07/10
▼ あらゆるひとから、せかいから、「やさしい」と形容される少女がいた。僕は「やさしい」ということがどういうことかわからなくて、ただ首を傾げていた思い出がある。「やさしい」人と一緒にいるとここちよいものなのよ、とあのこは教えてくれた。思えばあのこにはなにものをもつつみこむようなあたたかさがあった。なにものをもゆるせるようなつよさがあった。わるいことはわるいのだと聡すことができるいさぎよさもあった。あのこと一緒にいると弱くなる気さえするのに、それをなぜか嫌だとはねのけられない何かがあった。それはいつもあらゆるひとへ、せかいへ向けられていて、僕はそれを独り占めしたくてたまらなかったのを覚えている。「やさしい」ことはここちよいことだとすれば、あのこは確かに僕のそれであった。
だから僕は、あのこのすべてを、あのこが僕にむけたすべてを、「やさしい」と定義する。
(やさしいやさしい君に、僕もやさしくしたかったと、
君がいなくなった隣をみつめ、すこしだけないた)