美味しくなるまで待ってた

視界を占めていた文字の羅列が消えて明るい空に眩しいと顔を顰めた直後、白んだ視界に慣れる前にまた薄暗くなって唇に柔らかいものが触れ・・・ようとするのを鷲掴んで止める。

「・・・読書の邪魔しないで」
「第一声がそれかよ」

そこに居たのはシリウス・ブラック。その端正な顔を不満気に歪めて私の上に跨ったまま見下ろしてくる男はただの同級生である。

「今日も可愛いな、エヴァーニア」
「うざい」

何処からどうみてもイケメン、それに加えて女の子大好きのチャラ男であるこの男は普段から可愛い乙女達を取っ替え引っ替えしてはホグワーツ中の女の子を泣かせてきたのだが。頭でも打ったのかここへきて最近はどうやら私なんかにご執心のようで、熱心にもこうしてアプローチなんかをしてくるのだ。何でこんな事になったのか迷惑で仕方がない。

「キスくらい良いじゃねーか」
「良くない死ね」

横に退けられてしまっていた本を取り返して顔と顔の間に広げ直した。さて、これを読んでしまわないと。

「本が邪魔なんだけど」
「邪魔なのはアンタの方だから」

いつもこんな感じでその欲に塗れた言葉達に辛辣に返しているのだけれど、ところがどうしてこれがまた、メゲないのである。本当に面倒くさい。シリウスはエヴァーニアが相手をしてくれないと分かると上から退いて隣にごろりと寝転がり、如何やら昼寝をする事に決めたようだった。横から視線が突き刺さる。

「じろじろ見ないで」
「・・・お前、そういう事言ってもどっか行けとは言わないよな。そういう所、好きだよ」
「・・・じゃあ私がどっか行くわ」

馬鹿じゃないの、と思って身体を起こした。良くない、今のは良くない。顔が少し熱い、良くない。そんな風に誰かに言われた事なんて初めてで、思ってみればシリウスが付きまとうようになってから、可愛いとか綺麗とか意外の好意を表す言葉を言われたのも初めてかもしれなくて、それに気が付いた自分に驚いた。こんなに彼の事を意識していた自分なんて知りたくなかった。

「待てよ」

腕を掴まれて、止められたのに顔を向けられない。だって、

「何で赤くなってんの?」

覗き込んでくるのから逃げるように逸らしても、下から見られていては意味がない。

「何それ・・・やばい、」

惚けるようなシリウスの声色に、ぐっと強く引かれる腕に抵抗できずに男の上に倒れこむ。バサリ、と抱えていた本が悲鳴を上げたのに、視界は端整な顔でいっぱいだった。

「はなして・・・」
「なあ、エヴァーニア」

やっと音になったというくらいの、弱々しく、か細い声が漏れるなか、目の前の男から低くどろりと甘い、明確な意思を持った声に遮られる。

「お前が好きだよ」
「っ、」

嗚呼もう、これに抵抗なんて、出来るものか。

「や、」
「だめ、もう逃さない」

首を振るも、後頭部を掴まれ引き寄せられてしまう。ちゅ、ちゅ、と啄まれる鼻先、そして唇をぺろりと舐められる。驚いて瞳を閉じて仕舞えば、あとは好きに食い尽くされるだけだった。



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