昼休憩中、弁当を食べながらスマホを弄っていると思ったら、急に眉を厳めしくして不機嫌そうに誰かに連絡をとっている黒尾に、どうしたのかと尋ねるとスマホの画面をグイ、と文字通りの目と鼻の先にに突き付けられた。
「近ぇ!!」
それじゃあ見えないだろと怒鳴りつつ距離をとると、そこには宮城の烏野高校の澤村が、女子におにぎりを手ずから食べさせている写真が写っていた。
「へー、これ澤村の彼女?かわいいじゃん」
「かわいいどころの話じゃなくない?めちゃくちゃタイプなんですけど??」
「あーお前、ロング好きだもんな・・・」
「ポニーテールとか!?大好きですけど!?」
荒ぶる黒尾に面倒くさいを多分に感じつつ、夜久はスマホを受け取り、グループSNSのやりとりを眺める。もう1枚写真が送られて来ているのに気がついて、それを開いた。
そちらの写真は先程の女子が1人で写っているもので、柔らかな笑顔がとても印象的なもの。左目の横の泣き黒子が色っぽい と考えて、なんだかそれに見覚えのある気がして首を傾ける。確か、菅原もここに黒子があった気がする、と。一度そう考えてしまえば、そういえば髪色も、なんならこの笑い方も、どこもかしこも菅原に似ている。これってまさか ?
「・・・なあ黒尾、これ、スガくんじゃねえ?」
「は?」
「あ、ほら、文化祭の仮装とか言ってるし」
「なに言っちゃってるのカナ夜っくん。そんな訳ないデショ」
海とのやりとりで烏野は今日文化祭なのだと分かる。文化祭の出し物か何かに関係していると言うのであれば、菅原が突然こんな写真を送って来たのにも納得がいく。
澤村に彼女というのはデマで、たぶんさっきの女子は女装だと言うと、訝しがる黒尾にもう一度スマホを返し、2枚目の方の写真を見せた。
「いやこれはむしろスガくんより諏訪部に似て・・・、は?これ諏訪部か、?」
「あー、まあ諏訪部とスガくん笑うと似てるしなあ。でも、諏訪部ってそんな目立つとこに黒子あったっけ?」
ピンで写っている方はまだ見ていなかったらしい黒尾が瞳を見開いた。スマホを傾けていろんな角度から見ているが、いや、そんなことしても写真の角度は変わらねえだろ、と内心ツッコミを入れる。
「これホントに女装だったらヤバくない?なんでこんなにかわいいの?バカなの?」
「お前キモい」
「夜っくんヒドイ!!!」
写真が2枚しかないのと、うっすら化粧をされているのとで判断がしにくい。黒子のことで菅原だろうと思ったが、言われてみれば顔の作りや笑い方は確かに諏訪部にそっくりだった。ただ一つ、どう見ても女子に見えるという点を除けば。
「まあ、諏訪部は元々細せえしキレイな顔はしてるし、女装したらあんな感じになるかもなあ」
「・・・ウン」
「ていうかお前、諏訪部の女装姿めっちゃタイプって言ってたのウケるな??」
夜久がそう口にすると、黒尾は弁当を口に運んでいた手を止めて、ハタ、と硬直した。じわじわと瞳が見開かれていく。次の瞬間、パッと手の甲で口元を隠したと思ったら、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「バッ・・・!!」
「バ?」
思わず聞き返すと、ズザッと後ずさるように椅子から立ち上がる。ガターン!と音を立てて椅子が倒れて、教室中の視線が黒尾に集まった。
「バッカヤロー!!全然タイプとかじゃないですけど!?かわいい過ぎてやばいとかこれっぽっちも思ってませんけど!?」
大声で喚く黒尾に呆気にとられて夜久が固まっていると、自分の反応が墓穴を掘っていると気がついたのか、しおしおと身体を縮こまらせながら椅子を起こし、ゆっくりと席に戻った。その変わりように周りからくすくすと笑い声が起こる。そうして居た堪れなくなったのか、黒尾は両手で顔を覆ってしまった。
「・・・お前、諏訪部のこと、「何も言わないで夜っくん」・・・お、おう」
合宿の時も思ったが、黒尾、それ、耳隠せてないから意味ないぞ、とは言わないでおいた。