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その執事、回想



「さて」



ーーーーばふっ.



「『!?』」



自身が着ていたコートを脱ぐと、それをシエルとダリアに被せた。小柄な二人なのですっぽりと隠れてしまう。



「なにっ…」

「あまりお体を冷やされませんように。街屋敷に戻ったら、ホットミルクでもお淹れ致しましょう。蜂蜜かブランデーで、甘みをつけたものを」

「『……』」



笑いかけながら言ったセバスチャンに、二人はなんとも言えない表情でコートの裾を掴んでいた。



「アーーーーラ。そんな簡単に帰してあげないわヨ」



再びデスサイズがうなり声をあげる。



「この子もアタシも、最近手応えない獲物ばっかりで欲求不満気味なの…よッ」



飛躍したグレルにセバスチャンは二人を力強く向こう側へと押しやった。



「『!!』」



ーーーーガガガ!!

セバスチャンと二人の間に出来た大きな傷跡に、ダリアは血の気を引かせた。



「アタシは追われるより追う方が好きヨ、セバスちゃん!ステキな鬼ごっこしましょ!!」

「気持ち悪い事を言わないで下さいと申し上げたはずです、が!」



何やら言い合いながら攻防戦を繰り広げる二人をしばし見ていたシエルとダリアは、頷き合うと後ろを振り返った。



「何故…」

「何故?今更それを聞いてどうなるって言うの?」

『マダム…』

「あんた達と私は今、「番犬」と「エモノ」になった。番犬を狩らなければ狩られるのなら…」



近付いてきていたアンジェリーナは袖口からナイフを取り出すと一気に詰め寄ってきた。



「道は一つよ!!」

「ダリア!」



ハッとしてシエルはダリアを突き飛ばした。

ーーーーザッ.



「ッ!」

「『!』」



腕を切られたシエルの腕からは血が溢れ、それを見たダリア、セバスチャンはハッと目を見開く。



「マダム!医者である貴女が、何故人をっ…」

「あんたみたいなガキに言ったってわかりゃしないわ!」



反応を示したシエルの首にアンジェリーナは腕をかけ壁に押し付けた。



「一生ね!!」

『シエル!!』

「あんたなんか…あんたなんかッ」

「…っ」

「あんたなんか」



アンジェリーナは首を押さえたままナイフを振り上げた。



「生まれて来なければ良かったのよ!!」

『アン叔母様やめてっ!!』



シエルとアンジェリーナの前に割って入ったダリア。



「(ーーーー姉さん)」



アンジェリーナには、コートを被ったままのダリアの姿が、かつて晴れ姿を見せたときの姉にかぶって見えた。



「お嬢様!」



ーーーーズシャアッ.

イヤな音が響いたかと思うと、アンジェリーナの背後には今にも殺す勢いのセバスチャンの姿が。



『やめろセバスチャン!!』



咄嗟にダリアは焦りから怒鳴った。その時アンジェリーナの足下にナイフが乾いた音と共に落ちた。



「殺すな!!」



シエルの声にピタッ、とセバスチャンの手がマダムに触れるギリギリ前で止まった。改めて見た二人はセバスチャンの様子に戸惑った。



「『……セバスチャン…?』」



珍しく息を乱すセバスチャンの右肩からは、手で抑えても溢れ出す血が。



「ンフッ。セバスちゃんたら根性あるゥ∨」



ハッとダリアはグレルを見る。



「腕一本ダメにしてまで、そのガキ共助けに行くなんて」



「それに比べてアンタはなんなの?」とグレルは壁にはまったデスサイズを抜く。



「マダム!!」



ビクッ、とアンジェリーナの肩が揺れた。



「さっさとそのガキ二人殺っちゃいなさいよ!」

「だめ…」

「あん?」



ボソ…と言うと、アンジェリーナは苦しそうに言った。



「やっぱりダメ…私には、この子は殺せない…っ」

『…マダム…』

「今更何言ってんのよ。さんざん女共切り刻んできたくせに!そのガキ共殺さなきゃ、アンタが消されるのよ!せっかくアタシが手伝ってあげてるのに!」

「でも…でも!!」



ぎりっ、と手を握りしめるとアンジェリーナはグレルに向き直る。



「この子達は私のっ…」



ーーーードッ.



「ガッカリよ、マダム・レッド」



シエル、ダリア、セバスチャンの前で、アンジェリーナはグレルのデスサイズによって刺されていた。色鮮やかな鮮血が闇の中を舞う様子に呆然とするダリアの頬へ血が飛び散った。



「ただの女になったアンタに、興味ないわ」



一拍遅れて状況を飲み込んできたシエルとダリアの瞳に力がこもる。















父親似の赤毛が大嫌いだった。赤い色が大嫌いだった。



「君は何故そんなに前髪を長く伸ばしてるの?」

「私は姉さんと違って美人じゃないし、髪だってこんな赤毛で…」

「それは個性さ。アンの赤毛はとても綺麗だ、地に燃えるリコリス色。君には赤がよく似合うよ」



父親似の赤毛は好きになった。赤い色が好きになった。

あの人≠ェ大好きになった。

あの人≠ェ来る日は似合うと言ってくれた赤を着た。



「アン、いい知らせがあるの」



大好きなあの人≠ヘ、大好きな姉さんと結婚することになった。結婚式には大好きな赤いドレスを着て行った。大好きな二人が幸せなら、私も幸せだった。

はずだったーーーー。



「アン、抱っこしてあげて。あなたの甥っ子よ」



大好きな姉さんと大好きなあの人≠フーーーー。



「大きくなったらたくさん遊んであげてね」

「うん!」

「ふふっ。鼻の形があの人にそっくり」



その5年後、世間を騒がせたカーヴァネット伯爵邸惨殺事件が起こった。



「アン、ダリアっていうの。今日から私達の家族で、貴女の姪っ子よ!」



血の繋がりはないけれど、私にとって大切な姪っ子は、よく姉さんに似ていた。そして私は夜会で知り合った、とても大切にしてくれたヒトと結婚をして子供を宿した。二人とも、産むことなく事故で亡くした。そして、あの日はやってきた。



「お、奥様、あ…あれを…!!」



十二月の灰色の空を染め上げたその色は、私の嫌いな赤い色ーーーー。





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_26/212
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