彼女のフリをしてたらいつのまにか外堀を埋められていた件3
バレンタインも指折り数えられるようになってきた頃。
珍しく家庭科で調理実習という遊びみたいな授業があって、しかも先生のご好意で好きなものを作っていいらしい。神授業!小百合の提案で、私の班は四人でそれぞれ違う味のマフィンを作ってみんなで分け合うことにした。
「ねぇ、ナマエはこのマフィン、ワカくんにあげるの?」
「…え?」
全部自分で食べようと思ってたんだけど…
「調理実習で作ったものって結構彼氏とか好きな人に渡しに行く子多いんだよ。普通科も調理実習あるからワカくんに渡そうとする子もいるかもしれないし、行って阻止したほうがいいんじゃない?」
「え゛、そうなの!?」
バレンタインすら嫌がってるのに調理実習のものまで渡されたら若狭くん絶対に嫌がるよね。これはうそカノの出番に違いない。
けど…
普通科は特進科と違って女の子たちが華やかできらびやかでなんというか…カースト上位みたいなイメージがあって、どうも足を踏み入れにくい。一言でいえばなんかコワイ。なので若狭くんに会いに行くのを躊躇する。
けどそんなことを言っている場合ではない。うそカノの本分を果たすためにもやるしかない!
そうして私はマフィンを四つ持って魔の巣窟(偏見)普通科へ足を踏み入れた。
◇
若狭くんは確か二年E組…
すれ違う女の子がみんな可愛くキラキラして見える。男子が多い特進と違ってなんかいい匂いもする気がするし。魔の巣窟どころかオアシスだった。勝手なイメージを持っててすみませんでした。
そんなオアシスに私みたいなのは浮いてるに違いないと思ったけど、若狭くんのネクタイのおかげで特に目立つことなく無事E組までたどり着いた。
今日のお昼は若狭くんのクラスに行くと伝えたので、いるのは間違いない。教室を覗くと後ろの方で可愛い女の子が何人か騒いでいて、その手にはお菓子が握られている。そしてその女の子たちに囲まれているのは、我関せずと窓の外を眺めている若狭くん。
一足遅かったか…
あんな風に女子に話しかけられている若狭くんのところに行く勇気は流石にないので、少し待とうと足を一歩引いたらドンっと誰かにぶつかった。
「わっ」
壁にぶつかったみたいな衝撃によろけると、
「悪いな」
と謝られた。
「こちらこそすみませ…あ、ベンケイくん」
「おー、ナマエちゃん。珍しいな。ワカに用?」
や、今は違います、と言う前に、
「オイワカ!嫁が来てるぞ」
と大声で若狭くんを呼ぶ。
ぎゃーーー!!ベンケイくん、今じゃないし、嫁じゃない!!
その声に若狭くんとクラスの人がこちらをジロリと見てくる。特に若狭くんの前にいた女子。視線が痛すぎる…
そんなことを言っていると若狭くんがとびきりの笑顔で、
「ナマエ。こっちおいで」
と私を呼ぶ。
そして前にいた女子にそこどいてと言うものだから、その子たちは私をすごい目で睨んで去って行った。
私の命日は今日かもしれない…
どんよりした気分で若狭くんに近付いて行った。
「オレの前の席真ちゃんだから座れば?今日休みだし」
「そ、そうなんだ。それなら失礼します…」
めっっっちゃ見られてる。久々に視線で死ぬかもしれないと思うくらい。でも若狭くんはそんなのどこ吹く風で、ニコニコ、いやニヤニヤしながら私に話しかけてくる。
「どうした?ナマエから来るなんて初めてだけど」
「う、うん…」
マフィンを渡して帰るだけ、マフィンを渡して帰るだけ。
それだけなのに視線に緊張して言葉が出てこないでいると、
「それ、オレにくれるの?」
と助け舟を出してくれる。さすが若狭くん…。
「う、うん。今日調理実習でつくったマフィンなんだけど、よかったらどうぞ」
そう言ってマフィンを渡す。
「チョコチップとバナナとチーズとくるみの四種類あるよ。4人で作ったんだけど、みんな違う味にしたんだ」
「ふーん。じゃ、ナマエが作ったのだけもらうワ」
「あ、うん。私が作ったのは…」
これ、と指さそうとしたら遮られた。
「若狭くん?」
「オマエが作ったの当てるから、当たったらご褒美ちょうだい」
「ご褒美?」
「ウン。ダメ?」
…。私はプロのうそカノ。そういえば尽くす女作戦もやってなかったし、もうここまで来たらどうにでもなれとニッコリと笑って
「もちろんいいよ」
と答えた。
若狭くんはニヤリと笑って(この時点で嫌な予感はしてた)、四つのマフィンを並べてすぐにチョコチップを手に取り、ラッピングを外してぱくりと食べた。
「これでしょ、ナマエの」
まだ何も答えてないのにチョコチップのマフィンをもぐもぐと食べ切って、親指を最後にペロリと舐めた。
…なんかいちいちエロいんだよな、若狭くんって…
じゃなくて…
「なんでわかったの?」
「よく弁当食べてるからなんとなくわかる」
「マフィンにお弁当関係ないけどなぁ」
不思議そうにしている私を見て、若狭くんはうまかった、ありがと、と言って私の頭を撫でた。
「じゃ、ご褒美ちょうだい?」
「う、うん。何がいい?」
「ナマエの家行きたい」
「…え、うち?なんで?」
「紗南の両親に挨拶したいし」
「あ、挨拶!?」
「ダメ?」
ダメでしょ!うちの親が初彼氏!と喜んじゃうでしょ。断ろうとすると、
例の顔でじぃーーっと私を見てくる
う゛…嫌な予感してたんだよな…
「い、いいよ…」
まあうそカノもバレンタインまでだから、どうせうち来ないよね。そう思うと気が楽になって、
「楽しみにしてるね」
と私もニッコリしながら返事をしておいた、
その後もしばらく若狭くんに話しかけられて、気付けばお昼休みは溶けてなくなった。
そして今日の件はすぐに学校中に広まった。しかも若狭くんがうちに結婚の挨拶に来るらしいとまたしても尾鰭がついて。これはベンケイくんが私のことを嫁と呼んだのが悪いと思う。
ちなみにこの時の若狭くんのうそカレっぷりが本当にヤバくて口に出すのもはばかられる。思い出すと恥ずかしくて死ぬ。
遊んで欲しいと若狭くんに告白してくる女の子もどうかと思うけど、やっぱり若狭くんの人を勘違いさせる言動もどうかと思う…。まあそう言ってもハハッと笑われるだけだとわかってるのでいちいち言わないけど。
◇◇◇
「若狭くん、最近も女子から声かけられるの?」
「最近はない」
バレンタイン前日。今日ももぐもぐと美味しそうにお弁当を食べてくれるので作りがいがある。あと食べてる時の若狭くんはちょっとリスみたいで可愛い。
正直何事もなくここまで迎えられて肩透かしなくらい。
いや、公開告白で名前出されたり、教室でイチャイチャしたり、何事もなくはなかったんだけどね。だからこそ逆に不思議だ。
「結局私も呼び出しとかないんだよね。覚悟してたんだけど」
「まあオレの彼女がちゃんと頑張ったからじゃない?」
そう言ってイイ子と私の頭を撫でる。
「…。若狭くんって頭撫でるの好きだよね」
「ん。まあ、オマエの頭限定だけど」
「……。」
もううそカレが定着しすぎた若狭くんは置いておいて。でもここまでファンに絡まれずに来られて本当に安心した。だって呼び出しとかめっちゃ怖いし。ファンの皆さん、静観してくれて本当にありがとう。無事私も役目を終えられそうです。
まあでも静観してくれてるのも若狭くんが頑張ってうそカレしたからだよね。結局私はそんなに役に立てなかったな…
「今年のバレンタインは安泰ってことでよさそう?」
「多分ね」
「そういえばなんでバレンタイン貰うの嫌なの?」
「貰うのが嫌っつーか、めんどいだけ。でも人の手作り嫌い。何入ってるかわからないし」
「へー、そうなんだ。でも好きな人にあげるものに変なもの入れる人はいないと思うけどね」
「…髪の毛とか入ってたことあるし」
「え!?気持ち悪ッ」
「それから手作り食えなくなった」
「それはトラウマだね、可哀想に」
「でもオマエのなら別」
「え?」
「ナマエの手作りなら食えるから」
…ん?
まあそうだよね。お弁当とかマフィンとか食べてるし。
「期待して待ってるワ」
……。ん?
「この間のマフィンじゃダメかな?バレンタイン特に何も作る予定なかったんだけど…」
「…」
◇◇◇
結局作ってしまったのを責めないでください。だってあの顔におねだりされて断れる人いる!?
バレンタイン当日はいつもの屋上で待ち合わせにした。前は屋上でご飯を食べてる不良さんが何人もいたけど、最近はとんと見ない。大体私たち二人か、いつものメンバーがいるくらい。不良さんたちにも慣れてきていたので少し寂しい。みんな寒いから別のところで食べてるのかな?たしかに2月の屋外はキツいし。
屋上のドアを開けると冷たい空気が吹き込んできて震える。寒っと言いながら外に出るといつものところにもう若狭くんが座っていたので、私も隣に座る。
「若狭くん、おまたせしました」
「ん」
「今日大丈夫だった?」
「ゼロだった」
「よかった!あ、これ…本気で要求されたのかわからないけど一応作ってきたのでお納めください」
そう言って昨日頑張って作ったチョコを渡すとなぜか若狭くんは息を吹き出して笑った。
「オマエ、ホント面白い」
何故笑う…。
「笑うくらいなら没収します」
「ごめんごめん。ありがと」
そう言うとラッピングを開いた。
「チョコレートブラウニーなんだけど、大丈夫だった?」
「ウン、好き」
そう言うと一つつまんで口に入れた。
「うま」
「気に入ってもらえてよかった」
若狭くんはもぐもぐしながら私に包みを渡してきた。
「…?これ私に?」
「ん」
包みを開けると、中にはチェックの大きめのストールが入っていた。肌触りが良くてあったかい。
今日でこの関係も最後だからちょっと早いけどホワイトデー的なやつかな。まあホワイトデーの頃はもう会わないもんね…。
なんだか急に寂しくなってきた。恩返しとして言い出したうそカノだったけど、なんだかんだ言って楽しかったし、若狭くんに彼女扱いされて幸せだったな。これからは身の丈にあった恋をして、若狭くんのことは忘れよう。少し時間はかかるかもしれないけど。
いい思い出をありがとう、若狭くん。
「ありがとう。大切にするね!」
「ん。ここ寒いし、これから昼食べる時使って」
「…え?」
「まあ弁当の礼みたいなの」
「え?来週からはここで食べないよね?」
「食べるけど。ここしか場所ないし」
「…」
ん…?
どういうこと…?
「あのー…。うそカノって今日で終わりだよね?」
「終わらないけど」
「えぇ!?バレンタインまでって話だよね?」
「誰もそんなこと言ってねェ」
「え!?」
…。
……。
………。
そういえば言ってないな!!
「いやでもバレンタインいらないから彼女のフリしてくれる人探してたんだよね?」
「オレは女に声かけられるのめんどいから探してただけ。ようやくオマエとのこと認めさせたのにこれで終わってたら意味ネェし」
「たしかに…」
よく考えればここで急に終えれらるはずない。あんなに仲良くしてたのにその後すぐ別れたらやっぱり遊びだったか、それなら私とも遊んでってなるよね…。
「もう終わるつもりだった?そんなにイヤ?オレと一緒にいるの」
「え……。嫌じゃない、けど…」
「そ。それならあと少し恩返しして」
「…恩返しの話って私したっけ?」
「言ってねぇけど、前“この御恩はいつかお返しします”とか言ってたし」
「覚えてたの!?」
「そんなこと言うヤツこの世にまだ存在してんだなってあの後腹抱えて笑ったから、忘れたくても忘れられねェワ」
「なんか複雑…。なんで言ってくれなかったの?」
「オマエも言わなかったし、別にどっちでも良いかと思ってたけど」
「…若狭くんってそういうところあるよね」
そう言うと若狭くんは
「で、恩返し、まだしてくれる?」
とニヤリと笑った。
「あ…ハイ。やらせてください…」
残念なのかはたまた逆なのか。深くは考えるのを放棄するけど、こうして私はうそカノを続けることになってしまった。
これは年齢=彼氏なしがどんどん更新される予感。まずい。
◇◇◇
お弁当を食べ終わって片付けをしていると、若狭くんにそういえば、と話しかけられた。
「今日時間ある?とりあえずこれまでの礼にどっか好きなとこ連れてくけど」
「あ、今日は勉強しようかなって思ってて」
「ふーん。ベンキョーね…」
「若狭くんだってテストだよ。勉強してる?」
「してるように見える?」
「…。でも若狭くんって要領良さそうだよね。授業聞いてるだけで大抵の問題解けそう」
「授業あんま受けてねェけどな。最近黒龍が忙しかったし」
「そっかぁ」
お昼に四人の会話を聞いて知ったけど、黒龍はもうすぐ日本一のチームになるところまで来ているらしい。今はその嵐の前と言ったところ。関東一と噂で聞いていたし、若狭くんからも少し話は聞いてたけど、まさかここまでとは…私の目の前で普通にご飯を食べるこの人たちがそんなふうにケンカをするなんてとても思えないので、正直そんなすごいチームの幹部の彼女と言う自覚はない。まぁうそカノだからそんな自覚なくていいけど。
「ま、オマエの後輩にならないようにはするワ」
「そ、そうだね」
「学年の違うネクタイ付けてオマエが周りになんて言われるのかは気になるけど」
「そんなことのために留年しないで」
(ちなみにうちの学校のネクタイは学年と科で違うので、全6色ある。今のところ違う学年のネクタイをつけてる人はいないので悪目立ちしそうで嫌だ。ただでさえ目立ってるのに…)
そう話していると冷たい風が音を立てて吹いた。
「寒っ」
そう言いながら膝にかけたストールで手を包んであっためる。若狭くんにもらったストールはあったかくてもうこれなしではお昼を迎えられそうにない。
あ、そういえば私がプレゼントをもらってる場合じゃない。誕生日プレゼントまだあげてない。
「そういえば若狭くんの誕生日プレゼントって何がいい?遅くなっちゃったけど」
「別にいらない」
なんかそう言う気はしてた。でもなんだかんだ言いながらも友達からケーキを出されて喜んでたし、何かはあげたい…。
あ、そうだ!
「若狭くん、よかったら一緒に勉強しない?」
「…」
「誕生日プレゼント、一緒に勉強して、そのあと買いに行こうよ。バレンタインのお礼にどこか行くのは図書館ということで」
「…デートで図書館行くとか色気ないこと言うヤツ初めて見た…」
「若狭くんの今までの彼女と一緒にされても…」
別に図書館デートってアリだと思うけど。というかデートじゃないし。
そんなにダメなら撤回しようと思った時、若狭くんがニヤリと笑った。
あ、またなんかろくでもないこと思いついたな…
「オマエの家で、飯作ってくれるならやるわ。別にプレゼントとかいらねぇけど、くれるならオマエの手料理がいい」
「…え、うち…?図書館じゃダメ?料理ならお弁当食べてるけど…」
「弁当とは違うし。ご褒美にナマエのうち連れてってくれるんじゃなかったっけ?」
「…」
「まぁ、ナマエが嫌ならイイけど」
そう言いながら私の方をいつもの顔でじっと見てくる。
…。
本当にこれだから顔のいい人は…。こうすれば断らないってわかってるんだよね…。
そう、断れないんだよな…。
「わかった。うちで勉強しよ。でも土曜日でもいい?」
「ん。親いんの?」
「うん、いるよ」
「オレのことはちゃんと彼氏って紹介しろよ」
「え゛?なんで?」
「こんな見た目でうそカレですとか印象悪すぎるし、オマエと友達ってガラでもないし」
「確かに。わかった、そうするね…」
ちなみに家に帰ってその話をすると、普段からお弁当余分に作ってるし、家までバイクで送ってもらうときの音が響くので、お母さんは私に彼氏がいるのはわかっていたらしい。まあそうだよね…。本当はうそカレだけど。
そのうそカレを連れてくると言ったら大喜びして、娘の初彼氏!と無駄に気合を入れていたので、若狭くんの見た目を見てもびっくりしないようにとだけ伝えておいた。
うそカノの期限もなくなったわけだけど、なんか後に引けない感じになってるのは気のせいかな…?うん、気のせい気のせい。
◆◆◆
昼から学校に行ったらオレの席は無くなっていた。いや、正確にはあるんだけど、なぜかナマエちゃんが座っていた。それは別に全然良いんだけど。
「真」
「おー、ベンケイ。オレの席がないんだけど」
「さっきナマエちゃんが珍しく来てな。さっきからあんな感じ」
そう言うとワカとナマエちゃんを指さす。それにつられて二人に目を向けると、ワカが前を向いて座るナマエちゃんの髪をサラリと触り出した。
「わっびっくりした」
「ナマエの髪気持ちいい」
「そ、そうかな?」
「ウン」
そう言いながら髪を三つ編みにしたりほどいたりして勝手に遊び出したから流石にナマエちゃんの顔が赤くなって、
「ちょっと若狭くん…」
と嗜めた。
「ナマエが前の席なら毎日触れるのに」
「…お昼一緒に食べてるから別に触れるよ」
「ん。でももっと一緒にいたいし。オマエがこの教室にいればちゃんと学校来る気になるんだけどな」
「そんなこと言ってると留年しちゃうよ?」
「オレが後輩になったら嫌いになる?」
「…その聞き方はズルいよ」
ハァ!?
何こいつら。砂吐くかと思った。キュン通り越して胸焼けするわ。
そう思ったのはオレだけじゃなかったらしく、クラスの大半がもう気にするのやめようと視線を逸らし始めた。ワカのことが好きな女子も、自分の知ってるワカとあまりにも違ってポカンと口を開けている。
「あれって本当にワカくん?偽物でしょ?イメージと違う…」
と言う声も聞こえてくる。
だよなぁ。違うんだよな、いつものワカと。
昼メシ中も野郎しかいない中で何故かイチャイチャしだすから、初めはワカが彼女を可愛がる珍しい姿を見ようと屋上に集まってた奴らも最近はげんなりした顔をして、別の場所で食べ始めたぐらいだ。
うそカノって知ってるオレですら疑うレベルに仲良すぎて、マジで付き合ってるように見える。マジでアイツらよくわかんねぇ。
◆
バレンタイン当日は、女子が配ってたチョコと、一つ本命っぽいのをもらった。
放課後友人に報告しようと意気揚々と屋上に向かったらワカがフェンスにもたれて立っていた。
「おー!ワカ、バレンタイン今年何個だった?」
「一個」
「マジか。うそカノ効果あったな」
「まあね」
「つかあんなにイチャイチャしてんのによくナマエちゃん無事だな。ワカのファンに呼び出しとかされるかと思ったわ」
「まあ芽は潰してるから」
「…は?」
「オレがアイツを危険な目にあわせるわけないじゃん」
「… ナマエちゃんってうそカノだよな?」
「そうだけど?」
「…」
ワカのうそカノの扱い、マジわかんねぇ。なんで今までの彼女より大事にしてんだよ。
「真ちゃんは?今年はどうだった?」
「よく聞いた!実は同じクラスの佐藤さんがコッソリくれたから、多分本命だと思う」
「…その子武臣にもあげてたけど…」
「…は?」
うそ、だろ…?
「残念だったね、最弱王」
「うっせー!知りたくなかった!もう少し夢見させろ!」
そのタイミングで武臣とベンケイが屋上に来たから武臣に確認しようとしたら、
「じゃ、お先」
とワカがオレの肩をポンと叩く。
「今日デート?」
「送ってくだけ。そういえばオレ勉強するらしい。久々に教科書とか開くワ」
「は?ワカがベンキョー!?」
「ウン。今度ナマエんちに行くんだけど、その時教えてくれんだって」
「マジか…。オマエら本当は付き合ってんだろ?」
「どうかな」
どうかなって…どっちだよ。