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長篠・設楽原では上杉・武田の同盟軍と徳川が刃を交え、その横をすり抜けようとする伊達軍の前に立ち塞がるは浅井軍。そして、安土からは朝倉攻めを止めた織田軍が東の武将をこの期に一掃しようと進軍してきていた。

「…ッ、けいじ、」
「謙信殿っ、こちらはお任せくださいッ」
「・・・まかせましたよ、たけだのかみかぜ」
「慶ちゃんを頼みます」
「ええ、」

家康の所へ最後の話を付けに行った信玄と幸村を背に、進撃する徳川軍を巻き上げる。一人、織田へ向かった慶次を気にして表情を歪めた謙信に追って貰い、この場は依が預かった。

(ばか慶ちゃん、)

無理はしないでと、言ったのに。





戦国最強の誉れを掲げる本多忠勝が居るとはいえ、数には敵わぬ徳川軍は武田上杉連合軍に押されていた。一向に姿を見せない増援に焦りを浮かべる家康に、戦場にて忠勝と刃を交える信玄、幸村、佐助の耳に連合軍を率いて徳川軍を吹き飛ばす依、才蔵、小太郎の耳に、その"銃声"は届き、戦場に響き渡った。

「…諸共、浅井軍まで・・・」
「…」
「魔王は人に非ず、ですか・・・家康殿の元へ行きましょう。この戦はもはや無意味です」
「御意」

依は大きく鉄扇を振るって風を起こす。今までのものよりも、より遠くへ、徳川の陣にほど近い所まで兵たちを押し戻した。



「御館様」
「依か」
「徳川軍は出来るだけ押し戻しました。早う、この戦を終わらせましょう」
「うむ」

家康の元へ駆ける信玄に追い付いた依は先を見ていた瞳を見開いた。家康に迫る、魔王の嫁・濃姫。一歩先に気付いた信玄は、既に銃弾から家康を護るために馬の背を蹴っていた。

キキィキンッ

「っ、信玄公!!」
「魔王の嫁、人の魂を売り、その手を蹂躙の血に染めるかあッ!!」

迎え撃つ信玄に、家康を撃った濃姫は馬を駆る。高く飛び上がり周りの徳川家臣を撃たんとする彼女の下に、依は素早く入り込んだ。

「立ち風ッ!!」

ダダダダンッ!!
ビュオンッ

響くは銃声のみ。撃たれた弾は依の風に包まれて空高く舞い上がった。

「依ッ」
「これ以上の死人は必要無い」
「クッ・・・武田の神風。これならば、どうかしらッ?!」

ガシャンッ

連続して出てくる重火器に依は信玄と家康の前へ躍り出て鉄扇を構える。

「天下は上総助様のものッ」
「風よ、」

響き渡るガトリングの乱射の音と共に、依の風が辺りを巻き上がる。弾を巻き上げられると踏んだ彼女がチラリと信玄に視線を送れば、彼は頷いて家康と共に前線へ戦を終わらせに向かった。

「ふふふっ、流石の甲斐の虎も・・・なにッ!!」
「…ガトリング程度では私の風壁はうち破れませんよ」

依の後ろには無傷の徳川兵。既に居ない信玄と家康を濃姫は追う。

「待ちなさい!!・・・っ」
「依様っ!!」

背を向ける濃姫を止めようとした依の膝からカクンと力が抜ける。そこを小太郎に支えられ、才蔵が駆けつけた。

「(主、使い過ぎです)」
「ですがっ、」


ヒュッ…ドーンッ!!

最前線、幸村と本多忠勝の戦う辺りで大きな爆発が起こる。恐らく追い付いた濃姫による更なる重火器だと依はその有様に瞳を驚愕に見開き、一気に顔を青ざめさせた。

「幸村ッッッ!!」
「(主ッ!!)」
「依様ッ!!」

ふらつく身体で小太郎を突き放し前線へ飛ぶことを強行する依を、二人は止められない。





「御館様ッッッ!!」
「依!お主・・・」

ヒュオンッ、と風に乗って現れた依は信玄の前で地に半ば崩れるようにして降り立つ。彼のすぐ側では本多忠勝を失ったらしい家康が泣き崩れていた。

「っ・・・くっ、…ただかつっ、」
「幸村は、」
「御館様っ!!!…ッ、姉上!!!」

爆心地であろう大穴から走ってきた幸村は、信玄の前で崩れる姉を見て瞳を見開いた。直ぐに駆けよれば、悲痛な声でその名を叫ばれた。

「幸村ッッッ!!!」
「無事であったか!」

瞳に涙を浮かべてぎゅう、と縋り付く姉の腕にはいつもほどの力は篭っていない。相当疲弊したらしい姉に困惑しながらも、心配をかけてしまったのだと彼女を抱き締め返してその身体を支え立たせる。

「姉上・・・本多殿が・・・奇襲より某を遠ざけ…お助けください申した」
「…うむ」
「御館様っ、何故織田は、同盟を結んでいる筈の徳川を、我ら諸共・・・」
「……元より、本多忠勝の強さを警戒しての同盟だったのであろう。強固な連合軍たり得る浅井と朝倉を、予め割いて利用せんとしたように・・・何れ徳川も欺かれておった筈」
「なんと、卑劣なっ」

グッと顔を歪める幸村の耳に、家康のすすり泣く声が響く。

「全ての責はこの儂にっ、魔王に組みし・・・他力本願でこの戦に勝とうとしたこの儂にあるっ!・・・っ、忠勝……それでも儂は、お前と共に天下をっ、」

失意に塗れる家康に、信玄は歩み寄るとその肩を叩いた。

「…お主には忠勝だけではなく、強い忠勝一人に頼らぬ忠義の兵達がおる。交わした盟約を最後まで護り、引くこと無き三河武士の心意気・・・この信玄、確と見た」
「っ…、信玄公っ!忠勝と多くの兵を失った儂だが、これからは、魔王を倒す為、共に戦わせて貰いたいッ!!」

依が身体を張って徳川兵を護り、そして幸村も本多忠勝に命を懸けて護られた。武田と徳川の同盟は、今、ここに強固な物となった。

「うむ。・・・幸村ッ!!」
「はっ!」
「出来得る限り手負いの者達を甲斐へ運ぶのじゃ。家名を問わず手を差し伸べよ」
「はっ!!」



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