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その執事、粋狂



「「医学・解剖学に精通する者」「事件発覚前夜にアリバイのない者」そして「秘密結社や黒魔術に関わりがある者」この条件を満たしているのはただ一人」



ーーーードルイット子爵、アレイスト・チェンバー様だけです。



「医大は卒業していますが、病院への勤務や開業はしていません。社交期には何度か自宅でパーティーを催しています…が、どうやら裏では彼と親しい者だけが参加できる、秘密パーティーが催されているという話です」

「ドルイット子爵か…そういえば、黒魔術みたいのにハマってるって噂は聞いたことあるわね」

「つまりその「裏パーティー」で儀式的なことが行われていて、娼婦達が供物にされてる疑いがあるってことか」

「ええ」



胸くそ悪そうにダリアはケーキを口に入れた。



「本日も19時より、ドルイット子爵邸でパーティーが行われます。もうすぐ社交期も終わりますし、潜り込めるチャンスは今夜が最後と思っていいでしょう」

「マダム・レッド」



カチャ、と食べ終えたお皿にシエルはフォークを置いた。



「そういうわけだ。なんとかなるか」



問いかけてきたシエルにアンジェリーナは得意げに笑った。



「舐めないでくれるかしら?私、結構モテるのよ。招待の一つや二つ、どうにでもしてあげるわ」

「きまりだな。なんとしてもその「裏パーティー」に潜り込むんだ。ファントムハイヴの名は一切出さないこと。取り逃がすことになりかねん」



最後にシエルは言った。



「チャンスは一度きりだ!」







「割と盛大ねぇ。やっぱり今夜が今年の社交期最後なのかしら」

「楽しい夜になりそうじゃないか」

「一度警戒されれば終わりだ。いいか」

『シエル』

「遊びに来ている訳じゃない。気を抜くな!」



そう言ったシエルの格好はつけ毛をしたツインテール、ダリアとお揃いのドレス…つまりは女の子の格好だった。



「わかってるわよーーーーう!んもーっ、かわいいわねっ」



幸せそうに抱きしめてくるアンジェリーナにシエルは真っ赤になりながら抵抗する。



「離せッ!!なんで僕がこんな格好を…」

『でも、似合ってるわよ?周りは女じゃないって言われた方が信じられないんじゃないかしら』

「んなっ…うるさい!似合ってたまるか」



クスクスと愉快そうに笑みを浮かべるダリアをシエルは顔を真っ赤にさせて睨む。



「モスリンたっぷりのフランス製ドレス。せっかくダリアとお揃いにしたのに気に入らなかったの?」

「気に入るかッ!!」

「おやおや」



靴音と共に現れた男に全員が振り向く。



「レディがそんな大声を出すものではありませんよ」



そう言ったセバスチャンはメガネをかけ、服装もいつもと違った。



「セバスチャン…貴様」

「そーよー、設定通りちゃんとやってくれなきゃ…劉は私の若い燕役、シエルとダリアは田舎から出てきた私の姪っ子役、セバスチャンはその2人の姪っ子の家庭教師役。グレルはいつも通りだけど」



いつも通りという事にショックを受けるグレル。



「だからっ…なんで僕が「姪っ子」役なんだ!」

「私、自分が姉妹だったから女の子の姉妹が欲しかったのよね!フワッフワなドレスの似合う可愛い子!」

「そんな理由で…!?」

『どーしたのセバスチャン』

「慣れないと気になりますね…(眼鏡)」

「ってのはまあ冗談として、ファントムハイヴってバレたらマズいんでしょ?」



シエルの耳元に顔を寄せてアンジェリーナは言った。



「第一!身なりのいい執事連れた少女と隻眼の少年だなんて組み合わせ、見る人が見りゃすぐにアンタらだってバレるわよ!それが一番いい変装じゃない」



ちなみにダリアは普段より幼く見えるメイクをして、藍色の巻き髪ウィッグをしていた。そんなダリアを「まあ安心しなさい」とアンジェリーナは抱きしめた。



「ドルイット子爵って守備範囲バリ広の女好きらしいけど、そこは私の自慢のダリアを出撃させてあげるから!」

「『なっ…!?』」



まさかのことに顔をゆがめた2人にセバスチャンが笑みを浮かべて言った。



「仰っていたじゃないですか。どんな手段でも使う≠でしょう?」



ぬううう、と何も言えず睨みつけるシエルとダリア。そんな2人にニコ、と笑いセバスチャンは手を差し出した。



「では参りましょうか。お嬢様」







「さて…まずはドルイット子爵を見つけなくてはいけませんね」

「ドルイット子爵ってのはイイ男なのかしら。それによってやる気に差がでるわぁ〜!」

「輝いてるねマダム!」



それに比べて…。



「苦しい。重い(服が)痛い(足が)帰りたい」

『……吐きそう(コルセットによる締め付けで)』



どんよりと暗雲が二人の上に重くのしかかる。



「こんな姿、絶対にエリザベスには見られたくないな…」

『何よりめんどくさい』

「きゃーっ。そのドレスかわいーっ∨」

「いかん…幻聴ま…」

「そのヘッドドレスもステキーッ∨」

「…で」



ばっ!!とシエル、ダリア、セバスチャンは振り返った。



「ステキなドレスの人がいーっぱい∨かわいーっ∨」



振り向いた先にはやはりエリザベス。



『エッ…リザベス…!』

「セッ…セセセセバスチャン」

「坊っ…お嬢様落ちついて下さい。とりあえずあちらへ」

「あっ∨」



ーーーーギクッ.



「あそこにいるお揃いのドレスすっごくかわいーーーーっ∨」

「「『!!!!』」」



早速!!



「いけませんお嬢様。こちらへ!」



セバスチャンに誘導され2人は人混みを縫うように進んだ。



「あら?あの子達どこ行っちゃったのかしら?」



キョロキョロと探すエリザベスの背後のテーブルの影にはシエル達の姿が。



「なんであいつがこんな所にいるんだ!とにかくマダム達に…」



と、アンジェリーナへ伝えようとすれば。



「オーホホホ。苦しゅうないわ〜〜〜∨」

「『(完全にパーティー満喫してやがる!!)』」



男性達をはべらかして女王様のようにパーティーをしっかり楽しんでいた。



「まずいですね。まさかエリザベス様がいらしてるとは」

「いくら変装してたって、顔を合わせれば…」

「バレますね」

『あの子にバレたら調査どころじゃなくなるわよ!!』

「それどころか、ここにいる皆さんにお嬢様の1人が「坊ちゃん」である事がバレるでしょうね」

「『……』」



サーッ、と血の気が引いた2人。



「当主がこんな格好してるなんてバレたらファントムハイヴ家末代までの恥だっ!!」

『女王陛下に顔向けできないっ』

「そんな大げさな」



2人にとっては大げさではなかった。




_20/212
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