水葬した思い出

ホグワーツを卒業してから、シリウスやジェームズ達は、密かに打診のあったダンブルドアの率いる不死鳥の騎士団に参加した。直接死喰い人と戦うような立場となり危険は増すが、このまま闇に呑まれるのを黙って見ている事など出来なかった。シリウスにとって、それは何度目かの家との決定的な決別をも意味していた。組分けの時  家出の時  そしてこれが三度目だ  今や完璧に闇側へ加担するブラック家に、正面から立ち向かうこととなったのである。

「っ、リーマス!走れ!!」

バシッと大きな音がして、死喰い人が現れる。相手は四人で、シリウス達は不利な状況だった。逃げることを最優先にひたすら応戦しながら何とか二人倒したが、走る彼等の正面にまで現れた何者かに行手を遮られる。

「っ、はぁっ、」
「新手か、」

もう満身創痍だった二人にとって、新たな参戦者の登場には厳しいものがあった。これは危ないかもしれない、どうするべきかと考えを巡らせた時、正面の人影から放たれた赤い閃光は彼等の横をすり抜けて、背後の死喰い人に当てられた。

「ぐっ、!!」

予想だにしなかった方向からの攻撃に、無防備だった死喰い人が倒される。すぐにもう一発の閃光が襲い、もう一人も倒された。シリウスはその様子を呆然と見つめていたが、ハッと我にかえるようにして背後の二人を倒した人影へ杖を構えた。

「誰だっ?!」

隣に立つリーマスが声を荒げる。暗闇でよく見えないが、目深にフードを被った、細身の人物のようだった。もしかしたら、女かもしれない。確認しようと近寄ろうとする前に、その影はくるりと回ってその場から掻き消えた。

「なんだったんだ、彼奴・・・」
「女性・・・だったよね?」
「嗚呼、そうかもしれない」

二人は倒れた死喰い人を捕縛し、闇払いに連絡を取った。状況を説明するのはリーマスに任せ、シリウスは先程の人物が現れた辺りを一人睨みつけていた。顔も見えない、声も聞いていない、けれどその人影に、何かを見て。



暫くしてから、シリウスは弟が行方不明になったという噂を耳にした。学生ながらヴォルデモートに入れあげ、卒業前に闇側に入るという異例となっていながら、今季のイースター休暇を終えて彼が学校に戻って来る事は無かったという。・・・なぜ、あんなものに魅入られてしまったのだろう。姉と共に疎遠になってしまった弟。互いに素直になれずにいつも刺々しい会話しかして来なかったが、姉が大切だという、その点では限りなく一致していてよく手も組んだ。シリウスはそんな弟のことも、大切だったのだ。

「愚かな弟だ」

酷い死に方でもしたのだろうか。弟を失った姉は大丈夫なのか。いや、そんなこと、もう気にする必要など無いのに  姉も弟も、もう"敵"なのだから。



闇の勢力はどこまでも力を付け、騎士団は常に劣勢に立たされていた。何人もの仲間が死んだし、裏切る者もいた。もう、誰を信じれば良いのか分からない、そんな時代に、一つの吉報が舞い降りる。兼ねてから身籠っていたリリーが、無事ひとり息子を出産したというのだ。

「おめでとう相棒!!!」
「シリウス!!ありがとう!!」

早く親友の息子に会いたくてうずうずとしていたシリウスは、ジェームズの許可が降りるなり飛んで行った。久しぶりの明るいニュースに、他の騎士団員もここ数日は穏やかだった。

「この子が・・・名は?名はどうするんだ?」

紅葉のような小さな手を、必死に此方へと伸ばす小さな小さな命。親友と同じ髪色で、そしてその愛する妻の美しい緑の瞳を受け継いだ子供だった。リリーから、抱いてみてとそっと渡されたその小さな重みに、シリウスは胸の奥深くが熱く震える心地がしていた。

「君に  君に名付けて貰いたいんだ」
「・・・俺に?」

ジェームズが柔らかい微笑みを浮かべて、リリーを抱き寄せる。その申し出が信じられなくて二人を交互に見つめ、譫言のように良いのか、と呟くと二人ともが力強く頷いた。

「貴方に名付け親になって欲しいの」
「君に頼みたいんだ」
「嗚呼  、」

こんな幸せなことが、あって良いのだろうか。シリウスは瞼の裏に滲むものに熱くなりながら、腕の中の命をぎゅっと抱き締めて頷いた。

「最高の名前を贈らせてもらう…!」

それから数日後、悩みに悩み抜いてシリウスが決めた愛しい名付け子の名前が、

「ハリー。この子はハリー・ポッターだ・・・!」

あんな哀しい悲劇と時代の終焉の歓喜と共に、世に轟く事になろうとは思いもしなかった。



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