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「・・・承知致しました、政宗様。あの者達は、必ずこの小十郎が取り戻しまする」

松永久秀に拉致された伊達軍の家臣達を取り戻しに挙兵すると言う政宗を力づくで止めた小十郎は、地に倒れ伏した政宗を力強い瞳で見つめた後、その六爪を持って立ち上がった。

「しばし、拝借致します」

鎧の間にて静かに傍観に徹していた己を真直ぐに見つめた小十郎にしっかりと頷いて、依は深く頭を下げる。政宗は任せろと、力強く小十郎を送り出した。





「姉上、失礼致しまする」
「…やはり、行くのですね」

暫くして、再び鎧の間へ現れた幸村は先程までとは打って変わった決意の篭った頼もしい目をしていた。

「はい。必ずや、小十郎殿と囚われた者達と共に、武田・伊達の家宝も持ち帰りまする!」
「どうか、御気をつけていってらっしゃいませ」

力強く言い放つ幸村に頷くと、依も彼をしかと送り出す。

「佐助、」
「はいはい、分かってますよーっと。お任せください依様」
「それもそうですが、貴方も御気をつけくださいな」
「…はい、」

照れ臭そうに鼻を掻いてシュッと消える忍も見送ると、依は無理をした政宗の看病を再開させた。





「・・・ッ、!!」
「・・・ご無理なさいますな」

またもや、目覚めるなりガバッと身体を起こした政宗を依は支えた。

「アイツ・・・」

右脇腹を押さえ蹲り、馬鹿野郎とでも言いたげな政宗に苦笑する。少し開かれた襖の先から、鎧の間のすぐ外に立っていた信玄が口を開いた。

「手酷くやられたのう」
「…」
「竜の右目に右をとられたとあっては独眼竜にとってこれ以上、手強い敵もあるまいて」

くつくつと笑う信玄は楽し気だ。

「笑い事じゃねぇぜ・・・」
「…ですが、銃創への直撃は僅かに避けられておりました」

依は政宗の肩に羽織を掛けながらそう言うと、盥を持ってその場を後にした。

「…」
「稀なる腹心を得たものよ」
「・・・それより、真田幸村を行かせたのか?ここにあった鎧は、武田の…」
「今のアレには必要な事。元より、小事を疎かとする者に、大事など為せぬでのう。やがてこの戦国に終わりを告げ、次の世を担うは貴様達、若い者じゃ。」

信玄がそう言うと、それを見上げていた政宗は口の端を釣り上げた。

「フッ」
「・・・んん?」
「そう言いながら、いつまでも世に憚りそうなタイプだよな、アンタ」
「はっ!分かっておるのう」

そう言って高らかに笑う信玄は、こうも続ける。

「松永久秀は、これまで織田が相対した中でただ一人その命を取らなんだ武将。奴を魔王が支配下に置き、我らへの陽動を仕掛けさせたと見る事も出来ようが、恐らくそれは無かろう」
「何故分かる?」
「従うとは思わぬ故じゃ」
「だったら魔王は、何故生かした・・・?」
「分からぬが、そうよのう・・・珍しきホトトギスを籠に飼うてみとうなったのやもしれん」

信玄は立ち上がると、盥の水を取り替えてこちらへ向かっている依を視界の隅に捉えてフッと笑った。

「今は休め、独眼竜よ。我らには貴様が必要じゃ」

依も随分と、お主に手を懸けておる故。そう言う信玄に、政宗はひとつ頷いた。

「…武田のおっさん」
「ん?」
「この礼は、戦場で返す」
「魔王を倒した後上洛を懸けて合い戦おうぞ。アヤツもそれを望んでおる」
「・・・All right.」
「それと、依が欲しくばその後じゃのう。敵は多いぞ、独眼竜よ」
「っ、…そんなこたぁ、元より承知の上だぜ」



ハッハッハッと笑って去っていく信玄に、丁度鎧の間へと着いた依は首を傾けた。

「政宗?」
「何でもねぇよ。・・・依、ありがとうな」
「いいえ。私にはこれくらいしか出来ませんから」
「充分だ」

政宗の身体を温かい手ぬぐいで拭いて再び横たわらせると、依は彼の髪を優しく撫でた。

「…今はゆっくりと休まれなさい。貴方の護らねばならぬモノ達が待っておりますよ」
「ああ・・・依、」
「はい?っ、」

優しく微笑む彼女の手を掴むと、政宗は自分の左側へ彼女を引き入れた。

「お前、俺が倒れてから寝てないだろう」
「…いえ、そんなことは、」
「顔色が悪い」
「・・・少しくらい平気です」
「ダメだ。お前が倒れたら元も子も無ぇ。ここで眠れ、依」
「しょうがないですね、」

眉を顰めて渋々と腕の中に落ち着く依に政宗は笑った。

「何かあったら、起こしてくださいね・・・小十郎殿に、頼まれているのですから・・・」
「大丈夫だ。その時はちゃんと起こす。それに、お前を抱えてればそんな事は起きねぇよ」
「ん、おやすみなさい、政宗…」
「Good night, honney.」

依は眠りに落ちる狭間、ちゅっと柔らかい感触を額に感じた気がした。



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