青城カルテットと遭遇

「・・・あれ、お前の弟子じゃね?」
「弟子じゃねーし・・・って、お?」

烏野高校が文化祭なのだという。
そこへ偶々部活の休みが重なって、行ってみようぜ!と言う花巻に連れられて岩泉と松川と4人でやって来たそこで、及川は信じられないものを目にする事になった。

松川の指し示した視線の先、そこへ居たのは及川と色々と因縁の深い後輩。その目の前にはメイド服にポニーテールの女子が立っていて、何やら会話をしているというそれだけでもわりと珍しいのに、その後、飛雄が少し屈んだかと思うと、その女子に頭を撫でられていて、その表情が見たこともないほど柔らかいもので、一体何なのだそれはと驚いた。あの、飛雄が。ふーん、と面白いものを見つけたと言わんばかりに近付いていく及川をいつもは止めるはずの岩泉は、ちょうどタイミング良く、花巻につれられて焼きそばを買っているところだった。

「飛雄ちゃーん、奇遇だねえ」
「及川さん・・・なんで居るんスか」

及川を認めた瞬間、げっと口元を引きつらせる失礼な後輩。遅れてやって来た岩泉達にはきちんと頭を下げるの、何なんだろうね全く。ちょっとカチンとくる。それをにっこり笑顔で誤魔化して、影山の半歩後ろでこちらを驚いた顔で見ている女子を視界の端で伺うと、思ったよりもその身長が高いことに気がついた。そして、かわいい。

「飛雄ちゃんも隅におけないねえ」
「何がっスか」
「しらばっくれちゃって〜。その背中に隠してるメイドさん、彼女でしょ?紹介しなよ」
「彼女じゃないっスけど」
「とぼけんなって、さっきめっちゃイチャイチャしてたじゃん」
「頭撫でられてたよね、先輩?」

及川に追随するようにして、松川や花巻が影山に絡む。影山の後ろのその子は、声をかけると眉をしかめて影山の影に隠れるように身を縮こまらせた。

「・・・コイツらきらい、」
「えーっそんなこと言わずにさあ」
「嫌がってるんで離れてください」
「オイ、やめろ及川。他校に迷惑かけんな」
「岩ちゃんは固いんだよー。えいっ」
「あ、ちょっと及川さん!」

影山の隙をついて及川がその子の前に踊り出ると、その子は後退さって、そのまま岩泉の胸に背中から激突した。

「うわっ」
「大丈夫か?」
「うん、ごめん」

咎める影山の声を聞きつつ、あちゃあ、と思いながらも、でも岩泉だから大丈夫かと見ていると、後ろを振り返って謝ったその子の顔を見て、岩泉が首を傾けた。

「あ?お前、」
「え、何?岩ちゃん知り合い?」

その様子にどうしたのかと声をかけると、岩泉は何かに気づいたように目を見開いて、それから、

「お前らわかんねーのかよ、コイツ諏訪部だぞ」
「あー、言うなよ・・・久しぶりだな、及川クンに花巻クンに松川クン?」
「「「はあ!!??」」」

岩泉に指差されたその子は、諦めたように溜息を吐き出して、それからクッと口角を引き上げて笑って首を傾けた。



「えっ、かわ・・・、え、?」
「寄るな近い」
「うわ、本当に諏訪部くんじゃん・・・」

花巻と松川が信じられないものを見た、と言うように諏訪部に寄っていってくるくると眺め回す。岩泉はサッと2人から逃げて自分と影山の間に隠れる諏訪部のポニーテールの、そのぴょこぴょこ動く尻尾を感心したように眺めている。

「クラスの出し物かなんかか?出来が良いな」
「女子が張り切ったんだよ」

それに手を伸ばした岩泉を見て、花巻と松川が不満の声を上げる。

「ちょっとー。俺らは寄るだけで怒るのに岩泉はお触りオッケーなんですかー?」
「不公平でーす」
「日頃の行いの差でーす」

その呆れ顔も、女の子にしては低い声も、よく見ればぺたんこの胸も、確かに目の前の人が男だと言うことは理解できているのにも関わらず。

「ほ、ほんとにマネくん・・・?」
「そうだよ、かわいいだろ?」

さらりと揺れる長い髪だとか、化粧で色づく不敵な微笑みだとか、絞られて強調された細い腰だとか、スカートの裾から覗く細い足首だとかに視線を奪われる。けれどよく見れば、首筋は女の子にしては筋張っているし、当たり前だが喉仏だってある。腕はスポーツをやっている自分達と比べると信じられないくらいに細いけれど、手指はやっぱり少し骨っぽい。探せば男子だと分かる要素はいくらでもあるのに、それでも、胸の鼓動は普段よりもだいぶ早いまま。熱くなる頬に、及川の頭の中の大混乱は止まってくれない。

「ウン、かわいい・・・」
「なに照れてるんスか」
「別に照れてないけど!?」
「えっ、なに及川てばそういう・・・」
「やーん、言ってよお」

影山が変なものを見るような目でこちらを見る。けれど花巻と松川にも揶揄われてしまい、及川は確かに自分がおかしな反応をしている自覚があった。

「諏訪部、危ねえからこっち来い」
「うん」
「2人とも酷くない!?」

そんな及川の様子にサッと離れていく諏訪部と盾になる岩泉に喚く。諏訪部を視界に入れると、いや、それにしても本当にかわいいな、と考えてしまう辺り、及川の脳みそは本当にどうかしてしまったらしい。

「・・・とりあえず、写真撮っていい?」
「え、ムリ」

口からこぼれ出した欲望はすげなくされる。あんまりな塩対応にしつこくお願いして、最終的に何故か影山付きなら写真撮ってやっても良い、ということになり、及川と諏訪部と影山という謎の3ショットが出来上がった。

「なんで岩ちゃんだけ2ショなの!?」
「だから、日頃の行いの差だってば」

ちなみに、松川と花巻とも3ショットを撮らされた諏訪部は、これ以上絡まれる前にと影山を連れてそそくさと青城4人の側から離れて行ったのだった。



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