「まず、死亡者リストにない者の殺害」
蹴り飛ばすウィリアム。
「次に、使用許可申請書を提出していないデスサイズの使用」
容赦なく何度も無表情に蹴り続けるウィリアムに、シエルもダリアもドン引き。
「すぐ本部に戻って始末書と報告書を提出して頂きます」
ズルズルと髪を引っ張って連れて行くウィリアムに、辛うじて生きていたグレルは怒鳴る。
「ちょっとォ、アタシ今殺されそうになってたのよ!冷たい
「黙りなさい」ズバン!とグレルを地面に叩きつけると、ウィリアムはほったらかしにしセバスチャンに名刺を差し出した。
「この度はアレが大変ご迷惑をお掛け致しました。あ、これ私の名刺です」
頭を下げると、その状態のままボソっとウィリアムが呟いた。
「全く…よりによって貴方の様な害獣に頭を下げる事になるとは。死神の面汚しもいい処だ」
「では、その害獣に迷惑を掛けない様しっかり見張っておいて下さい」
言いながらセバスチャンは名刺を捨てると目を細めウィリアムを見た。
「人間は誘惑に弱い。地獄の様な絶望の淵に立たされた時、目の前にそこから脱却できる蜘蛛の糸が現れたら、必ず縋ってしまう…どんな人間でもね」
「それに漬け込んで人間をたぶらかし、寄生して生きているのがあなた達でしょう」
「否定はしませんが」
クス、とセバスチャンは笑う。
「首輪がついた飼い犬な分、節操のない狂犬共より幾分かマシな様ですがね」
チラ、と見てきたウィリアムをシエルとダリアは睨み返す。
「…さ、帰りますよグレル・サトクリフ」
髪をつかんで引きずりながら歩き出した。
「全く…ただでさえ人手不足なのに、今日も定時で上がれないじゃないですか」
「……」
ブツブツ言いながら背を向け去っていこうとするウィリアムに、セバスチャンはグレルのデスサイズを投げやった。
ーーーービシッ.
ダーツのごとく飛んできたデスサイズを、ウィリアムは振り向くことなく指で挟みつかんだ。
「……」
「……」
互いに殺気満々に睨み合っていたかと思うと、ニコッ、とセバスチャンは愛想良く笑った。
「…お忘れ物ですよ」
「ーーーーどうも。では、失礼致します」
メガネをあげると、最後にウィリアムは業務的に挨拶をして闇に溶けるように去っていった。それを見送り気配が消えたところで肩の力を抜き一息吐くと、セバスチャンは二人に歩み寄った。
「申し訳ありません。もう一匹を取り逃がしました」
「…いい」
『もう…いいわ』
アンジェリーナを見つめたまま、二人は言った。
『…』
寒そうに腕をさすったダリアの頬に、そっと手が触れる。
「とても冷えておいでだ。早く街屋敷へ戻りましょう」
ダリアは笑いかけているセバスチャンを見上げる。
「お約束通り、ホットミルクをお淹れしましょうね」
『……』
瞳を閉じて、ダリアは頷いた。隣でシエルが立ち上がったが、足に力が入らなかったのかよろめいてしまった。
「坊ちゃん!」
ーーーーばしっ.
慌てて支えたセバスチャンの手を、シエルは手ではじいた。
「坊っ…「いい」
戸惑うセバスチャンにシエルは言う。
「大丈夫だ。一人で立てる」
「……」
『……シエル…』
同じように立ち上がったダリアが心配そうにシエルを見る。
「ただ…少し…疲れただけだ…」
そう顔をうつむかせたシエルの肩に、ダリアはそっと手を置いた。
next.
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