!!caution!!
・唐突にhp×dc
・降谷さんが魔法使い
・ホグワーツを卒業後日本の警察庁のゼロ(ほぼ魔法族)になったのにダンブルドアのせいでイギリス魔法省に出向することになった不憫降谷
・あんまりhp感も無い
・魔法具を捏造
・魔法の解釈を捏造
・男主が未成年なのに学外で魔法を使っちゃう
・もしかしたらシリーズ化
・変換は「名前」「苗字」のみ使用
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降谷零は、本来ならば日本の公安に勤め、その国防を維持するべく日夜職務に励む警察官である。その筈なのだが、彼は今、どうしてだか日本から時差でいうと8時間も離れたまん丸な地球を半周、イギリスにいるのだ。暫くは日本に帰れない。そういうお達しであった。
「あの狸ジジイ・・・」
普段は、特に庁舎外では丁寧な言葉遣いを心掛けている。けれどそれが崩れてしまうくらいには、彼の精神は疲れ切っていた。理不尽な上司のそのまた上の、日本すら超えた、魔法界のラスボスと言われる白髪の大狸に裏から手を回されては、彼にはもはや…というか誰にも、どうすることもできなかったのだった。そしてその大狸からの依頼を、降谷は決して断れない。
「あの、」
ツカツカと足を進める。頭の中は憤りでいっぱいで、飛び交う他国語を聞き流していた降谷はその声に気が付かずにその場を通り過ぎようとしていた。
「"すみません!!!"」
ピタリと、足を止める。
耳慣れた母国語を拾った耳は、考えるよりも早く、止まれという信号を脚へと伝達したらしい。何事かと視線をそちらへ向けてみると、そこには―少年から青年に足を掛けたくらいの―恐らくまだ十代の男の子が立っていた。
「これ、お兄さんのじゃないですか?」
そうして差し出されたのは、降谷にとっては大切な、けれど他の誰かに―特にマグルにとって―はゴミに見えてしまうような、小さなちいさな、透明の石ころだった。
「っ!!」
驚いて、その差し出された手のひらからほぼ引っ手繰るように受け取った。サッと見回して壊れていないかだけ確認して、息を吐く。目の前の彼が拾ってくれて助かった。降谷のそんな様子に彼はホッとしたように息を吐いて、それからふうわりと柔らかに微笑んだ。
「良かった。姿くらましする前に、足を止めてくれて」
「、君、魔法族か?」
降谷が歩いていたのは、マグルのロンドン。人目を惹くその彼の微笑みから、その全身へ視線を巡らせる。魔法族には珍しく古めかしい装いではない、細身の黒いパンツに、白いセーター、紺色のチェスターコートがよく似合っている。今どきのマグルの若者、という感じの彼は、猜疑心たっぷりに視線を走らせる降谷にクスクスと笑いながら、コートの内側をすこし捲くって、チラリと我々魔法族の必需品を見せてくれた。
「杖ならここに。まあ、未成年なのでおおっぴらには使えないんですが…それ、記憶を入れる為の器でしょう?そんな大事なもの、もう、落とさないようにしないと」
そう言って、彼は降谷のコートの裾を掴んだ。降谷も降谷で、本人の趣味趣向とマグルの飛行機で移動したという便宜も手伝って、かなり今どきの格好をしていたのだが、その示された場所、ポケットの裏側を見てみれば、どこに引っ掛けたのか―小さな穴が空いていた。そこから落ちたのだろう、気が付かなかった。とてもとても、大切なものなのに。これを失くしていたらと思うと、どれだけ後悔してもしたりなかっただろうと肝が冷えた。
「
そんな己の感情に気を取られているうちに、彼は杖の先を破けた箇所にそっと当てて、言葉を呟く。便利な呪文だが、その腕前は術者の力量に大きく左右されるものだ。直すものの構造をきちんと理解していれば綺麗に直るし、そうでなければ何だかチグハグな出来上がりになる。彼は前者のようで、とても綺麗に、穴なんて無かったかのように修復された。
「ありがとう。上手いんですね」
「いえ」
そこまで言い置いて、はた、と気が付いた。彼は未成年だとつい先程言っていたのではなかったか。瞳を見開いてコートから視線を上げれば、彼は悪戯気に微笑んで、人差し指を唇に押し当てた。
「お兄さんが使ったってことで。ね?」
ここまで綺麗に直してくれたのだからとお説教は呑み込んで、ぺしりと軽く、彼の額を叩いておいた。それに破顔した彼が何だか可愛くて、そのまま何となく急ぐ気もなくなって、二人で並んで歩く。どうせ狸のところに行く途中だったのだしと世間話程度に話を振れば、どうやら彼は現役のホグワーツの学生で、日本語が話せたのは父が日本人だったかららしい。日系の顔立ちはそういうことかと納得する。
「住まいはイギリスに?」
「はい。母はイギリス人ですし、両親の代からイギリスに住んでいるので」
少しだけ、肩を落とす。降谷にとって、日本という枠組みの中にあるものは総じて守るべきものに値する。そこに彼が含まれていないのは、ほんのちょっぴり、寂しかったのだ。この短時間でそう思わせるくらいには、彼は好意的な青年だった。
「貴方は日本にお住まいなんですか?」
「ええ、普段はそちらに。まあ、暫くは帰れないんですが・・・」
「お仕事がお忙しいんですね。でも、そうでしたら、またお会い出来るかもしれません。魔法界は狭いですから」
柔らかい微笑みだった。こういう人物のことを、癒し系というのだろうか。そんな言葉が自然と浮かび、降谷は彼と出会う前までの荒んだ心が癒えていくのを実感していた。
「ええ、そうしたらお茶を御馳走させてください」
「是非」
こくりと頷いて、別れの気配。嗚呼、手放し難いなあなんて、思ってしまうのは何でなのだろうか。
「降谷零と言います」
「諏訪部三春です」
手のひらを差し出すと、やんわりと握り返されるそれ。今度こそ挨拶をして、二人は別れた。それが、最初の出会い。
・
・
・
「三春くん、」
「おかえりなさい、零さん」
あれから何の偶然か、何度も出会った彼らは随分と親しくなった。今では己の家に招き入れるほどで、彼に会うのは降谷にとっての休息、癒し、いや、ご褒美と言っても良い―になっている。彼はとんでもなく優しい、癒される、可愛い、結婚したい。
「ただいま・・・」
「いつもお疲れ様」
今日は彼が来る日だというのに朝から呼び出されて、仕方が無いからうちで寛いでいてほしいと家に上げて。彼が待っているからと普段の5倍速で仕事を終わらせて、帰ってくれば何たる幸福か。
ソファに腰掛ける彼のお腹まわりに抱きついて、擦り付けると自然と撫でられる頭。歳下に何をやらせているのかと思うなかれ、一度経験したら病みつきになること請け合いである。100%の自信をもって主張する。まあ、己の目の届く範囲で他人をそんな近くまで近寄らせたりするつもりは無いのだけれど。
「うう・・・もうあの古狸アバダしたい・・・」
くすくすと笑う彼は、日本では中々の旧家であったという諏訪部の現当主ということもあってか、中々に世の事情に精通している。だから降谷が何の任務に就いているのかもそれとなく理解しているし、細かく聞いてくることもない。彼自身が両親の死後から、その古狸の庇護下にいるということで、恐らく半永久的に敵に回ることも無く、だから愚痴っても問題無い―
とは大きな声では言えないものの、いつも己の不平不満の戯言を嫌な顔ひとつせず、しかも癒しながら聞いてくれるのである。何と貴重な人材であろうか。嗚呼、結婚したい。
「三春くんとずっとこうしてたい・・・」
「ふふ、ありがとう。おれも零さんと一緒にいる時間すきだよ」
髪を梳く指が優しい。見下ろす瞳が甘い。嗚呼けれど、これは降谷のものにはならないのだ。彼には幼い頃から彼を支えてくれた何者にも代え難いひとがいて、そのひとを大切に想っていて、成人したらそのひとに想いを伝えるつもりであるという。何なのだその贅沢者は。憎たらしい、羨ましい。
・
・
・
「じゃあ、またね」
「・・・」
「そんな顔しないで。また来るね」
「…はい」
煙突前で、見送るこの瞬間が憎いと思ったことなど何度もある。しかももうすぐ新学期の為、彼と会えるのは早くても冬だろう。
「お仕事がんばってね、零さん」
眉根をよせたまま俯いていると、頬に柔らかい感触。
「、」
固まる思考に顔を上げると、悪戯気に微笑む彼の顔がこちらを覗き込んでいた。そしてそれは、捕まえる前にひらひらと手を振って、そのまま炎の中に消えてしまった。
「〜っ!!」
いま、何が起こったのかと理解して熱くなる頬に、蹲る。一回りも歳が離れているのに、いつもこうして、彼には敵わない。
20181017修正