終わりなき追憶
「6丁目の工場跡だ。アジトへと6つある入り口の1つはここに出る」
「おい……ボンゴレリングはどーなってんだよ!」
「とりあえず並中行くか!」
「コラ!聞いてんのかてめっ!!」
「獄寺君落ち着いて!」
雲雀の手がかりを求めアジトの外に出たはいいが、なにやらさっそく喧嘩を(一方的だが)始める2人に、ツナは冷や汗をかいた。
少し落ち着きを取り戻した獄寺が、威嚇するように山本を睨む。
「ん、なんだよ獄寺」
「ボンゴレリングだっ!なんっでこの時代にねーんだよ!」
「あー、だいぶ前に砕いて捨てちまったんだよ」
「「なーーー?!!」」
青空に響き渡る、2人分の叫び声。
「あんなに苦労して手に入れといてー?!」
「だ、誰がそんなことしたんだよ!」
「うちのボスさ」
あっけらかんと返された言葉に、ツナは口元を引き攣らせた。
「……つまり、それって……」
「じゅっ……10代目がっ?!」
唖然とする2人を見、山本は愉快そうに笑った。
「守護者には反対する奴もいたんだが、そりゃーもーツナの奴譲らなくて」
「は、反対……」
「そーそー、周囲の奴らなんかもっとヤバかったんだぜ」
にかっと笑う山本の耳に、
ふっとよみがえる、聞き慣れた声音。
『……別に俺は反対しないよ。まー、価値はあるからもったいないとは思うけど……』
「……山本?」
顔をのぞき込むツナに、山本ははっと我に返った。
「あ、わりーわりー。ちょっとぼうっとしてた」
「……大丈夫かよこんなんで……」
けっ、と悪態をつく獄寺を、まあまあとツナが宥めにかかる。
それは、
少し前まで当たり前だった風景と、とても簡単に重なって。
『……山本のやろー、またカッコつけやがって……』
『獄寺を庇ったんだって?山本やるじゃん』
悪態をつく獄寺。笑う雛乃。
『別に必要なかったっつーの!何褒めてんだよ雛乃!』
そこへずい、と乗り出す黒髪の青年。
『俺の弟に手出す気か?いい度胸だな獄寺』
『今ので何をどうしたらその考えにたどり着くんだよてめぇは!そのブラコンいい加減どうにかしろ!』
『……3人ともちょーっと落ち着こうか』
噛み付く獄寺、苦笑混じりになだめるツナ。
そして、獄寺と睨み合う黒髪。
その視線が、
ふとこちらを向いて。
『山本、怪我は大丈夫なのか?』
『そりゃーもー』
あ、雛香が昼メシ食べさせてくれれば全快するかも。なんてふざけて付け足せば、
『へえ、俺はいいぜ?それで治るんなら安いもんだろ』
はっ、と笑った彼の顔は、この上なく綺麗で。
そうだ、それはもう戻らない風景だ。
けれど。
傍らの2人に目をやれば、随分幼くなった容姿ながらも雰囲気にあまり変わりはなく。
10年経とうとも、根本的なところは何も変わらないのだなと、山本は静かに微笑んだ。
脳裏に浮かぶ黒髪の笑顔に、泣きたくなる感情を抑え込んで。
「!」
突然、察した鋭い気配。一瞬で脳内が冴え渡った。
頭を支配していた追懐の情も哀惜も、瞬時に消え去る。
背後で目を見開く2人を庇うように出、肩に下げた刀に手をかけると山本は身構えた。
途端、
轟音とともに、眼前の工場が弾け飛んだ。