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じっと優姫は珱の横顔をみる。



「(やっぱり綺麗だな…十六夜センパイ…)」



雪のように真っ白な肌に、長い睫毛が影を落とす。縁取るように緩く波打つ、蜂蜜みたいなしっとりした髪は、まるでアンティーク人形のようにさえ見せる。

…昔は…枢センパイといつも一緒にいたセンパイに、ヤキモチ焼いていたな…。



『…なに?』

「え」

『じっと見てくるから…』



ヤバッ、と優姫は慌てて顔を背ける。



「す、すみません!ちょっと見惚れて…あ、いや…」

『……優姫ちゃんって…素直だよね』



顔色一つ変えず言った珱に優姫はえ、と背けていた顔を戻す。



『時々思うよ…羨ましいって…』

「…十六夜センパイ…?」



し、と珱が優姫を制しながら静にと人差し指をたてて扉をみた。ガチャ、とその扉が外から開かれた。



「人間のおねえちゃん…さっきはごめんなさい…」

「…あ、迷子の…」



現れたのは小さな子供。



「ボク…吸血鬼だったんだね…」

『ダメだよ…知らない人間から勝手に生気を吸ったりしちゃ』



す、と子供はそこから離れていく。



「あ…」

『…優姫ちゃん、ここにいて。あの子に君のこと口止めしてくるから…』

「はい…」

『絶対に部屋を出ちゃダメだよ』



最後にくぎを差して珱は子供を追って部屋を出る。が、すでに子供の姿がなく少し面食らい、慌ててその辺を探すがどこにもいない。あまり優姫の部屋から離れるわけにもいかず、綱吉に言って早々に学園に送ろうかと思った時だ。



『あ…待って!』



廊下の角を横切る子供を見つけた。ヒールを響かせ子供を追いかけると、子供は声に立ち止まっていた。



「さっきのおねぇちゃん?」

『…お願いがあるの。あの人間のおねえちゃんがいることは、誰にも言っちゃダメよ…?』



目線を合わせるようにしゃがみ込んで、初めて気づいた。その子供の瞳は、左右色違いのオッドアイだったのだ。父親の部下しか見たことがない珍しいオッドアイに多少なりとも驚きを見せる。



「うん。ぼく、誰にも言わないよ」

『…ありがとう』



頭をなでてあげると、子供は小さく微笑んで珱に抱きついてきた。



『…どうしたの?』

「ぼくね、ずぅっと捜してたの」

『まだ、お母さんに会えてないの?』



早く優姫のところに戻ろうと思っていたが、さすがに迷子を見捨てるわけにはいかない。



「ううん。僕よりもうんと幼い女の子…」



妹でもいるのかと思っていると、ぞくりと背筋に悪寒が走った。額から冷や汗が流れて、思わず子供を押し返してしまい、反動で廊下に倒れた子供にしまったと珱は慌てて駆け寄る。



『ごめん…大丈夫……』

「クスクス…」



伸ばした手は、子供に掴まれた。



「どうしたの…?怖いの…?」



クスクス笑いながら見上げる子供の目に捕らわれ、珱は冷や汗を浮かべたまま動けずにいた。



「やっと見つけた…ーーーー珱」

『!?』



珱の耳元に寄せていた顔を離すと、子供はステップを踏むように廊下をかけていってしまった。呆然とその場に座り込んだ珱の背後で靴音が止まった。



「そんなところに座り込んでいたら汚れるよ」



はっと声に珱は振り返る。



『…寮長…』

「……優姫から目を離しちゃダメじゃないか」

『…すみません』



立ち上がり駆け足に枢の横をすり抜けようとしたら、通り過ぎざまに腕を引き寄せられた。



『!』

「…その前に、この前のあれ…謝って?」



壁と枢に挟まれる形のまま珱は戸惑いながら枢を見上げる。この前のなんて、普通科吸血事件の時だとすぐにわかった。



「あんな事を珱が言うなんて…あんな、錐生くんを庇うような事」

『あれは…寮長があんな言い方をするから…』

「確かに言い過ぎたかもしれないけど…珱は、錐生くんが責められたら簡単に僕から離れるんだ?」

『ちがっ…』



なんて言えばいいのか分からなくなり顔を俯けると、枢に指先で顎をすくわれた。



「顔を上げて…しっかり目を見て。ねぇ、珱は僕より錐生くんを選ぶの?」



無理矢理合わされた冷えた視線。対照的な枢の寂しそうな声に珱はハッとして震える口を開いた。



『ご…めんなさ…い…』

「……泣かないで珱」



目尻に溜まっていた雫を優しく拭うと、枢は珱を包み込むように抱きしめた。



「困らせてごめん…ただ、珱まで離れていくのは嫌だったから…」

『…寮長?』



戸惑っていた珱は、そっと肩口にある枢の頭をなでた。



『ごめんなさい…もう、あんな事言いません…』

「…うん」



枢の様子に、脳裏に幼い頃を思い出して珱は目を閉じた。




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