心配そうに彼女を何度も振り返る半兵衛に、込み上げるのは苦笑い。
「お前が戻るまで四国へは行かないって」
「そんなこと言って、また勝手に単騎で突っ込んだりしないだろうね?!」
「しないって!いいから行けよ!日が暮れるわッ!!」
中国で暫く調整した後に四国を攻める。その間に、九州に送り込んでいる官兵衛の様子を見に行く為に半兵衛と少数の精鋭はさらに先へ進むことになった。それを見送るのにこんなにも時間がかかろうとは、彼の過保護は本当に度を越えている。
「・・・情けないモンを見せたな」
「いや・・・貴様も苦労しておるのだな、」
ほぼ初対面の毛利元就に、そんな様子の半兵衛を見せてしまって彼女の精神面は初っ端からいきなりゴリゴリと削られていた。
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「流石は神に仕える島と呼ばれる厳島。美しいな」
案内されながら、その光景に足を止めた。光り輝く海、茜に染まる大鳥居に、瞳を細めて影の深まっていく様を夕日と共に見送る。なかなかに贅沢な体験だと、彼女は満足げに表情を緩めた。
「・・・朝日が昇る様も、見物ぞ」
「そうか。じゃあ明日は早起きしなきゃな」
不意に口を開いた元就に視線を向ける。案内すると言っても一方的に彼女の方が訪ねて回るだけで、彼はずっとそれに対して言葉少なに答えるだけだった。彼から話してくれたのは初めてだと、嬉しく思って再び彼女は微笑んだ。
「四国征伐の策は聞いてるけれど、毛利の舟を沈める必要は?」
「それは当初、豊臣の到着を待つ予定であった故。もはや到着しているのだ、わざわざ沈める必要もあるまい」
「うん、うん、そうだよな。じゃあ、とりあえずあの大筒は私に任せてくれ」
「・・・あの大筒をか?」
「富嶽の大筒は十尺程だと聞いている。それぐらいであれば叩き落とせると思うぞ」
「・・・」
あっけらかんと言い放つ彼女に元就は暫し沈黙した。この女が力任せに強いというのは聞いていたが、あの大筒を"それくらい"と言ってしまうのには驚きが隠せない。
「私が飛び出す足場にする船だけ前に出してくれれば良いから、あとはなるべく前進させないでくれ。元就だって、損害は少ない方が良いだろう?」
「ああ・・・」
「駒の捨て時ではなくなったという事だ」
得意げに語る彼女は、此方の物の考え方や優先するものをきちんと把握した上で話を進めている。豊臣に頭の切れるのはあの食えない軍師だけかと思っていたが、大将がこれではまだ他にも癖のあるのがいそうだと元就は考えを改めた。
「富嶽に突っ込んで、大筒をぶった切ると脅す。それで取り敢えず話し合いの場を設けてくるから、そうしたらお前も此方に来いよ?」
「話し合いで長曾我部を丸め込むと申すか」
そんなことが出来るものかと、鼻で笑った元就に彼女は不適に口角を吊り上げた。
「ああ、言ってなかったか?私は戦が嫌いなんだ」
・・・面白い女だ。
それは元就には珍しく素直な感想だった。こんなに大層な事を口にするのだから、それをやって見せれば認めてやらない事も無い。長曾我部と仲良くするのは嫌だが、この女ならばアレも上手く操れるかもしれない。やれるものならばやってみれば良い、そう思って元就も口角を持ち上げた。
20180204修正