ロイヤルミルクティー

その場所は、優しいぬくもりに溢れている。

「いらっしゃい  嗚呼、オールマイトでしたか。こんにちは」

雄英高校敷地内、校舎と寮の立ち並ぶ区画のちょうど真ん中あたり。どちらからも徒歩3分くらい、緑の木々に囲まれた一軒家のカフェがある。セキュリティの強化だけではなく、生徒達のメンタルサポートや息抜きに、と雄英が全寮制になるのに合わせて根津校長の計らいで招かれたのは癒し系だと人気の高い「お天気ヒーロー・ミティアル」。天気を操る個性で様々な災害救助で活躍する彼は、教員兼カフェの店長としてこの雄英高校で働いている。

「いま大丈夫かな?」
「はい。この時間は殆んど誰も来ませんから」

カウンターの真ん中に腰掛け、ミルクパンに牛乳を注いでゆっくりと温めながら、カップに湯を注いで温めている様子を眺める。注文する前に何やら作り始めてしまったので、ひとまずそれを待つ事にした。彼が出してくれるものはどれも美味しいので、その辺りは心配していなかった。紅茶の茶葉の開いた良い香りが鼻腔を通っていく  授業が始まったばかりの午前中のこの時間、午後がメインの授業である私にはこうしてゆったりと過ごす事のできる唯一の時間でもある。そうは言っても今はまだ一応夏休み中であるし、ほぼほぼ療養メインで実習には顔を出すくらいしかしていないのだけれど。

「・・・昨日ね、1年A組の授業に顔を出して来たのだけれど」

ことり、と目の前に置かれたティーカップに促されるようにして、私はぽそぽそと話し始める。

必殺技の開発中の彼らにアドバイスをして回っていた際、事故でセメントの塊が崩れて落ちてきそうだったところを生徒達に助けられて、周りのみんなに心配をかけてしまったこと。

「危ないから下がっていてと言われたことに、なんだか悲しくなってしまってね・・・」

守る側から守られる側へ。自分の無力さのようなものを突きつけられたような気になってしまった。そう言うと、目の前の彼は暫くこちらをジッと見ていたかと思うと、冷めてしまいますよ、とミルクティーを飲むように私に勧めた。そして、

「貴方はいつも、一番前を一人で走っていたから、もしかしたらあまり目にする機会がなかったのかもしれないですが  ヒーローも、街の人も、生徒達もみんな、守って守られて、助けて助けられて生きているんですよ。守る側も、守られる側も、違いは無いんです。私達はみんなが同じところへ立っていて、そうして、互いに支え合っている」

こくり、と喉を通り抜ける柔らかく温かなぬくもりと共に、じんわりと沁み渡るように、彼は私にゆっくりと言い聞かせるようにそう告げた。

「貴方を守った生徒達は、今も、確かに貴方に守られているのでしょう。"何"で人を守るのかはそれぞれですから」

平和の象徴であったが故の、それは私の傲慢だったのかもしれない。こうして言葉にされてみれば、確かに私は周りの人々に助けられて生きてきたのだと今一度思い返すことが出来る。決して、たった一人で生きてきたというつもりではなかったが、守る側守られる側などと、そんな括りでいたことには、確かに少し、間違えていたかもしれない。

「そうか・・・そうだね。私も彼らも、守り守られているのだものね」

「俺はね、思うんですよ」

たった一人の誰かを犠牲にして成り立つような平和より、みんなで並んで手を繋いで、そうして確かに積み上げるような平和を紡ぎたい。そう言って笑う彼の表情が優しさに満ちている。

「それにね、これまで余りあるほどにみんなを助けてきた貴方だから・・・貴方を助けたいと、みんな思っているのだと思いますよ」

ふふ、と笑い声を溢しながらカチャカチャと片付けをする彼に私もクスリと笑い返すと、あたたかなミルクティーにもう一度口を付ける。

甘くやわらかで、優しい味がした。



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