08 遠距離の相愛

「はぁ…統に会いたい・・・」
(あーあー、出たよホークスさんの統くん欠乏症)
(あれが出ると面倒くさいからなあ。次いつ来るのかなあ統くん)

  九州、某所。

「すいませーん。俺、ちょっと出るんで」
「あっ、はーい!ごゆっくりー」
「・・・いってきまーす」

『速すぎる男』と称される人気ヒーローが、事務所内で気の抜けた態度を隠すことなくそんな会話をしていることなど、この時の俺はまだ知らない。



  雄英高校前。

普段は放課後には公安の施設に寄って訓練や勉強をするのが常なのだが、その日は、校門を出たところで目の前を見覚えのあり過ぎる赤い羽根が横切った。

「ふはっ・・・早いな」
「どうした?問覚」

思わず吹き出して、通り過ぎる前にそれを掴む。
先日写真を送ったからもうちょっと持つかと思っていたけれど、もしかしたら逆効果だったのかもしれない。俺が突然笑ったので、隣にいた切島が不思議そうに首を傾ける。

「ごめん!俺ちょっと急ぐ」
「?おう、また明日な!」

仕方がないなと内心嬉しくなりながら、羽根を指先でくるりと弄ぶと切島に別れを告げた。駆け出す背中に返事を受けながら羽根の指し示す方向へ道を進んで、路地裏に入って個性を発動させ、宙を駆け上がる。雑居ビルの屋上に、目立つ大きな赤色の翼がこちらへ背を向けて立っていた。

「ただいま、ホークス」
「おかえり」

個性を解いて近付くと、その翼の人は、ゆっくりとこちらを振り向いて笑う。近寄れば、ぐっと腕を引かれて腕の中、赤色の翼に視界を占められる。ぽんぽん、と背を叩くと、ぎゅっと力を込められた。徐々に力を強められて、背が反るくらい。痛ぇよ、と思いながらも好きにさせていると、はぁ、と盛大な溜息が耳元で聞こえた。

「・・・統やぁ」
「そんな言うほど久しぶりじゃないでしょ」
「いや、1ヶ月は久しぶりでしょ!」
「そう?」

抱えられたまま屋上に座り込んで、膝の上に座らされる。この人は昔からいつも俺のことをこうやって愛でるのが好きなのだけれど、子供の頃はともかく、体格はまだしも今や身長も逆転した身の大の男を、こうやって好んで眺める彼の気が知れない。面白いことなんて、何もないと思うけれど。制服似合ってるね、とこちらへ向けられる笑顔はぐずぐずの激甘なのである。そういうのは彼女に向けたらいいと言っているのに、この人は彼女を作ったときも仕事の次には俺を優先するという暴挙で振られるのが常の男なのだ。

「雄英はどう?楽しい?」

そんなことを思いつつ遠い目をしているなか掛けられたその一言に、色々と言葉が溢れ出してくる。もう既にメールで言っていた事だが担任が相澤だったこと、入学式をすっ飛ばして個性把握テストをやったこと、相澤が「合理的虚偽ィ!!」とか言ってめっちゃ煽って来たとか、オールマイトがデカくてお茶目で面白いとか、はちゃめちゃな個性で自らの腕を壊しちゃうような奴がいて、けれどすごく眩しい性格をしていることだとか。ほんとだ、1ヶ月会わないだけで話したい事ってこんなに貯まるのか。堰を切ったように話し始める俺の言葉を彼は全部楽しげに聞いてくれるから、確かに、こんなふうに話を聞いて欲しかったのだと理解する  他でもない、まるで兄のように可愛がってくれるこの人に。

「久しぶりじゃないって言ったけど、俺もホークスに会いたかったんやなあ」

気が付いて思ったことがおかしくて、ふふ、と笑うと、ぎゅっとまた最初みたいに腕に力を込められた。

「…はぁ。ホントかわいい・・・」

俺の胸に顔を埋めるホークスを見下ろして、ふわふわの金髪に指を通す。俺が癒しになるとかいうのは本当に理解は出来ないけれど、それでも癒しになるというのなら、いつも頑張りすぎるくらい頑張っているこの人を、少しでも労えればなとは思っているのだ。言葉にしたら調子に乗るから、言わないけれど。

「ホークス、いつもお疲れさま」
「・・・統、やっぱ今からでも転校しようか。博多にもヒーロー科はあるけん、俺の家に住めばいいし、絶対その方がよかばいそうしよ、」
「しねぇよ、ばか」

ほら、ちょっと甘やかすとこれなのだから。



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