14 唸れ体育祭!!-03

昼休憩が終わり、午後の部が始まる。最終種目は騎馬戦勝ち抜けの4チーム総勢16名からなるトーナメント形式で、一対一のガチバトルだという。個性的に、あまり当たりたくない相手も何人かいるな、と考えながらミッドナイトの進行を見上げていると、少し離れたところから、スッと手が上がり、尾白が突然辞退を申し出た。

「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分、奴の個性で…」

そう言った尾白を見て、緑谷が心操へチラリと視線を走らせる。不穏な空気の漂う様子に、問覚はただ黙って成り行きを見守っていた。

「チャンスの場だってのは分かってる。それをフイにするなんて愚かなことだってのも…!」
「尾白くん…」
「でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」
「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
「違うんだ…!俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ・・・あと何で君らチアの格好してるんだ…!」

尾白の言い分は理解できる。プライドの問題、その通りのことなのだろう。まあ、せっかくのイベント事の真っ只中、そんな妙な空気にしてまでの事かと思う気持ちも無いではないけれど。騎馬戦の時、心操がどこか卑屈だった訳は、たぶんこういうところにあるのだろう。この空気感は、問覚にも経験があった。色んなことを"知ってしまえる"、"出来てしまえる"からこその、それがまるで悪いことであるかのような、この空気。小学生の頃は、こういう嫌な空気を諸に受けながら、自分の心を守る為に煩わしい声には耳を塞いできた。

尾白の辞退に、青臭い話は好みだと許可を出したミッドナイトの言葉を受けて、代わりに出るのは最後まで頑張って上位をキープしていた鉄哲チームが相応しいということで、そこから鉄哲が進出することになった。その鉄哲チームから最後の最後にポイントを奪ったのは問覚と心操な訳で、それも含めてやはり、居心地の悪い空気だなと感じてしまう。問覚がそうであるのだから、心操は更にそうだろう。

決勝の組み合わせが決まり、各々解散の中、対戦相手に話しかけたり進出した者を応援したりと人が散る。緑谷に話しかけて尾白に邪魔をされた心操のもとに、問覚はゆっくりと歩み寄った。

「心操」
「・・・、問覚」
「頑張れよ一回戦」
「俺のこと応援していいの?」
「騎馬戦一緒にやった好だろ。それに、俺こういう空気は好きじゃない」

周りにスッと視線を走らせて、心操がコクリと頷いたのを見て、問覚はフッと息を吐き出した。

「俺等が勝ったのは正しい実力なんだって、見せてやろうな」
「!」

ニッと笑ってそういうと、風で前髪が舞い上がり、瞳を丸めた心操が、驚いたようにこちらを見ているのが見えた。



緑谷vs心操戦、轟vs瀬呂戦を終えて、氷水で濡れてしまったステージを乾かしてから迎えた3戦目。

「障害物でも騎馬戦でも何気にイイトコとってるヒーロー科問覚統!!対、スパーキングキリングボーイ!こちらもヒーロー科上鳴電気!!」

だだっ広いステージの上、盛り上がる観衆とDJプレゼント・マイクの声を聞きながら、上鳴はどこか飄々としたように見える問覚と向かい合う。普段の整った顔は分厚い前髪に隠れ、前が見えてるのか見えていないのか分からない彼の様子は、みんなが戦って出場権を争った本戦の対戦相手を前にして、いっそ不遜にすら見えた。問覚の個性は索敵や情報収集に特化した後方支援型。本人は近接戦闘を得意としているが、上鳴の放電や轟の氷結のような遠距離高出力型のタイプは問覚にとって非常にやり難い相手である筈だった。勝算はある、と緊張を腹の底へと飲み下す。

「近接で問覚には勝てねぇ…でも、遠距離可能な俺に分があるっしょ」
「俺が空に逃げられるの忘れてない?」

開始直後、上鳴の煽りにそんなふうに返しながら足を浮かせ問覚の言葉に成る程と気付かされて、初手放電を決めようとしていたのを止める。
拳一個分程浮いたところを、足音も立てずに歩きながらゆっくりと距離を詰める問覚の様子に、焦りを浮かべながら、けれど強気を保っていられるのは、いくら問覚が宙に浮けるのだとしても、上鳴に触れなければ場外へ投げ飛ばす事も出来ないだろうから。その点、触れれば放電で痺れさせての一撃必殺の出来る上鳴は俄然有利、

「触られなきゃやりようは  !?」

  の、筈だった。
ジリジリと詰まる距離に、横に移動しようとした足が、身体ごと、何かに阻まれるように動きを止める。

「な、」
「腹に力入れろよ上鳴ッ!」

その隙を、力強い踏み込みで一瞬で詰めてきた問覚に対処が遅れる。掴もうと伸ばした腕はまた見えない何かに阻まれて、踏み込みから蹴り上がった足が、宣言通りに腹部にヒットした。力を入れろ、なんて言われても間に合うわけがない。

「う"ッッッ」

鳩尾にモロに入って息が止まるような苦しさと共に、ふわりとした浮遊感、身体が蹴り飛ばされる感覚。辛うじて受け身をとるが、打ち付けた背中に走る衝撃的な痛み。

「上鳴くん場外!!」
「ぅう"ぅぅ………」
「問覚ーーー!!一撃で決めたァーーー!!二回戦進出、問覚!!」

ワァッと湧く観衆とプレゼント・マイクの声に、早々に負けを理解して上鳴は呻いた。

「なんかさっき上鳴、一瞬動けなくなってなかった?」
「問覚の個性は"空間掌握"  上鳴の手足を、触れずに"掴んだ"んだろうな」
「なんだソレ!ズッリィーーーーッッ!!」

相澤の解説もマイクの実況も、上鳴の耳には届いておらず、ステージから何事もなかったように降りてくる問覚を、痛みに耐えながら涙目で見上げることしかできない。

「ウ"ゥ…」
「ごめんな上鳴、だいじょうぶ?」
「思、きり、蹴った・・・じゃん」
「だってこれ初見殺しだしさぁ。よっと」

側にしゃがみ込んだ彼の手を借りながら身体を起こすが、痛みから起き上がるのも辛い。ぷるぷると震えながら恨み言を呟けば、問覚は笑いながらごめんねと謝って頭を撫でてきて、上鳴の腕を掴むとそのまま背負って起き上がった。

「大丈夫?担架いらない?」
「大丈夫ですよ」
「やざじぐじで…」
「はいはい。救護所までの辛抱だからな」

様子を見に来たミッドナイトに大丈夫だと手を振って、問覚はそんな上鳴を救護所まで運んでくれたのだった。



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