぜ今言う…


結局ずっとこんな感じでただいちゃいちゃして一日が終わった。

今日のやりとりを見ていて、皆さんはどう思っただろうか。

私だったら間違いなく二人は付き合ってると言う。

私の脳がバグってるんじゃないよね?若狭くんの態度の問題だよね?

若狭くんからの彼女扱いが最近ますます激しくて…。側から見れば前より仲良くなってるんだなって感じだろうし、たしかにその演技もうそカノの仕事なのかもしれない。けど、あんな素敵なプレゼントくれて、誰もいないところでイチャイチャして、それにお母さんに彼女って紹介されたら誤解してもおかしくない!

ただでさえ周りからの反応でいっぱいいっぱいなのに、こんなことされるとホントに勘違いしそうになる。身の程知らずの恋をするのも、うそカノが若狭くんの遊び相手に変わるのもごめんなのに…。とりあえずもう若狭くんのうちには行かないでおこう。そう心に誓ったのに、翌週にあっさりとその誓いは破られた。







「ナマエ、今日も若狭くんとお昼食べないの?」
「あ、うん。今日も休みみたい。一緒に食べていい?」
「もちろん。でもワカくん珍しいね。目に入れても痛くない可愛いナマエと付き合ってからこんなに学校来てないことないんじゃない?」
「…」

小百合までやめて…


あれから3日。しばらく弁当いいワという連絡以外は特に若狭くんと連絡を取っていない。ホント少し離れないと勘違いが進みそうなのでいい休憩が取れてよかった。まぁ周りからの攻撃は続いて地味にHP削られてるけど。ホントあまりにも付き合ってることを周りに浸透させすぎた…。

そして音沙汰がないままさらに2日が経って流石に私も心配になってきた頃、ついに関先生に呼ばれてしまった。

「ミョウジ」
「は、はい」
「今牛にこれを届けてくれ」
「またプリントですか?」
「ああ。あとこの調子で休むとホント出席日数やばいからマジで学校来るよう言って」
「わかりました…」

そう頼まれたので若狭くんに電話をしたけど出ない。メールも返信がない。

え…若狭くん、生きてるよね?サボってるだけだよね?

急に不安になってきて急いで今牛家に向かうと、静かで人の気配はしないし、チャイムを押しても誰も出てこない。どうすることもできないので、とりあえず関先生の伝言を書いたメモと一緒にプリントをポストに入れようとしたとき、どこからか私の名を呼ぶ声が聞こえる。

「ん?」
「上」
その声につられて上を見ると、若狭くんが自分の部屋の窓から顔を出していた。
「今行くワ」

待っていると、玄関からラフな格好の若狭くんが出てくる。

「どーした?」
「これ、関先生に頼まれて…」
そう言いながら若狭くんにプリントを渡す。
「連絡したけど出ないから心配したよ」
「集中してて気付かなかった」
「集中…?」
「上がってけば?つかメシ作って」
「え?」

ようやくここで若狭くんをしっかりと見ると、どうもいつもと違う。

なんか少し顔赤い…色っぽい…

じゃなくて
「若狭くん熱あるの?」
「ん。久々に風邪なんて引いた。親にうつされたワ」
「そうだったんだ…お母さんは?」
「見ての通りウチ放任だから自分が治ったら仕事溜まってるからってさっさと仕事行った」
「そっか…若狭くんもお母さんも大変だね…」
「腹減ったからナマエのメシ食べたいんだけど」
「いいよ。とりあえず体調悪いんだから早く部屋戻ろ。台所借りていい?」
「ん」


風邪の時って普通おかゆ…?私が体調不良の時はお母さんにレバニラ食べさせられるけど。あれは貧血持ちだからなのかな…

結局たまごのおかゆを作って部屋で待っている若狭くんのところに持っていくと、若狭くんは寝て…なかった。それどころかなんか機械をいじっている。なんかバイクの部品なのかな?カラーリング的にザリの色に似てるし。

しかしこれに集中してたのか…この人、熱ある自覚あるのかな…食欲あるぐらいだしそんなに熱高くないのかな?

「若狭くん、寝た方がいいよ…」
「あと少し」
「あと少しじゃなくて…そもそも熱測った?何度?」
「測ってない」
「測ってからご飯食べよ…」

無理やり体温計を渡して測らせると37.9℃。
「寝てください」
「あとちょっと」
「ダメ。寝ない子にはおかゆはあげないから」
「…はいはい」

なぜか嬉しそうにベッドに座ると、
「言うこと聞いたから食べさせて?」
と笑う。

…なにそれ。こっちの気も知らないで…

「今まで元気に機械いじってた人は自分で食べれます」

若狭くんがあまりに無自覚に私を翻弄してくるので流石にムカついてきて、いつもより強めの口調になる。

「言うようになったな」
「言いたくもなるよ…」

でも結局子供みたいに駄々をこねる若狭くんに負けて食べさせることになった。ホント私って弱い。誰か助けて。


食べ終わった食器の片付けをしていると、バイクの音が聞こえてきた。もしかして若狭くんのお母さんかな?若狭くんがここにいない上に勝手に色々使わせてもらってしまっているので、申し訳なくて玄関で待っていると疲れた様子のお母さんが入ってきた。

「あれ?ナマエちゃん?」
「すみません、お邪魔させていただいています」
「いーよいーよ。若狭のお見舞い?ありがとね」
「はい。それで勝手に台所を使わせていただいてしまいまして…」
「全然構わないよ。それにしても若狭、ナマエちゃんのご飯食べるんだ」
「あ、はい」
「あの子人が作ったのキライとか言って昔から食べなかったんだけど。へー」

そう言いながらキッチンに向かうとお母さんがおかゆの入った鍋の蓋を開ける。
「私ももらっていい?あんまり食欲ないからおかゆちょうどいいし」
「もちろんです。お口にあうといいんですけど」
「ありがと。ちょっと着替えてくるね」

お母さんが着替えている間におかゆを温め直していると、それになぜか感激されてしまった。







「ごめんね、後片付けまでやらせちゃって」
「いえ。お母さんも病み上がりなのでゆっくりしてください。むしろ勝手に色々使わせていただいて申し訳ないです」

食べ終わった食器を片付けていると、機嫌のいい時の若狭くんと同じ顔をして笑うお母さんが私を見ているのに気が付いて一度手を止める。

「うち、夫が早く死んで働くのに必死だったからあんまり面倒見れなくて。自分のこと言えないけどあんな感じでグレちゃって。まあ楽しそうにやってるからいっかって放置してたけど、心配はしてたんだよね。でもナマエちゃんみたいないい子が若狭の彼女になってくれて安心した」
「そんな…若狭くんは優しいしかっこいいし、本当に付き合ってもらってるのが申し訳なくて」
「申し訳ないとかないから。うちのバカ息子相手するの大変だと思うけど、愛想尽かさずこれからもよろしくね。このままナマエちゃんがお嫁さんにきてくれたら嬉しいけど」

それは気が早いか、とお母さんが笑った。母一人子一人で頑張ってきたんだろうその言葉には重みがあって、とてもうそカノに向けられて良い言葉じゃないと思う。ここ最近になく罪悪感が湧いてきて、お母さんの言葉に曖昧に笑って、片付けの続きに戻った。

「私この後また出かけるけど、ナマエちゃんはゆっくりしていってね」
「あ、ありがとうございます」

そうは言ったものの、あんまり風邪の若狭くんや病み上がりのお母さんに迷惑もかけられないしそろそろ帰ろ。若狭くんに一言言おうと彼の部屋に入ると、若狭くんが読んでいた雑誌から顔を上げて
「おせェ」
と文句を言ってくる。

「お母さんが帰ってきてちょっとお話ししてた。それより若狭くんはホントに大人しく寝ないね」
「寝るときは寝るし」

もー。こんなんだからいつまでも治んないんだよ。結局一週間学校休んでるし…

「あ、そういえば関先生が出席日数心配してたよ。早く治して学校来てね」
「来週からはちゃんと行くワ」
「うん。待ってるね。じゃあそろそろ帰るね」
「…久々に会ったからまだ帰したくないんだけど」
「でも私いると寝れないだろうし」
「じゃ、一緒に寝よ」
「え、それは」

無理…そう言おうとしたのに若狭くんに手を引っ張られて、気付けば布団の中で眠る若狭くんの腕の中にいた。

「わ、かさくん!ちょっと!」
「ウルサイ。寝るから」
「!!」

結局若狭くんは私を抱き枕にするとすぐ寝てしまった。せっかく寝たので起こせないけど、代わりにこっちは緊張して体がかちこちになって背中の筋がつりそうになる。

もーーー!ホント人の気も知らないでこんなことばっかする!!

けど人間、少し経てばこのおかしな状況にも慣れるもので、熱のせいかあつい若狭くんの肌と規則正しい寝息に眠気を誘われて、気付けば私も若狭くんの胸に顔を預けて寝てしまった。







「んっ」

しまった。寝ちゃった…

起きると目の前にあの整った顔があって、ついのけぞる。けど、未だ抱き枕にされているので逃げられない。仕方なくそのまま若狭くんの顔を見つめる。どれくらい時間が経ったかわからないけど、さっき見た時よりも顔の赤みもないし、呼吸も辛くなさそう。よかった…しかし見れば見るほど整った顔。

ホントイケメンさんなんだよなぁ…

やっぱり好きだなぁ…


………ん?好き?

違う違う!好きじゃない!ちょっと好きになりかけてるけど好きじゃない!!好きになってもいいことないんだからやめさない、私!

この状況がいけないんだと起こさないように少しずつ若狭くんの腕を外そうともがいていると、
「ンッ」
と若狭くんがみじろぎして、今度は背中側から抱きしめられる形になる。

…お腹掴まれて逃げれない。女子としてデリケートなところだから触らないで欲しいんだけど…

若狭くんの力には敵わないので仕方なく大人しくしていると、若狭くんの寝息が首筋にかかる。

ゾワゾワしてくすぐったいようななんか変な感じがする。それが続くので我慢できなくなってきて声が出そうになる。なんとか逃げようとするけどさらに強く抱きしめられる。

うー、やばい…なんか変な感じする…

最近知った自分の性感帯への無意識の攻撃にもぞもぞしていると、首筋にかかる吐息が強くなった。それに身構えると、

ペロッ

「ひゃッ」

首筋にざらりとした濡れた感触がして、体が今までになくぞわりとして自分のものとは思えない変な声が出る。

な、何今の!?


首、な、な、なめられた…?

「わ、わあーーーー!」

あまりの事態に気づけば叫んでいた。

「何…?」
「わ…」
「わ?」
「若狭くんのバカー!!」

寝ていた若狭くんを起こしちゃったとか、そんなことはもはやどうでもいい。私は叫びながら今牛家から全速力で逃げ出した。



◆◆◆



授業がダルくて屋上に行くと、先客がいた。
ワカが寝転んでいて、ベンケイが筋トレしている。見事に対照的な二人。

「おー、真」
「それ以上鍛えてどうすんの?」
「サボるとすぐ衰えンだよ」
「さすがベンケイ。で、ワカはずっとサボって何してたんだよ?」
「風邪で寝てた」
「マジか。ワカが引く風邪とかどんな風邪だよ」
「…オレのことなんだと思ってンの?」
「無敵のタラシ特攻隊長」
「違ェねぇ」

そんなどうでもいい話をしていると気付けば昼飯の時間。そういえばとベンケイがオレを見る。

「真、またフラれたんだって?」
「ンで知ってんだよ」
「弱すぎてそろそろ笑えないワ」
「ウルセーな」

今回はホント好みドストライクの子だったんだけどな…美人で普段はツンとしてんのに笑うと可愛いし、運動する時だけするポニテが揺れてつい追いかけたくなる…

思い出すとツラ…

「そういえばワカなんでポニテ嫌いなんだよ」
「別に嫌いじゃねェけど。なんで?」
「ナマエちゃんから聞いた」
「あー」

ワカが咥えた棒を口から外しながら思い出したように言う。

「アイツのうなじにホクロがあるんだけど、それがエロいから他のやつに見せたくねェだけ」

ふーん。聞くんじゃなかった。

「ワカって独占欲強いよな」
「オレも思ってた。そんなんだったか?」
「別にフツーだけど。まぁナマエは遊びじゃねェし」
「つか今日ナマエちゃんは?昼なのに来ねェな」
「アイツが見舞いに来た時寝たフリしてそのホクロ舐めたらキレられた。しばらく昼来ないらしい」

へー。聞くんじゃなかった。

ホントコイツら見てると砂吐く。







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