こころ惹かれはじめる頃

あれはまだ、ダンデが十代前半くらいの頃だったと思う。

キバナとワイルドエリアへ行っていたのだが、最近キバナの手持ちになったばかりの新しいポケモン、ヌメラの調子が悪いからと、キバナの自宅に一時的に帰ってきていた。キズぐすりやきのみを与えたりと色々と思いつく限りのことはやってみて、それでもどうしても消耗が激しいからと、ついにキバナの幼馴染みのブリーダーである"彼女"へ頼った時のことだった。

『だから、ヌメラをボールの外に出しておくなら、乾燥と湿度に気をつけてあげないとダメだよって言ったでしょ!!』

キバナのロトムから聞こえる怒鳴るような大声と被るように玄関先から同じ声が聞こえ、驚く間もなくバンッと乱雑にドアが開かれた。どこからどう見ても怒っているとわかる表情で、走ってきたのか軽く息を切らして、通話を終了させるロトムを省みることもなく部屋に入ってきた彼女は、そのまま無言でキバナの頭にゲンコツを落とし、彼が彼女に電話口で言われるまま濡れタオルで応急処置を施したヌメラを、ここまでの行動では考えられないほど優しくそうっと抱え上げると、またドスドスと足音を立てながら浴室へと向かったようだった。

「・・・痛ってぇ」

殴られた頭を摩りながら、そう小さく呟いたキバナはいつもの不遜さが形を潜めていて、落ち込んでいるようだった。ヌメラの体調の異変に気がつくのが遅れたばかりか、その原因が自分の行動だということに後悔をしているらしかった。

「キバナ、」

そんな彼に何と声をかけたものかと、名前を呼んだのと同時に、開け放しになっていたドアの向こうから、彼女がこちらへ戻ってきた。

「ヌメラは身体が乾くと息ができなくなるって最初に言ったよね。だから乾燥には気をつけてあげないとどんどん弱っていっちゃうから、育てるのは難しいポケモンなんだよって。なるべくボールから出して一緒に居たい気持ちも分かるけど、それで大事なポケモンに辛い思いをさせてしまうのは違うよね  って、もう分かってるか」

暗い顔で俯いたままのキバナの前に、彼女が膝をついて視線を合わせる。

「ほら、いつまでそんな顔してるの」

ぐい、と顔を前へ向かせると、キバナの両頬をむぎゅりと抓り、横へ引っ張る。茫然としたキバナのあまりの間抜け面にフッと力を抜いたように笑った彼女の横顔に、視線が引き寄せられた。

「わたしが来たからにはもう大丈夫だってば。安心しなさい」
「・・・ははへよっ」

そう言った彼女の手を乱雑に払ったキバナの表情は、もういつものものに戻っていた。眉根を寄せて不機嫌そうに装っているけれど、照れくさそうな、どこか安堵したような顔で。そして手を払われたのも何も気にせずに、そんなキバナを柔らかな眼差しで見ている彼女。そこに確かに揺るがぬ信頼関係を見て、どうしてだか、肚の底がもぞりと動いた。

「ほら、対処法教えてあげるからおいで」

ダンデくんも来る?とこちらへ振り向いた彼女の優しげな眼差しはいつものものだけれど、でも、やはりキバナに向けるそれとは違うものに見えてしまう。
仕方がないのに、分かっているのに、羨ましいと思ってしまう気持ちを止められない。キバナは大事な友人で、彼女のことも同じように大切な友人の一人として思っているのに、どうしてこんな気持ちになってしまうのか、この頃のダンデには分からないことだらけだった。

  今ならば、その気持ちの正体も、折り合いの付け方も、わかるようになってきたのだが。



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