少年+男/BLっぽくないただなんとなく/短め




一人の男が空を見上げ、ただじっと立っていた。

僕も同じように空を見上げてみたが、灰色の雲がずるずるとその重そうな体を引きずって、ゆっくりと空を渡っていくところくらいしか見えなかった。


もうすぐ、雨が降りそうだ。

なんだかそわそわする。気持ちが落ち着かない。
こうゆう空を眺めていると、僕はなんだか心が落ち着か無くなってしまうのだ。
僕は空を見上げるのを止めた。

また男を見てみると、彼は未だに空を眺めているだけだった。心なしか、その瞳がキラキラと、まるで恋する乙女の如く輝いて見えた。
こんな灰色の、つまらない空を眺めているのがそんなに楽しいのだろうか。
不思議に思った僕は、思い切って男に声をかけてみることにした。

「さっきから、一体何を眺めているのですか」

すると男は視線を下ろし、僕の方を見つめてにっこり笑って答えた。「宇宙について考えていたのです」

「宇宙?」

首を傾げる僕に、男は柔らかく目を細め、ゆったりとした口調で語った。

「空は毎日姿を変える。色も、雲の大きさも、毎日全く違う姿を私達に見せてくれる。そんな空の向こう、ずっとずっと、頭が痛くなるほどずっと向こうに、暗い無限の空間が広がっている。それが宇宙。宇宙は生きている。星達は毎日少しずつ成長して、そうして途方も無い時間を過ごして立派に成長した時、彼等は死を迎える。精一杯生きた後は、パンッと弾けて、そして灰も残さず消えていく。彼等の最後は、私達にとっては夜空に美しく消えゆく流れ星で、その一瞬の出来事は私達を幸福な気持ちにしてくれたり、願い事を叶えてくれたり、明日への希望を与えてくれたりする。あんな一瞬の出来事なのに、こんなにも私達の心を満たすのは、彼等の、途方も無い時間過ごしてきた人生の、最後の時間であるからなのだよ。私達と彼等は非常によく似ている。必死に生きて、生きて、そうして最後は美しく飾ろうとする。まあ…私達の最後というものは、残念ながら彼等のように美しいものばかりでは無いがね。」


男はまた空を見上げた。いや、彼の瞳は、その遥か彼方に存在する暗い暗い無限に広がる宇宙を映しているのだろう。
僕はただじっと黙って、男の美しく輝く瞳を見つめていた。

彼の瞳はまるで、夜空に瞬く星のようだと僕は思った。



「この空の向こうに、私達と似た者達が存在している。私が今こうして空を見上げているように、彼等もまた、あの暗い宇宙から、私達のことを見上げているのかもしれないね」


その時、僕の鼻先に何か冷たいものが当たった。それが何か分かった時には、それはもうざあざあと灰色の空から降り注いできていた。

遂に雨が降ってきた。


「…今日は彼等は見えないようだね」

男は僕の方を見て肩を竦めながらくすりと笑って見せたが、それが僕には、何だかとても悲しそうに見えた。


「さあ、君も早くお家へお帰り。早く帰らないと親御さん達が心配するよ」
「うん、わかった」
「物分かりの良い子で良かったよ」

男の大きな手が僕の頭を撫でた。そしてその手をゆっくり離すと、そのまま僕の背中に添えて優しくぽんっと押した。
その反動で僕はよろけて小さく一歩踏み出した。そのまま家路に着こうと足を踏み出しかけたけれど、僕は男に言いたいことがあるのを思い出して彼の方を振り返った。



「また宇宙のお話ししてくださいね」


男が笑って頷いたのを見て、満足した僕は男に手を振りながら駆け足で家路に着いた。



良かった、今度はちゃんと嬉しそうに笑ってくれた。










雨はまだ、降りはじめたばかり。




レイン



篠塚姉は宇宙について語りだすと止まらなくなります
ブラックホールの話題なんて特に危ないです
いつ終わるかわかったもんじゃありません

なので姉が宇宙の話を始めたら
篠塚は適当に頷きながら
その日の晩御飯について考えます
(20110621)
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