後輩巡りの旅-1

3年5組の看板を担ぎながら、颯爽と校舎内を闊歩する長身の女子がいる。"彼"は時折周りからかけられる声にひらひらと手を振り宣伝しながら、各教室の前を通り、大回りで一番人が集まっているであろう、正面玄関付近を目指していた。



「あ、縁下〜。成田〜」
「えっ」
「はい・・・、?もしかして、千歳さんですか・・・?」

目に入った後輩に遠くから声をかける。2年4組はたこ焼きらしく、出張販売をしているようで、首から弁当売りのように箱を下げていた。二人とも千歳の姿に目を白黒させて驚愕している。さっきから他のクラスの友人達にもしきりにこんな反応をされるので、千歳はすっかり慣れてしまって、二人の前に立つと可愛らしく小首を傾けてみせた。

「どう?かわいい?」

孝支曰く『最強にかわいい』らしいので、千歳はあざとくも見える仕草を平然と熟す。そのおかげで持ち前のやわらかな笑顔が抜群の破壊力を呈していることは、本人全くの無自覚であるのだが。

「びっくりしたなあ・・・かわいいです」

成田は頬を染めてコクコクと首を縦に振るのみだが、縁下はびっくりし終わると何食わぬ顔で千歳を褒めてくれた。千歳は二人からたこ焼きを一つ買いながら、緊張した様子の成田を揶揄う。

「そんなに照れなくてもいいのに」
「照れてるわけではっ」
「成田かわいーなあ」
「いやっ、かわいいのは千歳さんですっ」
「ふふ、ありがと」

笑いながらお礼を言うと、成田はさらに顔を赤くして固まってしまったので、助けを求めるように縁下を見ると、もう勘弁してやってくださいと言われてしまって、千歳はよくわからないと首を傾けながらも二人のところを後にした。



一つ階を降りると、1年4組と書かれた休憩所のところに、月島、山口、谷地の3人が立ち話をしているのを見つけ、千歳はそこへ寄っていく。

「やーち」
「ひょわっ!?」

小さな後輩の背後から覗き込むように肩を掴むと、変な声を上げながら身体を震わせる様子が可笑しい。揶揄い甲斐のあるその様子に笑みを堪えていると、すぐ側の長身が2つ、こちらを驚いたように見下ろした。

「えっ・・・え、?」
「・・・諏訪部さん、どうしたんですかその格好」

驚いたのは一瞬で、直ぐに呆れたような表情になった月島に、にっこりと微笑んでみせる。

「うちのクラス喫茶店なの。後で遊びに来なよ、サービスしてあげる」

ぴら、とサービス券を取り出し、ハッと閃いてそれにボールペンで一言つけ加える。

"ケーキ付(諏訪部)"

ドリンクサービス券の下にそう付け加えて、3枚まとめて月島に押し付ける。

「これ、もはや無料券じゃないですか」
「いいのいいの、他のヤツには内緒な」

怪訝そうな月島と、未だに目を白黒させている山口の高いところにある頭へ、背伸びをして手を伸ばす。

「いつも頑張ってる可愛い後輩をたまには労わないとね。お前達には問題児のお世話もさせてるし」

頬を染めて固まる山口と、視線を逸らすけれど嫌がらない月島に千歳はふふ、と笑うと、最後に小さな可愛い後輩へ向き直る。

「・・・谷地?」

声を掛けるも、マイワールドに飛んでしまっているのか目を回しているのか、返答のない彼女の目の前でひらひらと手を振るも意味はなし。

「谷地と写真撮りたかったのにな…ま、後で清水連れてくればいいか」

そう独り言ちた後、じゃあな!と去っていく後ろ姿を見送って数秒。

「・・・えっ、今の諏訪部さんだった?」
「遅いよ山口・・・」
「ごめんツッキー、でもあんまり衝撃的で…」
「まあそれは分かるけど」
「谷地さん!大丈夫?」
「はっ、や、山口くん・・・!いまここに、諏訪部さん似の美女の幻が・・・!」
「それ本物だよ、谷地さん!」

と、そんなふうに嵐のように純情な1年生達をかき回した本人は1人、ご機嫌に他のまだ会っていない後輩達を求めて足を進めるのだった。



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