喫茶店ガルディオスのマスターは腕がたつ。
―――と言うより、腕がたたなければこの界隈で店など開けない。
 移民や下層階級の人間達が犇めく地域よりはマシだが、夜は一人で歩けない程度には治安の悪い場所に喫茶店ガルディオスはある。
 闇医者ジェイドはその店の扉をくぐった。
 腕はたつが胡散臭い―――それがジェイドの客観的な評価だが、胡散臭くない人間がこの地域で医者など経営していけるかは果たして怪しいものだ。
 結果的にカタギの医者には行けない患者はジェイドのもとに通うのだから、需要と供給は成り立っているのだろう。
 鍼を得意としているらしいが、ガイはジェイドがそれを治療に使うより、破落戸を伸す為に使う場面を見る方が多い。
 他にも素晴らしいメス捌きで強盗を片付けているのを見たこともある。
 一体どこに隠しているのやら、全身武器庫だ。
「礼に一杯ぐらい奢るよ」
 優雅な所作で、カウンター席のスツールに腰掛けたジェイドに告げる。
「ありがとうございます。では遠慮なく」
 ガイは袖まくりをして腕まで石鹸水まで洗ったあと、腰にエプロンを巻いた。ガルディオスのマスターの出来上がりだ。
 なよなよしい訳ではないが、細身のからだに黒と白の店着はよく似合う。
 流れるような所作でコーヒーが出来てゆく。
 ジェイドはガイのこういった姿が好きだ。
「おまちどおさま」
 コーヒーの芳香が鼻をくすぐる。
「いただきます」
 カップ持つ指ひとつ、カップを傾ける仕草ひとつ、様になる。
 ハマりすぎていていちいち嫌味なほどだ。この闇医者は。
「美味しいです」
「それは良かった」
 その気になれば薫りがああだとかコクがどうだとか蘊蓄を語れるのだが、ガイの前ではそれをする必要がない。
「次はミックスベリータルトとコーヒーのおかわりをもう一杯」
「はいよ」
 もしガイのそばを通りかからず、コーヒー豆が犠牲になっていたらこの時間もなかったのだろうと思うと、先ほどの自分によくやったと言ってやりたかった。
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