喫茶店で女子会

「雪野さんってさ、危なっかしいじゃない?」
「そーなのよ。本人全く無自覚なんだけどさ」
「私もよく手を引っ張ってたもの!」
「そうそう、放っておくとすぐ声掛けられたりとかね。こっちの身にもなってくれって感じよね」

この二人を出会わせるべきではなかった、というのはもう遠い昔(といってもつい2時間前くらいだけれど)に諦めた。蘭ちゃんにごめんねだけして、もうわたしはいつもの席に避難することに決めた。薄情者と言われようがこればっかりは性格の問題である。

「なんだか大変ですね」
「すいません、騒がしくして」
「構いませんよ。今は他のお客さんもいないですし」

洗ったグラスを拭いている安室さんは、興味深そうに園子ちゃんと一緒に盛り上がる友人を眺めている。その目の前のいつもの席に一緒に避難してきたコナンくんと共に一息ついて、コーヒーをひとくち飲み込んだ。美味しい、と思わず表情が緩む。こちらに向いていたらしい視線に気が付いて、カップに口をつけたまま見上げた。そこにはいつもの水色がこちらを柔らかく見下ろしていて、今日もきらきらと瞬く複雑な色が綺麗。ほろりとほころぶ微笑みが返ってきて、わたしの表情も緩んでしまう。こっそりと幸せを噛み砕いていた、その一連が、友人たちに見られているとも知らずに。



話は数時間前に遡る。

「え、雪野さんが友達連れてる」

いきなりそんな声のかけ方をする人間は、わたしの知る中では一人しかいない。

「園子!失礼でしょ!」

お店に入って一番にそんなことを宣った彼女の後ろから、プリプリと怒った蘭ちゃんが止めにやってくる。わたしは突然の園子ちゃんの登場に驚いたものの、彼女の暴挙には割と慣れているので怒る蘭ちゃんには苦笑を向けておいた。

「すいません邪魔して」
「あー気にしないで。良かったら一緒にどう?」
「お邪魔しまーす!」
「園子・・・」
「いいのいいの、蘭ちゃんもどうぞ?」

彼女達が入れるように奥に詰めると、蘭ちゃんが申し訳なさそうにしながら隣に座った。店内はもう私達以外には帰り仕度をしているおばあさんしかいなくて、お店はほぼ貸し切り状態だった。

「雪野さんにちゃんとした友達がいたとはね」
「失礼な。わたしだって友達くらい・・・」
「でも雪野が特別仲良くしてるのって私くらいじゃない?」
「・・・」

友人が少ないという自覚はあるものの、他人から指摘されるとどうもムッとくるのは何故なのだろう。別に良いんだけれど。
わたしを差し置いてなんだか意気投合し始めた友人と園子ちゃんは、なぜわたしがこの喫茶店に来るようになったかなど懇々と語り合い始めた。呆れたような視線を向ける蘭ちゃんに同意するように頷くと、タイミングを見計らっていたらしい安室さんが女子高生二人の注文を取りに来た。

「おかえりなさい、蘭さん園子さん」
「おつかれさまです、安室さん。アイスコーヒー二つお願いします」

慣れたように園子ちゃんの分まで注文を頼む蘭ちゃんに、お互い大変だねと肩を竦めた。言っても無駄なことはもう重々承知だった。

そんなこんなで冒頭に戻り、友人と園子ちゃんは気があう様子で語り合っているのである。話が恋バナちっくになってきたところで蘭ちゃんまで参戦しだしたので、わたしはこちらに逃げてきた次第だった。



「・・・なあに、あれ」
「やっぱりそう思います?」
「うん。あれで気が付かないんだから、もう犯罪よね」
「しかもあれ、安室さんも割と無自覚なんですよ」
「えっ、そういうの聡そうなのに」
「ね。意外でしょ」

だから、友人と園子ちゃんがそんな話をしていたなんて、わたしはさっぱり聞いていなかったのだった。



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