君を咬み殺す3 | ナノ




報告
「装置自体も問題なく作動してる。って言っても、白蘭サンとの戦い、問題山積みだな……」
「何か手伝えることがあるなら、手を貸すけど」
「!君は……」

 クシャクシャと頭をかいていた入江が、驚いた顔で振り返る。機材をいじっていたスパナも、ん。と短く呟き顔を上げた。

「雛香君……!」
「どうも。お呼ばれしたって聞いて」
「あ、ああ……。伝達は上手くいったみたいだね」
「伝達係が優秀だからな」

 言わずもがな、ビアンキのことである。

「で?」

 ざっと周囲を見渡し、雛香は首を傾ける。
 白い円形の装置に、伸びる無数の紐。じゃ、なくて有線か。
 その横、カタカタとパソコンを打ち鳴らすのは、棒キャンディーを咥えるスパナ。

 どうやら、作業は滞りなく進んでいるらしい。不眠不休らしいもんな、と雛香は聞いた情報を思い返しながら、片手に持っていた袋をガサリと揺らした。
 中身は食料に甘味、あとは飲料水とスコーンである。

「で、って?」
「俺に話があるって言うからさ。なんなのかな、と」

 不意に、パソコンを膝に抱えるスパナと目が合う。
 そのまま、何を思ったのか、相手はひらりと軽く手を振った。
 心底ぎょっとする。え、俺ほぼ初対面なんだけど。
 数秒迷ったが、雛香も結局、控えめに手を振り返した。

「……正直、言おうか迷ってるんだ。あまり、良い話じゃない」
「それはわかるよ。1人で来いって言われた時点で、心構えはできてる」
「……雛香君は、どう思ってる?」
「?何を?」

 ジジッ。
 佇む入江の背後、白い装置が小さな機械音を立てる。
 中には、10年後の雛乃がいるのだろう。自分を支え、励まし、微笑んでくれた優しい顔。
 最後に、お礼言いたかったな。
 そんな考えが、ふっとよぎった。


「――白蘭サン」


 ドクリ。
 心臓が、嫌に高鳴る。

「……白蘭?」
「そう。……白蘭サンについて、何か思うところはないかい?」
「べつ、に――」


 ――雛香チャン。
 白い髪。向けられる笑み。
 伸ばされる手。優しい言葉。

 ――君は、僕の側にいてくれるでしょ?


「……別に、ない、けど」
 きゅっと手を握る。語尾が小さくなったことに、入江が何か勘付かなければいいと思った。

「……そう」

 入江はこちらを眺め、何とも言えない顔をする。
 だが、それ以上追及しようとはしなかった。

「……話って、それだけか?なら、」
「心して、聞いて欲しいんだ」

 雛香は無意識に息を詰めた。入江が、じっと視線を向けてくる。
 その目には、今まで見たことのない鋭さがあった。



「雛香君。君は、……白蘭サンに、狙われている」



 どさり。
 手から滑り落ちた袋が、地面に静かに横たわった。





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