君を咬み殺す3 | ナノ




覚悟と証
〈……このヴィーラファミリーの業を背負う、覚悟だ〉

 凛とした表情で告げるマイラ、その黒い瞳をただ見つめ返す雛香。

「……業、ね」
 ふっ、と思わず口元が緩んだ。


 脳裏に浮かぶは、5年間の逃亡の日々。

 幼き雛乃の血まみれの両手、火をつけ破壊した己のアジト、『催眠』をかけ虚ろな目をした何人もの人々、
 騙し裏切り、逃げ切った5年間。

 そう、全ては雛乃のために。


「……俺は今まで、雛乃のためにいくつもの罪を重ねてきた。業も何も、」
 目を閉じる。
 体を支配していた痛みは、いつの間にか薄らいでいた。


「……そんなもの、今さらだ」


 雛乃を守るためなら、そう、なんだって。


〈あっは……あは、あはははは!!〉

「?!」
 突如響いた笑い声に、雛香はぎょっとし目を開ける。
 目の前、体を2つに折り笑う、雛乃に瓜二つの青年。確かレイラ、とか言ったような。

〈あは、ははは、ねね、僕君のこと気に入ったよ、デーチモ!〉
「?!」

 瞬きする間も無く目の前に現れた顔に、雛香は息を呑み反射的に後ずさる。
 だがそれを許さないかのようにレイラの腕が伸び、反応する前にぐっと腰を引き寄せた。

「なっ、何を、」
〈ふふ……そのマイラとそっくりな目も、弟を想うちょっとイかれてるレベルの愛情も、何よりその半端ない自己犠牲精神……うん、まさに僕の好みあだだだだっ?!〉
〈いい加減本当に消すぞ〉
〈や、待って待ってマイラ!目が怖いよ?!〉

 引き気味の雛香の前、思いっきり腕を捻りあげられ目をむくレイラ、その背後で冷ややかな顔をするマイラ。
 この2人が自分の祖先かよ、と雛香は頭を抱えたくなった。下手に見た目が似てる分タチが悪い。

〈……そうか、そうだな。お前の覚悟はもうとっくに決まっている〉
〈だねー。どーするの、マイラ?〉

 真顔に戻るマイラに、その腕にくっつき笑うレイラ。
 雛香が眉をひそめれば、ゆらり、双子の姿が再びまばゆく発光し始めた。

〈なら、お前に託そう……ヴィーラファミリーが過去に捨て去った、絆の証を〉
〈あとは我が血縁が犯した、愚かな過ちの償いを、ねー〉
 子どもの尻拭いは親がしなくちゃ、
 そう言いにっこり笑ったレイラの顔は、一瞬、確かに雛乃に被り、しかしブレた。

「……あかし、って」
 いよいよ眩しくて目が開けられない。
 手をかざし目を細める雛香の前で、凛とした声だけが響き渡った。

〈ヴィーラファミリーが過去にボンゴレファミリーより受け取った――強大な力を秘めた、リングだ〉





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