「なんだよこれッ…」
ケルヴィンの屋敷までたどり着いたドールの目に映ったのは、炎に包まれていく屋敷だった。
「兄貴!!ジョーカー兄貴!!」
馬から飛び降り屋敷へと近づくが、火の勢いが強くとても中へ入ることはできない。
「兄…!!」
煙にせき込みながら入り口だったろう場所を見ていたドールの目に、中から出てくる人影が見えてきた。なんだ、と身構えながらみていると、出てきたのはシエルと腕にダリアを抱えたセバスチャンだった。
「ブラック…スマイル…リトル?」
ドールの声にセバスチャンの肩に顔を埋めていたダリアは顔を上げた。
「なんでお前らがここに…何があったんだよ!?兄貴は」
「お亡くなりになられましたよ」
「え…」
笑みを絶やさず告げたセバスチャンに、一瞬思考が止まったドールは隣に俯いて立っていたシエルに詰め寄る。
「何言ってんだよブラック!なあスマイルもなんとか」
ーーーーばしッ…
「僕に、気安く触るな!!」
手を触れたドールの手を振り払った情緒不安定中なシエルの態度はサーカスの時とは違い、ドールは戸惑いを見せた。
「私達は女王陛下の命により追っていたのです。児童連続誘拐犯の行方を」
「!!!お前ら本当に警察だったのか!?オレらを捕まえに…」
『いいえ、違うわ。消しに来たのよ』
今まで黙っていたダリアの声に、ドールは目を見開いた。
「リトル、お前声…」
『女王の番犬、ファントムハイヴとしてね』
「女王の…番犬……ファントム…ハイヴ」
柔らかい笑顔なんか浮かべず、冷めた瞳を向けてくるダリアに少しの恐怖を感じながら、言われた言葉を反復するドール。そして思い出した、シエルとダリアのことが記されていた資料。
「まさか…スマイルとリトルが…お前らが、ファントムハイヴ…?」
信じられない、という顔をして見るドール。
「じゃあ嘘だったって言うのかよ。全部、全部ッ」
「その通りだ。僕の名はシエル・ファントムハイヴ」
『私の名前はダリア・ファントムハイヴ』
「僕らの仕事はひとつだけ…女王の憂いを晴らすこと」
『だから殺した』
「ケルヴィンもジョーカーも」
「『僕/私達が殺した』」
冷たく無感情に言い放った二人の言葉の意味を理解すると、大きく泣き声をあげながらドールはその場に崩れ落ちた。
「……ッ…る、さねえ。ゆ、るさねえ、許さねえ、許さねエ!許さねエ!!」
ギッと二人を睨みあげると、ドールは短刀を手に向かってきた。
「スマイルウウウリトルウウウ!!!」
髪が風に靡いて、初めて見たドールの素顔を見た二人は一瞬、ほんの微かに苦しげに顔を歪めたが…本当にそれは一瞬だった。
『「セバスチャン」』
二人の声が響いた直後、何かが倒れる音がした。セバスチャンの肩口に燃え盛る屋敷にカーヴァネット邸を重ねて見ながらそれを聞くと、眠るようにダリアは瞳を閉じまた顔を埋めた。
next.
_74/212