破廉恥カップル

「ひあぁぁあぁぁ!破廉恥いぃぃ!!」
「?!」

その日、大阪城に響き渡った奇声は何時ものものよりもだいぶ高く可愛らしいものであった。
奇声が上がるのは常なれど、いつものよりもだいぶ高いそれには戦国一二を争う忍と言えど、流石の佐助も驚いてはその出所へ駆け付けた。

「ちょっとちょっと、何事?!・・・・って、旦那?あんな甲高い声上げてどうしたのさ」
「なっ!!俺ではない!!」

やはり何時もの己が主だったかと佐助が呆れ顔に変わると、それに幸村は心外だと言わんばかりに眉根を寄せた。

「ええ?じゃあ誰だって言うのさ」
「・・・あの方だ」

幸村が指を差した先(人を指差しちゃいけません!)、庭先の茂みの中に頭を突っ込むようにしてぷるぷると震えている若草色の着物の女・・・と言うにはまだ幼さの残る、少女がそこに居た。

「なあに、あの子」
「・・・俺に聞かれても分からぬ、顔を見るなり叫ばれたのだ」
「・・・」

真田の主従が気まずげに顔を見合わせてコソコソと会話をする中、その少女は一向にその茂みから出てこようとはしない。

「ねえねえ、何してるの?」
「ひえ?!」

つんつん、とその少女の傍に降り立って声を掛ける佐助を、幸村が縁側から心配そうに見つめている。

「あ、あの、さっき破廉恥な方がいて、」
「破廉恥って・・・あのひと?」

驚いて声を上げたものの、佐助の方を見上げて、言葉を紡げはするらしい。状況を確認しようと、佐助が幸村の方を指差すと、彼女も吊られてそちらへ顔を向ける。

「ひぃやぁあああ!!さっきの!!!」

幸村の赤揃えを目にした瞬間、涙目復活でまたもや奇声を上げて、ちょうど良いところに壁があったと言わんばかりに少女は佐助の背に隠れてしまった。

「んなッッ!!!そこの方!!そちらの忍の方が某より余程破廉恥ではあるまいか?!」
「ちょ、旦那なに失礼なこと言ってるの?!」
「あ、貴方の方が破廉恥です!!!何故そんなに肌を出しているのですか、無作法です!!!」
「無作法?!き、貴殿こそ出会い頭に叫び声を上げられるなど、無礼ではありませぬか!!」
「さ、叫びたくて叫んだのではありませ、」

「やれ、如何した騒々しい」
「ああああああ、父上えぇえぇぇ!!」
「「父上?!」」
「ヒヒヒッ」





さて。
まあ取り敢えず落ち着きやれ、という吉継の言葉に従って渋々彼の部屋に集った一同は、部屋の主の胡座に乗り上げてその首に縋り付いている彼女の姿を見ても尚、その事実に驚きを隠せずにいた。

「まさか、大谷の旦那に娘が居たとはね・・・」
「知らなかったでござる・・・」

ぼそぼそと話す真田主従を他所に、少女は先程の件について父に弁明、いや告訴、いや告げ口の真っ最中であった。

「あ、あの方が急に現れて、は、は、肌がっ、」
「三春や、ちと落ち着きやれ」
「ううう、私、もうお嫁に行けません・・・」

涙の溜まった瞳は溢れんばかりで、娘の可愛い吉継はさてどうしたものかとその頭を撫でていた。この可愛い愛娘、過保護の三成や半兵衛が育児に参加した所為もあって少々純粋過ぎるきらいがある…人はそれを箱入り娘と言う。それに拍車をかけるようにして頭が硬い為、肌を出した装束の男など初めて見たのだろう(左近や家康は三春の教育に悪いからと三成が断固として近付けさせない)。嫁入り前の娘が殿方の肌を目にするなんて、としがみ付きながら耳元でブツブツと言っているのが聞こえる。

「ヒヒ、ならばアレの嫁になればよかろ。責任を取らせればよかろ」
「なっ、は、は、破廉恥でござるうぁあぁぁッッッ!!!」

巫山戯て言った、吉継のその一言に過敏に反応してみせたのは今度こそ雄叫びの常習犯たる幸村であった。

「ちょっ、旦那ぁ!」

叫び声を上げながら逃げ出して行った幸村を追って保護者の忍もその場から姿を消す。そんな騒々しい主従をポカンとした表情で見送っていた三春は、旋風つむじかぜの名残を見ながら呟いた。

「父上・・・私、あの方なら大丈夫かもしれません」
「なに、?」

予想外の一言に、思わず動きを止める吉継。

「己の方が余程破廉恥な身なりをしている癖に・・・たったこれしきの言葉遊びで叫ぶなんて、なんて可笑しなひとなのでしょう」

ふふふ、と先程までの狼狽ぶりは何処へやら、優雅に笑みを溢してみせるその娘の変わり身振りに吉継は瞳を大きく見開いて。

「先程は気がつきませんでしたが、あの御方、西軍主戦力のお一人の真田幸村様ですね。より結束を固める為、やはり縁談は組むべきではないですか」

あの御方なら私、上手くやっていけるかもしれませぬ。
そう言って、笑みを深める娘はここへ来て女狐も顔負けの強かさで悪どい表情を作り出す。流石は半兵衛の教え子、そして吉継の血を引く娘である。

「三春や。ワレも真面目に言った訳では無いわ」
「わかっております父上」

にっこり微笑む顔に幾つの色を載せているのやら。
やれ、この娘をただの箱入り娘と言ったのはどこの誰だったか。今は亡き半兵衛が彼方で満足そうに頷いている幻覚が見えるような心地がする。吉継の大事な娘にそんな入れ知恵をしたのは彼であろう。いっそ内輪で、三成の室にしてしまうかそれでなければこのままでも良いと思っていたのに。・・・いつまでも小さいままの娘だと思っていては、痛い目を見るのは吉継かもしれない。

はてさて。
吉継の巫山戯た一言が現実になり、件の二人が本当に夫婦となるのかどうなのか、両者過保護な保護者達が黙っているのか、互いの破廉恥病は治るのか・・・今はまだ、誰にも分からないとだけ言っておこうか。

20170425修正



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