ぜーんぶ誰にもあげない

目を覚ますと、見覚えのない天井がダンデを迎えた。
そこはどうやらホテルの寝室のようで、そういえば決勝戦の途中で、ローズの暴挙を止めるため、ブラックナイトの災厄とやらと相見えていたのだった。自分が倒れた後、ホップとユウリがことを収めてくれた記憶は微かにあった。

起き上がって視線を巡らせると、仄暗い部屋の中、ベッドの脇にはリザードンが丸まっていた。近くのソファには2つの人影があり、誰か確認しようと枕元の照明を薄らと付ける。そこにはナスタと、彼女の膝に頭を預けるホップの姿があった。2人とも眠っているようで、静かに寝息が聞こえてくる。

リザードンにホップ達を守ってもらったので、ムゲンダイナの放った波動をもろに受けてしまった訳だったが、あの時のような重さは既に無く、起き上がってみると身体も以前よりも軽いような気さえした。心配をかけたであろう2人の側へと近寄れば、彼らは手を握りあっているようだった。ホップを安心させるために、彼女がそうしてくれたのだろう。彼女は優しい・・・けれど今はなんだか、その安らかな寝顔よりも、こちらを見て欲しいと思ってしまって、彼女の目の前に膝をついて、顔にかかる髪を耳にかけ、その名を呼んでみる。

「・・・ナスタ」

目を覚まして、こちらを見て、俺のことを考えている時の、甘い瞳が見たい。小さな口から紡がれる、俺を心配する言葉を聞いて、その心地よい泥濘に浸りたい。

「ナスタ」

彼女の眠りを邪魔するように頬を撫ぜると、ふるりと睫毛が震えて、瞼が持ち上がる。ゆっくりと上がる視線を待っていられずに、彼女の頬を両手で包み込んで視線を合わせた。

「ダン、デくん?」

ねむけまなこな瞳とかち合う。

「っ、ダンデ・・・!」

こちらを見て、ダンデだと分かると共に、歓喜に瞳が潤むのを真近に見る。

「よか、よかった・・・」
「心配をかけてしまったな」

涙が溢れる前に腰を浮かせてその愛しい目尻に唇を寄せると、彼女はくすぐったそうに微笑んだ。けれどそんな俺達の真下には、ホップがすやすやと眠っている訳で。可愛い弟ではあるが、彼女はダンデの所有物であるので、その膝もタダで明け渡す訳にはいかない。

「俺の目の前で浮気とは・・・随分と大胆なことをするな、ナスタ」

悪戯心と少しの本音を交えてそう囁けば、数秒固まったあと、驚愕に瞳を丸めた彼女が、何を言っているのかと咎めてくる。

「え・・・浮気?え、なっ、これ?!ちょっと、ホップくんだよ・・・?!」

驚きと呆れに包まれていながらも、膝にいる存在を忘れてはいないようで、潜められた声が気に入らない。ホップでもなんでも、ダンデを妬かせたのだから浮気に違いないのだと不満を込めて見つめれば、呆れを逃すように溜息を吐かれた。だから、

「ちょ、ホップくん寝て」

立ち上がり、彼女の顔を上へと傾けると、仕返しとばかりにその口元へ唇を寄せる。慌てたように制止がかかるが、それすらもまとめて口の中に含んでしまう。

「やめっ・・・んぅ、」

ホップがいるから暴れられないのをいいことに、彼女の顔を手のひらで包み込んで好き放題にする。
声を漏らさないように、けれど抵抗しようとしているのか、彼女の指がダンデの腕を掴むのが、意図していないだろうが、縋り付かれているようになっている。握る力が弱まるまでいじめてやれば、彼女はくたりとソファの背もたれにもたれかかってしまった。

「・・・ばか」

涙目なのが可愛いくて目尻をなぞれば、酸欠やら何やらで紅潮した頬で睨み上げてくる。
  堪らずもう一度顔を寄せるのは、さすがに彼女の手のひらに阻まれた。



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