独り占めして見せびらかして

「三春」
「…隆景殿!」

ある日、隆景と城内を歩いていれば三成らと共にいる三春の後ろ姿が目に入り、隆景が少し進行方向を変えた。己が隣をゆく男が彼女へと声を掛ければ、花のように柔らかに微笑むそれに官兵衛は眸を細めた。

「いつ此方へお着きに?先触れを出して頂ければお出迎えに上がりましたのに」
「貴女を驚かせたかったんです」
「また、そんな事を言って。官兵衛殿とお話があっただけでしょう」
「ふふ、手厳しいですね」

彼女の傍へと近付いた隆景が、頬に優しく触れている。その指先に自ずから擦り寄るようにする彼女は、言わずとも会いたかったと示してみせるのだから隆景にしてみれば殊更愛らしいのだろう。その彼女の奥では三成がその様子を見せつけられて眉根を寄せ、吉継は愉快そうに瞳を細めていた。
秀吉の子飼い衆の一人である彼女は三成ら三馬鹿よりは少し歳が上だと聞いている。姉に対する憧れのようなものがあるのだろう、彼女の輿入れが決まった時は大荒れであったとか。

「執務の方は?」
「ちょうど今し方、三成が抱えすぎた分を引き取りに来たところです。それが終われば、今日の分は終わり」

小早川に嫁いだ後も彼女は大阪へ残り、こうして城勤めを続けている。それは彼女が一戦力、一武将であることと、他でもない彼女自身がそれを望み、そして隆景がそれを受け入れたからだった。隆景も大阪へ頻繁に訪ずれる身であるのだし、此方の小早川の屋敷に住まえば良いと。彼女の意志を尊重するかたちとなった訳なのだが、やはり旦那である己よりも身近に居る男が多過ぎることは悩みの種であるらしい。官兵衛はつい先程まで、政務や西国情勢の為に隆景と会っていたにと関わらずその話を聞かされていたのだ。

「三春、少し隆景殿と共に行ってきたらどうだ?此方は俺達だけでも大丈夫だ」
「吉継、けれど…」

仲睦まじい二人の様子に、吉継がそんな提案を口にする。彼女はパッと表情を輝かせ、そして不機嫌そうな三成の様子をちらと見てから、やはり、と言いかけたところで三成が動いた。

「…行け、別にお前なんか居なくてもこれくらい余裕なのだよ!」

しっしっ、と手で払うようなそのぞんざいな様子と物言いに普通ならば顔を顰めるところ。けれど彼女は、

「ありがとう、三成」

その不器用な三成も理解した上で、その思い遣りを汲んで酷く幸せそうに笑うのだから。

「吉継もありがとう。この埋め合わせは必ず」
「ああ、楽しみにしている」

その彼女の表情に固まり惚けて頬を染める三成に、彼女からの言質に満足そうな吉継。三成は不器用で阿呆だが、吉継は頭の回る分厄介さも一入であろう。隆景は僅かに眉を寄せ、見せつけるように彼女の腰に手を添えるとそんな男たちへと背を向けた。

「ではお言葉に甘えて、行きましょう三春。官兵衛殿、本日はありがとうございました」
「いや、・・・程々にな」

爛々と輝く瞳は三成と吉継を静かに威圧しているが、その彼女に触れる手だけは酷く優しい。恐ろしいことだと、言い淀む官兵衛に、その全てを理解している三春はくすくすと笑うのだ。

「大丈夫です官兵衛殿。隆景殿は優しいですから」

そう言う彼女を見つめる隆景が、人一倍優しくする相手が彼女だとは知っているけれど。屹度明日まで離されないであろう事は、笑みを深める男から既に明らかだった。







隆景は城内に未だ設けられている彼女の自室へ足を運ぶと、性急に畳の上に三春を押し倒した。

「妬きましたか」
「…妬きました」

けれど彼女はそれに驚くでもなく、くすくすと笑うばかり。

「私には隆景殿だけなのに」
「・・・分かっていますが、あまり他の男に無防備なのは感心しません」

笑むばかりでちっとも聞き入れやしない彼女に唇を寄せると首元に腕を回されて、啄むように口付けながら言葉を交わす。

「じゃあはやく、貴方でいっぱいにしてくださいな」
「勿論です。明日の朝まで離してあげませんから」

畳に押し付けるようにして激しく口付けると、酸欠と快感でとろりと蕩けた表情になった彼女が、くたりとしながらも力の入らない指先を伸ばして隆景の頬にするりと触れた。

「隆景、あいたかった」
「〜っ!!三春、それは反則です」

屋敷に戻るまで我慢をしようと思っていたのに。意識的なのか煽ってくる彼女に眉根を寄せて、その余裕を奪ってやらねば気が済まないと隆景はその細い首筋に顔を埋める。

「ッ隆景殿、」
「三春が悪い」
「っん、」

なぞるように這う舌に、まさか此処でするのかと驚愕に身体を固くする彼女の着物を肌蹴させて、暴いた鎖骨に歯を立てる。上がる声なき悲鳴は彼女が口許を押えているからで、いつもなら甘い声が聞こえるはずのそれはやはり物足りない。
仕方が無いと、身を起こして彼女の着物も整えると、息の上がった様子の彼女が涙目で下から睨み上げていた。

「・・・謝りませんよ、煽ったのは貴女です」

その様子からふいと視線を逸らして、力の入らない彼女を抱き起こしたとき、

「っ、」

ちくり、と首元に痛み。仕返しとばかりに返されたその小さな痛みに堪えている熱が溢れんばかりなのを何とか抑えつけて、支えて共に歩いて屋敷へ戻ろうと思っていた彼女を、逃がさんとばかりに抱き上げてしまう。

「たか、」
「今日は覚悟しておきなさい」

小さく上がる悲鳴にも知らぬふりをして、二度も焚き付けてくれた彼女を軽々と、そして足早に屋敷へと運ぶのだった。



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